第五話・【男爵令嬢チェルシー視点】転生ヒロインっぽい人とフラグ①
私はチェルシー・キプリング♡
晴れてこの春、王立アカデミーに入学することになったピッカピカの一年生よ!
ママと共に市井で小さなパン屋を営んでいたのだけれど、そこに『自分が父親だ』という男爵様が現れたの!
ママとパパは…(中略)…ふたりとも独身を貫き通し、再び再会したってわけ。
う~ん……これぞロマンス!!
そんなわけで、突然男爵令嬢となった私。
貴族学園である王立アカデミーに通うことになったのだけれど……
「──はッ!!」
入学直前、何故か道に落ちていたバナナの皮で滑って転んでしこたま頭を打ちつけた結果、突如思い出した前世の記憶……ッ!
(ここは……ゲームか何かの世界で、私はヒロインなのではッ?!)
そう、私は異世界転生をしていたのだ。
ヒロイン転生と思うのには理由がある。
平民からの、男爵令嬢。……そして学園。
私の設定がまずそれっぽい!!
そして、現世の私はそれなりに苦労はしているけれど……とにかく可愛い。
自分で言うのもなんだけど、その自覚があるからそこまで危険な目に遭わずに生きてこれたのだ。
いかにもヒロインらしく、『市井のアイドル♡チェルシーたん』などと持て囃されてきたので、人の優劣や力関係を見ながら極力上手く世の中を渡ってきた
──と言うとなんだか悪い女みたいだけど……商売やってて片親の美少女よ?ママも若くて美人だし。
身の安全と生活の両立の為には、当然大事なことよね!
(……でもこのままいったら、流行りのテンプレパターン『悪役令嬢という名の正規ヒロインにざまぁされるビッチヒロイン』まっしぐらなんじゃないかしら)
別にビッチじゃないけれど、平民と貴族じゃ距離感が違うものね。
わざと子供っぽい表情で庇護欲をそそる技は、市井の既婚者オッサン対象に身の安全と利益とを考慮して編み出した技だけど、学園にいるのは当然同年代の学生。
……これは危険ね、封印しなきゃ。
市井では女友達もそれなりにいたけど、貴族女子には好かれないに違いないわ。
だから仕方なく男子と話しているうちに『婚約者がいる方にあの態度!』『まあ!なんてふしだらな!』とか、なっていくんだわ、きっと。
大して知らんクラスメイトの婚約者の有無なんか知るわけないじゃないの。
いやでももしかして……みんな知ってるものなのかしら?
……やだー!貴族怖っ!!
(──フゥ……でも危ないところだったわ、気をつけなくちゃ)
男の子とは極力関わらないのが賢明な判断ね。なるべく優しそうな目立たない女の子にそっと話し掛けることにしよう。
近寄ってくる男子には少し前の流行りパターン、『フラグを叩き折る』方を選択し、さっさと卒業して田舎でパン屋でも開き、『スローライフ』を目指さなければ!!
あくまでもテンプレなのは想像力の欠如からでもあるけれど、これが何の世界だかわからないんだから仕方ないわね!!
──そんな私に最初のイベントらしきものが訪れた。
なんと昼の休憩でウッカリ眠ってしまい、昼食のパンをくわえたまま走った廊下の曲がり角での、目の前にイケメン!
きゃあぁあぁぁ!!!!
ぶっ、ぶつかるぅ~!?!?