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偽りの恋人  作者: 夏目 碧央
3/7

ずっと一緒に

 ナナは自分の部屋に入り、ベッドに入って電気を消した。じっと暗闇を見つめる。

「ヒロに本当の恋人が出来た・・・。」

ナナはそう呟いた。すると、ブワッと腹の底から不安が沸き上がってきた。ヒロが自分の元から離れていくかもしれない・・・ナナは横を向いて体を縮めた。嫌だ、嫌だ、とナナは声に出さずに叫んだ。ヒロとはずっと一緒に暮らしたい!

 待てよ、とナナは思った。相手は「男」なのだ。何も心配する事はない。嫉妬する必要もない。ヒロが外で男と何をしようが、必ずここに、この家に帰ってくる。この国が同性婚を認めない限り、ナナは安泰なのだ。ずっとヒロと一緒に暮らせるのだ。


 「おはよう、ヒロ。」

大きく伸びをしながら部屋を出たナナは、ヒロの姿を見てハッとした。

「あれ、出かけるの?」

「うん。品川さんと、ちょっと。」

ヒロはちょっとはにかんで、そう言った。パンツルックだが、ヒラヒラとしたブラウスを着て、イヤリングもして、薄く化粧もしている。

「じゃあ、行ってくるね。」

「うん、気を付けて。」

ヒロはニコッと笑ってから家を出て行った。今日は土曜日。二人ともお休みで、いつもならゆっくり起きて一緒にお昼を作って、食べたらショッピングに行って、時には映画を見たり、水族館に行ったり、美術館に行ったりする、土曜日なのに。

 ナナは独りぼっちの土曜日を過ごした。そして、それは翌週も、その次の週も続いた。

「大丈夫。土曜日は離ればなれでも、日曜日はずっと一緒にいられるんだから。」

ナナはそう、自分に言い聞かせた。


 しかし、その日曜日も怪しくなってきた。

「ナナ、ごめん。今夜泊まってくるね。」

ヒロがデート中にナナに送ってよこしたメッセージ。待っていたのに、とは言えないナナ。

「OK!楽しんで♪」

と、返すしかないナナ。

 最初は月に一度くらいだったお泊まりも、徐々に回数が増え、とうとう毎週になった。ナナは日曜の朝、のっそり起きては、

「大丈夫、私は妻なんだから。ヒロはちゃんと家に帰ってくるんだから。」

と、自分に言い聞かせていた。

 ヒロとナナは“友達同士”だ。ヒロは彼氏とのエピソードや悩み事など、ナナに何でも話した。ナナは今まで通り、ヒロの話に一緒に喜んだり悲しんだり怒ったりした。でも、初めての経験だった。二人の他に、片思いではなく両想いの恋人の存在が現れたのは。

「大丈夫。この国が同性婚を認めない限り・・・。」

ナナは何度もそう唱えた。


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