WHITE TWILIGHT~黄昏のホワイトデーは想い出の場所~
すうっと音もなく、車は静かに停まった。
運転手の告げる料金を支払うと、私は車外に降り立った。
目の前のドアボーイが、かしこまって頭を下げる。
私は軽く会釈をすると、そのエントランスへと入っていった。
まず向かった先は、女性専用化粧室のパウダールーム。
鏡の前の円形の椅子に座り、メイクを念入りにチェックする。
いつもはチープな女子高生向けセルフコスメだけど、今日は違う。気合いが違う。
ママから借りたおとっときのメイクアップアイテム。
ラメが燦めくホワイトゴールドのアイシャドウを、黒のリキッドアイライナーとボリュームアップマスカラでキリリと締め、チークとルージュは華やかなロゼピンクをふんわりのせている。その仕上がり具合を確かめると、最後に最高級品『ゲラン』のお粉をはたき、透明に近い淡いピンク系のグロスで唇に艶を出した。
私は立ち上ると、全身用鏡の前にまるでいつものバレエのお稽古場のバーの横に立つかのように、すっと立った。
オフホワイトのミモレ丈フレアーワンピースを身に纏い、首にはピンクのバロックパールを二連でかけ、足下は本革の茶色いショートブーツ。上から、軽い一枚仕立ての紺色の大人プレッピーな長めのコートを羽織っている。そしてバッグは、今春らしいフューシャピンク色の小振りの型押しボストンを手にする。
総仕上げに、大好きなコロン『キャシャレル』の『アナイス・アナイス』を一振りかけた。
メイクも装いも、うん、完璧!
左手のブレスレット・ウオッチを見ると、待ち合わせの時間まで後ゆうに15分はある。
ここは、『クラウン・アソシアプラザホテル』。
たまにママとお茶に来たりする場所だけど、今日は特別な意味を持つ場所。
やっぱり、先に行って彼を待っていよう。
そう思い立ち、待ち合わせのロビーへと向かった。
◇◆◇
「直人くん!」
思わず声に出し、彼の元へと駆け寄る。
「もう来てたの? 私の方が絶対先だと思ってたのに」
「それは俺だって同じってことだよ」
ロビーのソファに座り、携帯を手にしていた私の『彼』直人くんは、ソファから立ち上がると、そう言って笑んだ。
「家にいてもなんだかそわそわして落ち着かないからさ。それに。今日は絶対、果南を先に待たせるわけにはいかない日、だろ?」
今日は、3月14日・ホワイトデー。
好きな男の子にチョコレートを渡した女の子にとっては特別な日。
すごくドキドキワクワクしてる。
今日のデートは直人くんが全てエスコートしてくれるのだ。
そのデートの待ち合わせ場所にここを指定した彼は、いったいどんなデートを用意してくれてるんだろう。
「すぐお茶にしたいところだけど、予約までまだ少し時間があるから、まあ、ここに座ってくれよ」
そう言いながら、再びふかふかの焦げ茶色のソファへと身を沈めた。
「果南。今日はいつにもまして、とっても綺麗だ」
眩しそうに私の瞳をじっと見つめながら、直人くんが言う。
彼のそんなストレートな言葉とまなざしに、私は思わずドキリとした。
……そんな瞳をして私を見ないで……。
「直人くんだって。いつもボロボロのジーンズなのに。アイボリーのスラックスなんて履いちゃって」
視線を逸らしながらつい、そんな軽口をたたいた。
「ドレスコードくらい俺も知ってるよ。五つ星クラスのホテルに、いくらヴィンテージ物だとしても破れジーンズはないだろ」
「直人くんはこういうホテルよく来るの?」
「よく、てこともないけど、果南がママと時々、お茶やショッピングに来たりするって聞いてるし、俺とも一度は、簡単なお茶してるだろ? 実は、今日はそこのロビーラウンジ『ヴィヴァーチェ』で、ホワイトデー限定の『苺尽くしのアフタヌーンティー』を予約しているんだ」
「え? 本当?!」
「ああ。それでいい?」
「うん! 嬉しい! 『ヴィヴァーチェ』の限定アフタヌーンティーなんて、滅多に頂けるものじゃないもの」
喜びを隠さない私に、直人くんも嬉しそうに笑う。
「じゃ、そろそろ行こう」
さりげなく私の肩を抱き寄せると、彼は私をこのホテルのメインロビーラウンジへと誘った。
◇◆◇
「さすがはホワイトデーの『クラウン・アソシア』だな。テーブルが満席だ」
「ほんとね」
案内された奥のソファ席に座りながら、そんな会話を交わす。
満席状態というのにこの空間は煩さを感じさせない。喧噪音といったざわめき程度で、むしろその音は耳に心地よい。やはり、一流ホテルのメインロビーラウンジの面目躍如といったところだろうか。
「果南。ドリンクどうする」
お水と一緒に運ばれてきたメニューを見ながら、直人くんが囁いた。
「私はやっぱりホットのストロベリーダージリンセカンドフラッシュにする。直人くんは?」
「うーん。俺は、ホットのストロベリーチャイにしよう」
アイコンタクトを交わすと、彼は軽く片手を挙げた。
サテン地のピンクのブラウスに黒のタイトロングスカート姿のスレンダーなウエイトレスが、すぐにオーダーを取りに来た。
「こちらのお席は、ホワイトデー限定・苺尽くしのアフタヌーンティー二名様でご予約伺っておりますが、お飲み物は如何致しましょう?」
「紅茶で。ホットのストロベリーチャイとストロベリーダージリンセカンドフラッシュを」
「承りました。お飲み物はフリードリンクになっておりますが、冷たいお飲み物と温かいお飲み物は別々にオーダー願います。ではごゆっくりお楽しみくださいませ」
一礼し、ウエイトレスは姿を消した。
「う~……緊張する!」
彼が息を吐くように、椅子の背へと身を預ける。
「直人くんでも緊張するんだ」
くすりと笑った私に
「なんだそれ?! 俺だって人の子だよ。それにこんなとこでの正式なアフタヌーンティーなんて、そりゃ緊張もするさ」
と、彼から抗議の声が上がった。
「だったら、無理しなくても良かったのに」
「……果南が絶対、喜びそうだったから」
彼がぼそりと呟いた。
しかし、次の瞬間にはもうそっぽを向き、拗ねたような顔をしている。そんな彼の横顔にも思わず見惚れてしまう私がいる。
彼……佐々木直人くんは、同じ桐桜学院高等科のクラスメート。二年生のクラス替えで同じクラスになり、夏休みに告白されてお付き合いを始めた。
直人くんを好きになったのは、他を寄せ付けないその類い稀なルックスに惹かれて、というわけでは無論ない。
彼の纏う空気……『オーラ』というようなもの。
外見・内面その両面から滲み出る人間性には、余人とは違う並々ならない何かがある。
「直人くん。ほら、ティーが来たわよ」
ウエイトレスが数回に渡り、銀製の三段重ねのプレートと二つのポットに二客のティーカップとその他、クリーマーやシュガーポットなどの茶器を運んできた。
「マイセンの『青い花』ね。私の好きな器だわ」
マイセン特有の透き通るような白磁に、青一色で花のモティーフが描かれているその一連の茶器は、その波を描くようなフォルムといい、上品でとても優雅だ。
「果南って、そういうのにもコダワリあるわけ?」
「え? カップの好き嫌いくらいはあるし、それにママが色々コレクションしてるから」
彼のカップにシナモンのスパイスが香るストロベリーチャイを注ぎながら、答える。
「どこまでも『お嬢様』だよなあ、果南って」
嘆息するように呟いた彼に、私も言った。
「直人くんだって、『お坊ちゃま』じゃない」
今日までの彼との、長いとはまだ言えないおつきあいの中でも、それはよくわかっている。
「直人くん。コンフィチュールは?」
「ああ、うん。少しいれようかな」
彼に傍らのガラス容器をすすめると、彼はその苺のコンフィチュールをスプーンで二杯すくい、カップに落としかき混ぜた。
私も苺のダージリンティーをいただく。
透き通った茶色の紅茶の中には赤い苺のスライスが浮かんでいて、視覚的にも美しく、ほのかに甘い。
「セイボリーは苺のサンドイッチにストロベリー・キッシュか」
「どちらも美味しそう」
「そうだな」
そんな会話を交わしながら、まずは銀の一段目をいただく。
サンドイッチはハート型の断面の苺に萌え、キッシュはマスカルポーネクリームとの相性がとても良い。
そして、私のお目当ての二段目はなんと言っても、ストロベリーとダブルチョコレートの二種のスコーンだった。
「スコーン、焼きたてね! まだほんのり温かいわ。クロテッドクリームもとっても美味しい」
嬉しそうに生クリームをのせた大好物のその焼き菓子を頬張る私を眺めながら、満足げに直人くんもティーカップを口に運んでいる。
直人くんとは、学園の友人達のスリリングな恋バナや、先日の学年末試験がやたらと難しかったこと。今年に入って始まった早朝補習講義のスパルタぶりや、SNSニュースのあれこれ……そんな話に他愛なく興じているが、やはり興味の中心はアフタヌーンティーだった。
私は、『苺とピスタチオプリンのミニパフェ』に手を伸ばした。
小さなグラスに緑色のピスタチオプリンが入っていて、上にピンクのストロベリーアイスクリームと苺が乗っているミニパフェで、彩りを添えているたミントの葉が清々しい。
「ん~~!」
一匙すくっただけでプリンはとろけそうで、ひんやりとしたバニラアイスクリームの食感も最高だ。
「ねえ、直人くん。これもすごく美味しい」
それはリコッタチーズで作られた苺のショートケーキ。爽やかなクリームチーズと甘酸っぱい苺のハーモニーが絶妙で、スポンジもとてもしっとりとしている。いくらでもすいすいと入ってしまいそう。
「こっちのも美味いよ」
直人くんは、まるごと苺と生クリームがたっぷり乗った苺のオムレットがお気に召したようだ。
食いしん坊の私たちは、お茶のおかわりをしながら、十二分にその『苺尽くしのアフタヌーンティー』を堪能していた。
しかし、ふとした……そう、それはまさしく天使が通った瞬間だったのだ。
あれほど盛り上がっていた場が、一瞬、シンと静まりかえった。
何かを口にしようとしたがうまくいかず、場がしらける。
「直人、くん?」
彼はいつの間にか顔つきを変えていた。
その場の空気を強張らせ、両手を組み、何かを考えている。
彼のその重いざらりとした手触りが何なのかを計りかねていると、彼はゆっくりと私の前に何かを差し出した。
「なあに? これ」
手に取ってみて、私は一瞬、顔色を失った。
「……これ。どういう意味……」
「果南が考えている通りの意味だよ」
それは一枚の、ここクラウン・アソシアプラザホテルのカードキーだったのだ……!
「23階に部屋が取ってある。果南が来たくないなら、キーはフロントに返して、そのまま帰ってくれて構わない。……でも。俺はずっと待ってる。果南が来てくれるのを」
ずっと……と言い残し、直人くんは伝票代わりのプレートを手に取ると、あっさりと席を立った。
レジで会計を済ませ、そのまままっすぐ奥のエレベーターへと消えてゆく。
その後ろ姿を私は、ただ呆然と見守っていた。
◇◆◇
2318……その数字が掲げられたドアの前にもうどのくらいこうして立っているだろうか。
この場所に来るまでにも長いこと『ヴィヴァーチェ』のあの席で、残されたまま一人、改めてオーダーした珈琲を私は二杯も飲んでいた。
気が遠くなるほど私は逡巡したのだ。
しかし。
遂に私はその部屋のドアベルを鳴らした。
バタバタと足音がして慌てたようにすぐドアが開き、直人くんが姿を現した。
「果南……!」
私を抱き寄せ、部屋へと引き入れる。
瞬間、クイーンサイズのダブルベッドがやけに生々しく目に入ってきた。
「果南」
直人くんは私を抱き締めながら、そのベッドへと私を押し倒した。
彼の顔を間近に見上げる。
彼の感極まった表情がそこにあった。
「来てくれると思ってた。果南は絶対、来てくれるって」
それまでの穏やかさとは一転して、直人くんはこれ以上はないほど激しく、私に口づけてきたのだ。
「……ン。直人、く……」
顔を背けようとして、その顎を掴まれ、無理矢理また前に引き戻される。
再び見上げた彼は、完全に『男』の顔をしていた。
濃厚で、とろける蜜のような時間が流れていく。
しかし、彼の右手が私のその柔らかい素肌に触れた瞬間
「ヤダっ……!!」
私は、はっきりと叫んだ。
どんと彼の胸を両手で突き、ベッドから逃れる。
「果南……?!」
困惑している彼を前にして
「直人くんの、直人くんの馬鹿っ……!!」
腹の底から思いっ切り、全身で私は叫んでいた。
「どうして直人くんはそうなの?! こんな……部屋の取り方、できるの。まるで大人の男の人、みたい。どんなに頑張っても、私……。私、そんなにオトナじゃ、ない」
拳を握り俯きながら、熱いものがぽたぽたと零れ落ちる。
「果南……」
「嫌っ!」
触れられた手を乱暴に振り払った。
それは断固とした拒絶の意志に他ならなかった。
「私、ついていけない……」
何かが私の中で壊れていくような気がしていた。
あの時、ロビーであれほど胸をときめかせていたあの高揚感はもう、どこにもない。
「私。……帰る」
くるりと背を向け、その部屋を後にしてエレベーターへと一目散にダッシュする。
降りてきたエレベーターに飛び乗ると、フロント階に着くまでのそのひととき、私はその場にうずくまり、メイクをしていることも忘れて一人、ただひたすら泣きじゃくった。
◇◆◇
ザザン……ザザン……
同じリズムを刻みながら同じ音が、まるでラヴェルの『ボレロ』のようにゆっくりと、しかし確実に、徐々に大きくなりながら近づいてくる。
耳に木霊するその波音をじっと私は聴いていた。
さっきまであんなに遠かった波間がいつのまにかもう、すぐ目の前まで来ている。
満潮を迎える頃には、この場所はどこまで海面に沈んでいるのだろう。
ここは去年の夏、初めて直人くんとデートした場所。
陽が落ちる黄昏時に。はっきり告白された想い出の場所……。
春分の日が近いこの頃、陽は少し長くなっている。
丁度今この時刻、西の海に落ちかけている夕陽が、目に染み入るように鮮やかでひどく綺麗だ。
直人くんが私をもう一度抱きたがっていることは、私だって気づいていた。
でも、この一ヶ月、ずっとそれには気づかないフリをしてた。
一ヶ月前のヴァレンタインのあの日、確かに私は直人くんの腕の中で『女』なったけれど、心はまだまだ『コドモ』だった。
躰だってそうだ。
あの時、身体を貫いたあの激痛。
あの痛みを思い返すと、再び抱かれることは、恐れ以外の何物でもなかった。
それでも。抱かれようと思った。
あのひとつになった後に訪れた幸福感を思えば、できることなら、直人くんに抱かれたかった。
でも。心はそう望んでも、躰が本能的に受け入れなかった。
私には、しょせん無理なんだ。
私は直人くんに釣り合う女じゃない……。
波はごく低いが、気がつくともう足下まで海水に浸かっている。
直人くん……。
ぐずっとまた泣き出しそうになっていた、その時。
「果南……!!!」
背後から私を呼ぶ大声がした。
ばしゃばしゃと水音がして、痛いほど右腕を掴まれた。
その勢いで正面を向かされ、両腕を揺すぶられる。
「果南!! 馬鹿っ! 死ぬ気か?!」
「嫌っ!! 来ないで。直人くんなんか大嫌い!!」
そんな言葉が口をついて出た。
「果南……頼むよ。ここで土下座でもなんでもする。だから頼むから、陸に上がってくれ。このままじゃ風邪ひくどころの騒ぎじゃなくなっちまう」
彼の声は悲壮なほど真剣で、そして腕の力とは反比例して弱々しかった。
そんな直人くんを目の当たりにして、私の躰から一気に力が抜け、頭と両腕がだらりと下がった。
直人くんは私の手をそっとひき、テトラポットへ連れて行くと私を座らせ、濡れたブーツを脱がせてくれた。つい先日、ママと一緒に選んだばかりのお気に入りの茶色いスプリングブーツは、海水で台無しになっていた。
「こんなに……冷たくなって……。まるで氷じゃないか」
彼は自分の掌の熱だけで、かじかんだ私の足の爪先を必死になって暖めようとしている。
しかし、早春の海に浸かっていた足の冷えはなかなか暖まりはしない。
「……果南が。そこまで思い詰めるなんて、正直、思わなかったんだ」
直人くんは、ぽつりと呟いた。
「ショックだった。「帰る」て果南が部屋を後にして、頭が真っ白になって。ハッと気づいて後を追った時には、果南はもう、どこにもいなくて……」
私の足を一所懸命さすっていた彼の手は、いつの間にか動きを止めていた。
「携帯オフってあるから、探したんだ。二人で行ったカフェ、お気に入りのショップ。果南の家にも電話して。帰ってこないし、携帯も繋がらないって、果南ママに果南パパが、すごく心配してた」
その一言で初めてパパとママのことを思い出した。
でも、今すぐ連絡をする気には到底なれなかった。
そして改めて、私の頭の中は直人くんのことだけで占められていたことを思い知った。
「……途方に暮れたよ。果南がどこか俺の知らない所で泣いてるんじゃないか。変な奴に絡まれてるんじゃないか。考えたら、胸が張り裂けて、気が変になりそうだった」
彼の声は、心なしか涙声に変わっていた。
「この海で果南を見つけたのは、半分は偶然だ。でも、傷ついている果南が最後に来るのは初めての想い出の場所しかないっていう虫の知らせのようなもの。半分は第六感ではっきりと、最後の最後でそう感じたよ」
彼は、私の両の頬をその大きな掌で包み、私の顔を見つめながら言った。
「なんとか、間に合って。無事で。本当に良かった」
彼の瞳が潤んでいる。
そして、座ったままの私をぎゅっと抱き締めた。
「果南! ごめん。果南の、オンナノコの、繊細な気持ちを思い遣ってやれなくて……。ただ、果南を抱きたい。自分のことしか考えてなかった。許してくれ」
「直人くん」
私は、両の掌でパチンと彼の両頬を挟んだ。
そのまま、ペチペチと彼の頬を叩く。
「痛いよ。果南」
そう呟きながらもされるがままになっている彼に向かって
「……わ、私。私は。わたしはもっとイタカッタんだからねっ……!」
初めて本音を口にしていた。
思えば、黙ったまま逃げていた自分も悪かったんだということに、その時、初めて気がついた。
「ごめん。果南」
彼は私を再び強く抱き締めた。
凍る手足もくすぶっていた心をも全て溶かしてゆく、包み込むような温かい愛を感じた。
「わ……たしも、ごめんね」
見つめ合う。
二人とも涙で顔がくしゃくしゃになっていた。
陽は沈み、濃い群青色の空の下、辺りはどこか薄明るい様相を帯びている。
そんな早春のトワイライト・タイム。
想い出の海辺で。
直人くんと私は、つきあって迎える初めてのホワイト・デーに、初めて犯した喧嘩の初めての仲直りのKISSを交わした。
本作は、知さま主催「ぺこりんグルメ祭企画」参加作品でした。
作中挿絵は汐の音さまに描いていただきました。
知さま、汐の音さま、そしてお読みいただいた方、どうもありがとうございました(^^)