村人A、思い至る
ドアの向こうからドンドンとノック音が聞こえる。
「おい!開けろ!」
「この家には誰も居ません」
「わかりやすい居留守を使うな!」
ワタゲが後ろ足で砂をかけるそぶりをしている。
うんうん。気持ちは分かる。
「もしおまえのペットが魔物だとしたら、いつおまえを噛み殺すか分からないんだぞ!」
「……噛み殺す、ねえ」
ワタゲは正直、俺と同じくらい大きくなった。
爪だって鋭いし、牙も立派だ。
きっとワタゲが噛みつかなくても、今なら猫パンチの当たり所が悪いだけで俺のライフなんかはかなく散ってしまうだろう。
それに、ワタゲの中にもし邪悪なものがあったとしたら、放り出すんじゃなくて、俺がなんとかしてやりたい。
そう思うのが親心ってもんじゃないのか?
「うわあっ」
勇者の声だ。
スライムでも出たかな?
「あの、そのへんにクワとかあるんで……いや、あなた勇者なんだったら剣とかありますよね」
と、窓の外を見た俺は、
「え……?」
思わず声をあげた。
「ドラゴン?」
いくら俺でも分かる。
異常だ。
この村の周辺には強い魔物は出ない。
いいところで、村はずれの畑にスライムがわくくらいだ。
「そこの村人!」
「はい」
思わずドア越しに返事をしてしまう。
「いいからここを開けろ!」
「えぇ……うちのワタゲちゃんを攻撃しようとしたこと、万死に値すると思うのですが」
「あー! 分かった! 悪かった! だから開けろ!」
「……もうしない?」
「も! う! し! な! い!」
じゃあ、仕方ないなあ、ちょっとだけよ、とかんぬきを外した瞬間、すごい勢いでドアが開き、疾風怒濤の勢いで勇者が侵入してきた。
その後、地が震えるような鳴き声。
何だ? 何が起こってるんだ?
「村人……あの庭の宝箱のミミック、その獣がどこかからとってきたって言ったな」
「ああー。最近よく持ってきてましたねぇ」
「魔物っていうのは魔力に引きつけられるんだ。宝箱の周りにスライムがわいてなかったか?」
「そういえば」
でも、すぐにワタゲがデスなんちゃらで消滅させていたから気にしていなかった。
もしかして、宝箱が原因?




