7 使命
ミゼルは満身創痍だった。もう立つことができない。
いつしかドラゴンたちは襲ってこなくなった。途中から彼ら同士で殺し合うようになったため、襲ってくる数が極端に減った。でもそれもやがて収まった。目の前には廃墟と化したテーゼル王国があった。あの豊かな自然は、無惨にも廃墟と化していた。暴走しようとしていた魔力は、気が付いた時には収まっていた。何年戦ってきたのだろう。時間の感覚が麻痺している。
「私は……助かったのだろうか。一度転生した身だから……魔力暴走の影響が少なかったのか。……だとしたらセリアも助かったのかな」
セリアもどこかで生きていることを願おう。だが自分も、もう長くはなさそうだ。体が動かない。目の前にあるハンクの腕は魔法で氷漬けにしてある。どこかに大切に保管したいが、体が動かないので、これ以上何もできない。嫌だ。このままハンクと別れてしまうのは。この腕とゾール紙は私が守りたい。誰かのものなんかにはさせたくない。ちゃんとハンクを弔ってお礼を言いたい。このまま、自分が朽ちていくのは耐えられない。
ミゼルは消えそうになる意識の中、セリアの父に教わった転生魔法で、この魂を繋ごうと思い付いた。だが、人間たちが絶滅していれば、この魂は容れ物がないまま何年も彷徨わなければいけない。もしかしたら、死ねないまま永遠に彷徨い続けなければならないかも知れない。その永遠は、苦しみとなって自らを崩壊させてしまうかも知れない。だがこれしか可能性がなかった。この魂を引き継ぐ人間を探さなければ、再びハンクに会うことができない。
そのドラゴンは、最後の力を振り絞って転生魔法を使用した。ドラゴンの肉体は生命活動を停止し、そのまま動かなくなった。その傍らには魔力で氷漬けにされた人間の腕があった。そのドラゴンから抜け出した魂は、途方もない長い時間この地を彷徨うことになる。だが、適合者が見つかるまで、諦めることなく彷徨い続ける。オットー山脈を超えて、どこまでも。
こうして、この地からドラゴンはいなくなった。最後まで生き残っていたドラゴンの肉体は、長い間そこに横たわっていたが、やがて朽ちていった。
それからまた長い年月が過ぎた。ドラゴンが土に還ったその場所に、ロクミル草の新芽が顔を出した。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
短いお話でしたがお楽しみ頂けましたか?
このドラゴンの魂の行く先や、生き残った人間たちのその後のお話が気になった方は本編の『ドラゴンがいなくなった世界』を読んで頂けたら幸いです。