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モノローグ:独白 ***

おいしそうなドラゴン。






と思った3秒後には、仄暗い絶望を感じていた。






そうだ、もう母さんはいないのだ。


きっと、大物だ、と笑って喜ぶだろうと思った。


その笑顔は今日はもうないのだ。


じんわりと涙がこみ上げてきた。




いつも一緒に食事をしていた母さんは、もう傍にはいてくれないのだった。


いなくなってからもう何日も経つのに、私はふとそのことを忘れていたのだった。








あのとき、私は母さんの年老いて痩せこけた頬に顔を寄せ、まだほんのりとあたたかい体と呼吸を合わせるようにして、一緒にその瞬間を待った。母さんは私の頭を撫で、結局亡くなる瞬間までそのままの格好だった。私の温もりと一緒に旅立ったのだった。




「***……あなたは大丈夫よ……だってあなたは、これから……」




私はぴったりと体を寄せながら、母さんの上下する胸がゆっくり静かになり、完全に止まってしまうのを見た。動かなくなったとき、私は悲しいと思うよりも先に、特別な存在だった物が、容れ物に変わったのを不思議に思った。


一万年生きる私たち精霊獣が、息をひきとるたった一瞬で、容れ物になったのが信じられなかったのだ。




しかしそれはやはり、容れ物になっても、特別な容れ物だった。


私は完全に母さんの呼吸が止まったのを知って、顔をあげた。


安らかな顔に微笑みが浮かんでいた。


その表情をまじまじと見たそのとき、初めて私は




「ああ、これが、悲しいか。」




と知ったのだった。










アーマードラゴンは私に気付いて、もう数百年前に廃墟同然になったこの祠の岩の間に潜り込もうとした。本能的に追いかけたくなって、霊力を使って動きを止める。手を伸ばすと爪が引っかかった。しっぽは長いから押さえやすかった。でも、ぎゅっと押さえつけたとき、柔らかくてよく縮む身がよじれた拍子に、しっぽがぷちんと切れた。


あ、と声をあげる暇もなく、ドラゴンは石を砕きながら逃げてしまった。




私は何ともいえないような痺れた気持ちで、とぼとぼと洞窟を後にした。




眩しい世界が広がる。どこかの村に続いているのだろうか。


子供を連れたお母さん。あるいは、家路を急ぐ村人。


みんな帰る場所があるのだ。








私は何を目的にすればいいか、ぼんやりと考えた。


生きる目的なんて、母さんが生きているときは考えたこともなかった。


唯一の自分の家族を失った今、私はそのことを考えざるを得なくなった。




飲まず喰わずでいられたのは3ヶ月だけだった。


いくら悲しくてもお腹は空くのだ。


ぼうっとした、痺れたような頭でも、お腹はぐうっと鳴った。


皮肉にも、私はそのおかげで自分が生きていることを思い出した。




失った目的をかかえたまま、私は空腹を満たすことを思った。


淡々と歩き続ける。


私には本能でそう分かった。


こんなにお腹が空いていても


「死ぬその瞬間まで、淡々と歩き続けろ」


という命令が、私自身の中からりんりんと響いているのだった。




だけどもう本当に絶望だ。


どこまで歩かなければいけないのか。


足の裏だってもう痛い。


私はついにうずくまり、歩くのをやめた。


もう歩く体力は無くなっていた。


歩けなくなったならもう仕方がない。




私はやるだけやったのだ。


空腹も極限に達していた。


目を閉じながら、もしかしたらもう開かないかもしれないなあと思った。


私の本能がすでに私を赦し始めていた。


だけど、それでもまあ、しかたないかと思った。


だって、私はもうやるだけやったのだ。


母さんがムコウで待っていると思えば、そんなに寂しくはなかった。




私は洞窟の前の茂みに身を隠すようにうずくまった。


降ってきた生ぬるい雨に打たれながら、ここで死ぬのだと悟った。


私は反射的に目を閉じ、薄れていく意識に身を任せた。



どこか遠くで、何かの息づかいが聞こえたような気がした。



自分が動物アレルギーなので、妄想と願望と欲望が多分に詰まっています。よろしくお願いします。

(毎朝5時の定期更新予定です)

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