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第六話・【俯瞰視点】虐められているおさげ眼鏡っ娘平民特待生と奪われたレポート③


話は少し前に遡る。


第三話でも説明した通り、貴族社会にまだ馴染んでいない平民と、貴族間の軋轢の解決は現場である生徒会の役目──ダナのことは当然ながら、生徒会長であるウィルフレッドも耳にしていた。


そして、勿論イヴもである。


イヴは影として、一年生の中に密かに入り込み、ダナやチェルシーなど学園に馴染むのが難しそうな生徒達の周囲を窺っていた。


ちなみにウィルフレッドは頼んでいない。

勝手に動く『影』。それがイヴ。

……『影』の定義が胡乱である。




ダナが嫌がらせを受けているのは既にわかっていた。

だが、本人が大事になるのを望んでいない様子。それが将来を見据えた考えと覚悟からと理解したウィルフレッドは、どうするかを悩んでいた。


平民女性であるダナが官職に就いた場合、ある程度の差別が先に待ち受けていることは容易に想像がつく。社会に出てからは学園のようには行き届かないことも。


有能な人物を潰したくはないが、ここで潰れる程度ならどのみち持たない。文官として勤める以外にも教師や研究者など、平民女性でも能力が高ければ働ける場所はある。

進路を変えるなら早い方がいいだろう。


とりあえず嫌がらせの証拠だけ集めて、一旦は様子を見ることになった。




ダナの歴史のレポートが奪われたのは、そんな矢先のこと。


池に捨てられたレポートはすぐ回収されていた。


「──さて、これをどうするか」


生徒会として表立って動くのは上記の面からあまりよろしくない。ダナ・スミス嬢にはそれとわからぬようにフォローを入れるに留めたいところ。

とりあえず教師には事情を説明し、彼女をあまり叱らないように伝えておくが……レポートをどうするかが定まらない。


特待生である彼女と貴族令嬢の履修科目量は違う。既に目は通したが、レポートはなかなかの出来。それなりに時間もかかっただろう。

様子をみるにしてもあまり負荷は掛けたくないので、レポートはさり気なく返したいところだ。


「殿下……案ずる勿れ。 私にお任せください」

「あっ、イヴ?!」


イヴはウィルフレッドから手元のレポートをササッと取ると、そう言ってどこぞに消えた。




──その結果がアレ。


更にもう少し遡ると、イヴの監視対象であるチェルシーは裏庭で友人達にパンを振舞っていた。


そこで異世界転生者である彼女が池を見て『金の斧・銀の斧』の話をしたことで、イヴはやってみたくなったのだった。




「……確かに生徒会とは関係なく見えるけどな!」


例の如く『お前は馬鹿かー!』等と言いながら、ウィルフレッドはビッタンビッタンのイヴの髪をタオルで乱暴に拭く。


「……私が水場でも有用に動けることがおわかりいただけたことと存じます」

「水中に忍ぶ命令なんて下すか!!」


その様をウィルフレッド護衛騎士、イスカは呆然と眺めていた。

シルヴィオならば微笑ましく眺めるところだが、イスカはまだ配属されたばかり……イヴの行動と、なんだかんだ言いながらもそれを受け入れるウィルフレッドについていけていない。


そんなイスカにセレーナが優しく肩を叩く。


「セレーナ嬢……」

「イスカ卿。 殿下の『生徒会とは関係なく見える』はお褒めの言葉。 ですが素直になれない上、なにより殿下はイヴ様がお風邪を召されることが心配なのです。……それを上手く言えず、御すことも素直に褒めることもできず、キツい言葉をひたすら喚き散らしてしまうやるせなさ……その自覚と後悔はあれど、照れと、照れを自覚しそれを悟られたくないあまりああなってしまうという悪循環……それを理解すれば、これはひたすら尊いお役目ですよ……」

「は……はぁ……」


正直なところ、イスカにはセレーナが何言ってんのかサッパリわからなかった。




──翌日。


「ダナ・スミス嬢は書き直したものを提出したようだ」

「あら……それは素晴らしいですわね」


ダナはイヴが作成した『ダナ・スミス風レポート』を使わなかった。

そのまま出してもまずバレなかったし、教師には既に『汚れたダナ・スミスのレポート』を事情を説明した上で見せてある。仮にバレたとしても、『生徒会が気を利かせて渡した』と思うくらいだろう。


それでも自ら作成し直したダナに、ふたりは感心した。

彼女はいずれ、立派な文官となるだろう。





ちなみに『ダナ・ス〇リーによるXファイル』はレインウォーター公爵家がダンジョンから拾ってきた謎の書物の複製品である。


メタなことを言うと、お若い方はわからないと思うので興味がある方は是非『Xファイル』でググるのをお勧めしたい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 追い付きました♪ とっても面白いです! ウィルフレッドのツンデレと、天然でぶっ飛んでいるイヴが可愛いです(*´ー`*) 『Xファイル』が懐かしいです。サブキャラ達の描き方がとても素敵だなぁ…
[良い点] 他の作品も大好きなのですが、こちらも大好きです ゆっくり末永く読めたらいいとおもいます
[良い点] 私は若く無いのでわかります。Xファイル。笑いまくりました。まさか正体がイブちゃん。面白いです。
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