プロローグ 田舎の醜男に手紙が届く
「へえ。ついに帝国が西大陸を制圧したのか。これはそのうち、俺達の大陸にまで侵攻してくるかもな」
俺、アルト・ベルグランデは若くして子爵家を継いだ、将来有望な若年貴族である。
と俺と直接会った事もない貴族が誇張して良い広めているらしいが、若い貴族のイメージと言えば爽やかで容姿端麗。俺は全くの真逆だった。
王都で歩けば通りかかった誰もが顔をしかめる程に醜い容姿。
服の上からでもわかるほど、どっかりと弛んでいる腹。
手足もとても長いとは言えず、身長も低いためずんぐりむっくりと陰口を良く叩かれる。
もう一つの通り名が【田舎の醜男】。酷い通り名だが俺にはぴったりだ。
「旦那様。王都、ジャスミン公爵家からお手紙が届いております」
「なに? このタイミングとなると……、例の婚約パーティの件か?」
執務室で作業していたアルトに手紙を届けたのは、白髪の老人執事セバスチャンだ。
たまたま拾って雇っているんだが、これが優秀で秘書の仕事も任せているほどだ。
それはともかく、セバスから手渡された手紙を見て疑問に思う。
ジャスミン公爵家とベルグランデ子爵家は代々、大した繋がりは無いはずだ。
最近で唯一関わりがあったのもジャスミン公爵家の娘が婚約パーティを開いたんだが、流石に辺境のド田舎領主の俺が王都まで行けるはずも無く、手紙で祝福の言葉と適当な祝い品を贈ったくらいだ。このタイミングでジャスミン公爵家から手紙が届くという事は、それがお気に召さなかったのかもしれない。
おそるおそる、封筒を開き便箋を読む。
先日は我が娘の婚約パーティへの祝福の言葉と祝い品、大変嬉しく思う。
書き出しから見ると普通にお礼のための手紙なのか?と思ったが、次からの文章を読んで驚いた。
しかしながら我が娘は馬鹿王子に婚約破棄をされてしまった。
このままでは娘は誰とも婚約する事が出来なくなってしまう。
そこで嬉しい祝い品を送ってくれた貴殿に我が娘との婚約の話があがったのだ。
手塩にかけた娘だ、当然断らないよね? そうだよね?
よし、では一週間ほど後に娘を花嫁修行のために送るので準備しておくように。
私もすぐに帰るが初日に挨拶に出向くとしよう。
たったそれだけの短いメッセージだったが、驚いたのは手紙の内容だ。
「婚約破棄だと……?」
今回の婚約は王位継承権第一位のリンブルト・グレージャスとジャスミン公爵家の一人娘 クリスティーナ・ジャスミンの縁談だったはずだ。
ジャスミン公爵家は王国内で最も発言力がある貴族と言っても過言では無い。
王家としても公爵家と深い繋がりを持ちたいと思うのは当然で、この婚約の話を聞いた時もそういった思惑がある事は読み取れた。
だが王子側から婚約破棄をするなど、王家に一切のメリットがない。
そもそも婚約といった約束事を国中に発表した後に破棄するなど、「王家は約束を破る」と貴族達に思われ信用の一部を失墜する事に繋がる。
いくら馬鹿王子とは言え、そんな愚行を本当にリンブルトがするか?
「……解せんな」
「私が調べましょうか?」
「ああ。頼む」
「かしこまりました」
全てを告げずとも理解したセバスは執務室を出ていった。
セバスは有能だ。五日とかからずに、この件の詳細を調べあげてくるだろう。
とにかく俺にも一週間後に来るという公爵とクリスティーナ嬢の出迎えの準備をしなければいけない。
重たい身体を起こして、俺は執務室を後にした。
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