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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生した女の子たち

アンリの人生

作者: 丸井うさぎ

01


 国境近くの小さな村でアンリは生まれた。


 村の隅っこにちょこんと建っているのがアンリの家。週に一度、街からやってくる商人がくれる甘いお菓子が大好き。アンリの家庭は裕福じゃないから、妹と悩みながら選んだひとつを分け合って食べるのが幸せ。

 たまに刺激を求めて入ってはいけないと言われている東の森の中に入ってみたり、商人の荷台に潜んでみたりと冒険はするけれど、どこにでもいるような天真爛漫な女の子。


 ただ、アンリにはひとつだけ誰にも言っていない秘密がある。


 16年前、この国ウィルムは戦禍に包まれていた。隣国ザンクスティルと戦争をしていたのだ。

 理由はよくあること。冬に港が凍ってしまうウィルムが、凍らない港を求めて宣戦布告。ザンクスティルに攻め入った。当時、大陸全土から「大国ウィルムには逆らうな」と恐れられるほどウィルムの軍事力は圧倒的だった。誰もが、ウィルムが勝つと思っていた。ザンクスティルの国民も負け戦だと嘆いていた。それを覆したのはたった一人の英雄。


 ヴィオラ・トイ。それが英雄の名前であり、前世のアンリだ。


 絶望的と言われた戦況をいくつもひっくり返し、ザンクスティルを勝利へと導いた。ウィルムの降伏宣言直後に死んでしまったが、アンリがたまに商人が持ってくる新聞を見ると、ヴィオラの顔写真に"ザンクスティルの悪魔"と書いてあった。10年経った今でもヴィオラの成したことはウィルムで語り継がれている。


(あの子、騎士団長として頑張ってるんだね)


 今日横目で見た新聞には、かつてのヴィオラの補佐官が騎士団長として出征したことが書かれていた。10年の歳月をしみじみと思う。アンリは文字を教えられたことはないから、不自然でない程度に新聞を見ているので詳細はわからない。それに知ろうとも思わない。


 懐かしく思うことはあるけれど、彼女はヴィオラではなく、アンリだから。



 そんなアンリは今日、12歳の誕生日を迎える。


 ヴィオラの頃は12歳に騎士団に入ったけれど、アンリは結婚して家庭に入るのが夢だ。そして今日、幼馴染のシリウスに大切な話があると言われた。


(多分、きっと、プロポーズのはず……!)


 桶に溜めた水で顔を洗って、ぐっと拳を握っていると妹のミミが後ろから抱きついてきた。


「おねえちゃん、おたんじょうびおめでとう!」

「わあ、ミミー! ありがとう!」


 わたしがいちばん! と鼻息荒く言うミミを抱き上げて、くるくる回る。桶の水が太陽の光を吸って、キラキラと揺れている。今日もきっと良い日になる。アンリは確信した。


 午前中の畑仕事を終えて、アンリはいつもの待ち合わせ場所に向かう。途中で友達からおめでとうと声をかけられるたびに、相手に抱きついてありがとうと言った。アンリはこの村が大好きだ。

 小高い丘を登るとシリウスが見えた。新緑の木々が揺れる中、一番大きな木の根本に座ってぼうっとしている。羊のようにふわふわした茶色い髪が風に揺れていた。


 シリウスは2つ隣の家の男の子。1ヶ月違いで生まれたアンリとシリウスは小さい頃から何をするにも一緒だった。女の子同士で遊ぶこともあるけれど、村の大人に秘密で東の森に入ったり、商人の荷台に潜んで街まで行ったり、ドキドキするような冒険をするときはいつも2人一緒だった。毎回大人たちに怒られるけれど、それでも毎回ぎゅっと手を握って冒険に出かけた。冒険の計画を立てるのは、いつもこの丘の上。


 足音が聞こえたのか、ふっとシリウスがアンリの方に目をやる。薄いグリーンの垂れ目がすっと細くなり、へにゃり、と効果音のつきそうな笑顔になった。アンリは最近、この笑顔を見ると胸の鼓動が速くなる。


「シリウス、おはよう」

「おはよう。今日もいい天気だね」


 アンリはシリウスの隣に座る。上に目を向けると、緑に輝く木々の隙間から太陽の光が差し込んでいる。風に揺れてキラキラと光る様はまるでお昼に見えるお星様だと思った。


「アンリ、今日誕生日だよね。おめでとう」

「ありがとう!」

「もう誰かからお祝いされた?」

「うん、ミミとお父さんとお母さんとーー」


 いつも通り穏やかなテンポで会話を繰り広げる。けれど、アンリはどこかドキドキしてしまってシリウスの顔が見れない。芝生に置いた手を閉じたり開いたりして気を紛らわせる。


(大切な話ってプロポーズだと思ってたけど、もしかしてそうじゃない、かも?)


 どうしよう、私だけ舞い上がってたかな。でも去年の星祭りで黄色いお花をくれたし、私も刺繍をしたハンカチを渡したよ。それって村の風習でいうと両思いってことだよね。

 アンリがぐるぐると考えていると、左手にそっとシリウスの右手が重ねられた。思わずシリウスの方を見ると、頬が真っ赤に色づいている。それはアンリと同じくらいの赤さ。りんごが2つ、見つめ合う。


「大切な話、って言ったことなんだけど」


 シリウスがゆっくり息を吸う。少しの沈黙、新緑の葉っぱが風に揺れる音だけが聞こえた。


「僕、アンリが好き。ずっと一緒にいたいって、思ってます。結婚してくれませんか」


 さあああ、と風がふいた。アンリは視界が膜に覆われたように、シリウスの顔がぼやけてしまう。瞳の上でぷるぷると震えた膜は、そのままぽつりと頬に零れた。風が吹いても頬はとても熱いし、耳すらも熟れたように赤くなる。早く返事を返したいのに、胸が、喉がきゅっとしまって何も言葉が出てこない。


「ああ、アンリ、えっと、いやだった?」

「ううん、私もシリウスとずっと一緒にいたい。お願い、しますっ!」


 嬉しくて嬉しくて、自分でも思ってたよりシリウスが好きなんだ。涙をぽつぽつと流し続けるアンリに困った顔をしたシリウスがコツンとおでこをくっつけてきて、「これからよろしくね」と囁いた。シリウスの柔らかい瞳の中にアンリの顔が映る。みっともなく泣いているその顔を見たくなくて、アンリはそっと目を伏せて笑った。




02


 村の大人や友人たちに「そうだろうね」「やっとか」という顔をされながら祝福されたアンリたちは、式に向けて街に花嫁衣裳を仕立てに行くことになった。アンリのお父さんとお母さんがひっそりと貯めてくれていたのだ。

 両親に行ってらっしゃい、と優しい笑顔で送り出されーーお母さんに一緒に来てくれないかと聞くと「あなたたちはよく街に行ってるから勝手はわかってるでしょう」と怖い笑顔で言われたーーシリウスと街へ向かう。


 雲ひとつない青空の下、いつもの冒険のように手を握って、街を歩いた。今までのどの経験よりも街の中が色彩豊かに、キラキラと輝いて見えた。初めて入った仕立て屋さんはとても緊張したけど、シリウスがそばにいてくれるだけでアンリは安心できた。


「シリウスー、ミミへのお土産どっちがいいと思う?」

「うーん、ミミは元気だからちょっと動いても外れなさそうな右のやつがいい気がするよ」

「そうだね、ありがとっ! おじさん、こっちくださーい!」


 ミミへのお土産に赤色の髪飾りを買って、アンリたちは村への道を急ぐ。街と村の間は乗合馬車で移動するのだが、村から乗合馬車の乗り場までも少し距離がある。村の西の森を開いて作った道だ。「アンリ、ドレス似合ってたよ」「う、嬉しい」なんて話しながらゆるやかな坂道を歩いて帰る。


 その途中、ぞく、とアンリに悪寒が襲った。ぶわりと全身の毛穴が開く。嫌な予感がする。いや、予感じゃない。これは、この匂いは、どこかで嗅いだような。アンリがぎゅっとシリウスの手を強く握ると、それに気づいて心配そうにグリーンの瞳が揺れた。


「アンリ、どうしたの?」

「は、」


 うまく呼吸ができず、ガタガタと震えてしまう。


「疲れた? ちょっと休もうか」


 舗装されていないでこぼこな道の端に寄って、アンリを座らせ、左手でゆっくりと背中をさする。右の手は繋いだままだ。初めて繋いだときアンリより小さかったシリウスの手は、いつの間にか手を包み込めるくらい大きくなっていた。シリウスが背中をさするリズムに合わせて、ゆっくりと呼吸を整える。すると、村の方から足音がした。ざわざわと森が揺れる。


「あれ、誰?」


 シリウスの声が固くなる。足音の方向を見やると、髭面の男がニヤニヤと笑いながらアンリたちの方へ向かってきていた。


「子供2人か〜。村の奴らは他に取られちまったから、まぁあいつらでいいか」


 そう言って男は腰から銃を抜く。その瞬間、シリウスがアンリを庇うように立った。


「どなたですか? 僕たちに何かご用でしょうか」

「おお〜、嬢ちゃんを庇うのか。若いっていいねぇ」


 シリウスの問いかけに男は答えない。まるで目の前の人間を、自分と対等の人間と見ていないようだとアンリは思った。1週間前、ミミが水に溺れる蟻を見て「おぼれてるー」と死に至るまでのその様子を観察して実況していた。この男の心情は、まさにそれだ。アンリたちを蟻としか見ていない。

 そして、ミミは積極的に殺そうとしなかったけれど、この男は私たちを殺そうとしている。


「アンリ、走れる?」


 男の異様な空気を感じ取ったのか、シリウスが問いかける。


「走れる。だけど、シリウスも一緒に」


 アンリがくい、とシリウスの服を引っ張ると、優しくその手を外される。その時に、手に何かを握らされた。そっと見ると、アンリのくすんだ赤髪に映えそうな水色の髪飾り。いつの間に買ったの、とか、ありがとう、とか。色々と言いたいけれど、なんで、どうして今渡すの?


「アンリに似合うと思って買ったんだ。持ってて」

「だめ、一緒に」

「合図をしたら走って」

「やだ、シリウスがいないと」

「大丈夫だよ、すぐにアンリに追いつくから」


 シリウスの、アンリに言い聞かせるような柔らかい声に、ぐっと息を詰める。


(ああ、どうして今私はヴィオラじゃないの。どうしてこんな細い腕で、どうして剣の一つもないの!)


 カチャ、と音がした。男が銃を構えた音だ。


「今だ! 行け!」


 やだやだ、シリウスを残すなんて! シリウスがいないと私は生きてる意味がない! そんな気持ちを押し殺してアンリは走った。人を守ろうとする覚悟の尊さを知っているから、シリウスを残して走った。後ろで銃声が聞こえる。一発、二発、三発。そのうちの一つがアンリのふくらはぎをかすめた。けれど大丈夫だ、まだ走れる。


 アンリは森の中を駆ける。枝が頬を弾いても、靴が脱げて足の裏に小石が食い込んでも、走り続けた。どれくらい走っただろう、足元に太い枝が落ちているのを見つけた。それを手に取る。ただの太い枝。剣の代わりになんかならない。けれど、これでシリウスを助けにーー。


「おぉ、それで何かできると思ってんのかぁ?」


 背中から聞こえてきた声にアンリの息が詰まった。振り向くと、あの男が立っていた。


「し、シリ、ウスは」

「あの少年か? 一発で仕留めたぜ〜」


 バキュン、と言いながら男は銃を撃つふりをする。その姿を見て、アンリは自分がどんな感情を抱いているのか、どんな顔をしているのか、全くわからなくなった。ただ、目の前が真っ赤になって、気づくと飛びかかっていた。


「あああああああ!!!!」

「おっと〜」


 バン、と音がした。腹が熱を持つ。けれど、アンリには関係ない。何度撃たれても足は止めない、止まらない。こんな枝で何ができるんだ。けれど、感情を抑えることができない。絶対にこいつを殺す。

 そのとき、目の前にでニヤついていた男の首が飛んだ。下品な笑いを浮かべたままの顔が地面に転がる。転がっていく首を目で追おうとすると、途端に視界が霞んだ。


「おい、無事か!?」


 シリウスの柔らかいものとも髭面の男の濁り切ったものとも違う声を遠くに聞きながら、アンリは意識を失った。 




03


 ヴィオラは貴族の娘だった。辺境の土地を治める、政にあまり関与しない貴族。権力こそないものの、毎日お菓子を食べられて好きなドレスを着れるような裕福な暮らしができていた。

 ただ、ヴィオラは淡い色したマカロンを食べたりキラキラとした飾りがついたドレスを着たりするよりも、男の子のような格好をして剣を振り回すことが好きだった。


 小さな頃から兄を真似て剣の腕を磨いていたヴィオラは両親の反対を押し切ってザンクスティルの騎士団へ入る。幸い、人手不足の騎士団の入団試験は身分や性別を問わず実力があれば受かる者だった。入団の際に両親から勘当をされたが、正義感に溢れるヴィオラは、自分の存在意義を剣の道に見出していた。「私は国のために命を使いたい」。その頃のヴィオラの口癖だ。


 実際、ヴィオラは秀でていた。性別のハンデを物ともせず、力には技で対抗することで勝利を掴み取る。同年代の騎士の中でも敵なしと言われていた。

 ただ、「女性は家庭に」と言われていた当時、女性が騎士団へ入団できる制度はあったものの、騎士団に入る女性など稀だ。時には心ない言葉を投げかけられることもある。それでもいつも朗らかに笑い、凛と背筋を伸ばして歩き、そして模擬試合で2倍ほど体格の違う騎士を打ちのめした。他者からの言葉なんて気にしないような顔をするヴィオラに、嫌がらせはエスカレートしていった。


 そんな中、ウィルムからの宣戦布告があった。


 「私は国のために命を使いたい」。常日頃からそう考えていたヴィオラはいの一番に前線への出征を希望し、戦地に向かう。


 戦地では嫌がらせなんてものはなかった。それもそのはず、大国ウィルムの負け戦に初っ端から送られる者はいわゆる捨て駒。なんの後ろ盾も無い庶民ばかりだ。ヴィオラを貶す者の多くが貴族であり、貴族は権力に守られていた。出征したとて前線には出てこない。また、戦地では味方に嫌がらせをするほど体力や精神力が残っている者もいない。

 「生きて帰るためにはどうするか?」。前線に送られた騎士たちはただそれだけを考えていた。


 その中で、ヴィオラは違った。「どうしたら勝てるか?」。彼女だけが勝利を考えていた。


 隣で鼻水を垂らしながら小便を漏らす少年騎士を横目に、冷静に敵を分析する。敵の人数、陣形、指揮官はどこにいるのか。海のように深く青い瞳が静かに揺れていた、とは後の少年騎士の言葉だ。


 戦況を分析し、戦術を立て、上官へ伝えようとした。しかし、ただの女騎士であるヴィオラに上官に会う機会などない。敵を倒す気概のない同僚たち、無能な策を打ち出す指揮官。ヴィオラは勝つために、決断する。「勝てば正義でしょう」。この頃のヴィオラの口癖だ。事実、ヴィオラが指揮官を殺した事実は歴史書では抹消される。

 そして、後にザンクスティルで語り継がれる英雄譚で有名になるセリフはこの頃生まれた。


 「死にたくない者はついてこい、死にたい者はそこから動くな。私が殺してやる」。


 事実としては、ヴィオラについていった者も大量に死んだ。だが、着実に勝利を重ね、敵を退けるヴィオラに戦地は湧いた。無駄死にするよりも、1%でも生きる可能性があればそちらの方が良い。何よりヴィオラは後方で指揮をとるのではなく青い瞳を煌めかせながら自ら一番前で敵に突っ込んでいく。それが騎士たちの士気を高めた。


 一人では大軍に勝つことはできない。だが、一個師団あれば、戦況はひっくり返せる。"ヴィオラ・トイまたしても勝利"、"ヴィオラ・トイに栄光あれ"。ヴィオラの名前がザンクスティルの新聞の見出しを飾らない日はなかった。いつしかヴィオラの名前が英雄へと変わり、その名が敵国のみならず周辺諸国に轟いた頃、ウィルムは降伏宣言を出し、平和協定を結ぶ席にヴィオラを含むザンクスティルの要人を招待して殺した。


 ヴィオラの最後の言葉はーー



「おい、大丈夫か?」


 軽く揺すぶられ、アンリは目を開けた。一番に視界に飛び込んできたのは40代くらいの男の顔。誰だと聞こうと息を吸い込むと、脇腹を抉るような痛みが襲う。


「あああっ」

「大人しくしてろ。まだ傷が塞がってないんだ」


 そう言って男は飛び起きそうになっていたアンリの背中にクッションを入れていく。そして、ゆるやかに上半身だけ起こした形になったアンリの汗を拭く。


「酷く魘されてたから起こしちまった。すまんな」

「……いえ」

「飯だ。食え」

「どこの、誰が作ったかわからないもの、食べちゃだめって」

「食わねぇとお前は回復しねぇし、回復しねぇなら説明できねぇ」

「……」


 男が鍋からスプーンで掬って差し出してきたそれを、恐る恐る口に含む。粥のようだった。アンリがもぐもぐと咀嚼して、質問しようと口を開くと男はまたスプーンを突っ込んできた。それを繰り返して、お腹がいっぱいになったら少し眠たくなってしまって。目を瞑った。毒じゃなさそうだし、この男は私を殺そうとはしていない、よね。回復してから全て聞こう。回らない頭でそう考えて、ゆっくり眠りについた。

 



04


 その男は、ジャクソンと言った。アンリが寝ていた場所は街の病院で、ジャクソンはそこの医者だった。

 アンリの身の回りに起こったことについて説明してくれたが、ジャクソンの話は現実味がなく、アンリはなかなか飲み込むのに時間がかかった。

 故郷の村は焼かれ、生存者はアンリ一人だというのだ。

 原因は隣国ザンクスティル。16年前に結んだ休戦協定を破って攻めてきたらしい。と言っても、実際に村を襲ったのは山賊の姿をした奴らであったため証拠はない。だがアンリは傭兵を雇ったと確信している。なぜなら、ヴィオラのときによく使っていた策の一つがそれだから。


 "戦時中であっても非戦闘員を攻撃することはあってはならない"。それは大陸法で定められている。しかし、その時点で非戦闘員であっても将来はどうだろうか。戦闘員にならないとは限らない。

 だから、ヴィオラのときは徹底して非戦闘員も殺した。大陸法を犯すことは勝利の条件としてあってはならないことなので、傭兵を雇い、山賊のような格好をさせて皆殺しにしていた。


 傭兵と山賊ではどうしても闘い方が異なる。アンリが相対したあの髭面のニヤケ男は、格好こそ山賊だったがどこかで訓練を受けたような身のこなしをしていた。すうっと血が冷たくなる感覚がした。


 あのニヤケ頭の首を横一閃したのはこの街の駐屯兵だったそうだ。アンリの目が覚めて2日後に訪ねてきた。


「もうあんな無茶はしてはいけませんよ」


 週に2回ほどの頻度で訪ねてきてくれるその人はルーゴといった。どうやらルーゴ自身も戦闘により右腕に深い傷を追っていたため、通院しているそうだった。ルーゴはよくアンリの頭をぽんぽんと撫でていく。

 ルーゴは包帯が取れても訪ねてきてくれた。暑い日でも軍服を上まで留めて、とろけるようなミルクブラウンの髪をしゃきっと撫でつけているルーゴは見た目通りきっちりとした性格で、どうやら助けたアンリが天涯孤独の身になったことを憐んでいるようだった。ママレードのような色をした瞳に心配と同情の色をうつしながら、いつも具合はどうだと聞いてくる。まだ村のことを、シリウスのことを現実と思えないアンリは、ルーゴの言葉を右から左に聞いていた。


 病室の窓から見える青々と生い茂っていたりんごの木の葉が力を無くして枯れていく頃、アンリは退院の許可が出た。ルーゴの話を右から左へ聞き流していた間に、就職先が決まっていたらしい。退院の日、これから部屋と就職先の居酒屋に行きましょう、とルーゴが訪ねてきた。私服であることから休みをとってきたようだ。どこまでも面倒見の良い男である。

 荷物をまとめたアンリはルーゴを振り向く。


「ルーゴさん、村を見に行きたいのですがついてきてくれませんか」


 ママレードの瞳が困惑に揺れる。


「あまり、良い気持ちになるものはありません。行かない方が良いと思います」

「私が前に進むために見たいんです、お願いします」


 ものは言いようだ。きっちりとセットした髪をくしゃりと崩して、ルーゴはため息を吐いた。


「いいでしょう。荷物は一旦ここに置いておきましょうか。ジャクソン、良いですか」

「ああ、すぐ戻ってこいよ」


 扉のそばにいたジャクソンが頷いた。



 駐屯兵の給与は低いんです。ルーゴは言いながら乗合馬車の代金をアンリの分も支払った。そういえば病院代はどうなるのか聞くと、ツケという形らしい。だから居酒屋で頑張って看板娘になるんですよ、とルーゴが頭をぽんと撫でてくる。


 シリウスを置いて逃げた場所、焼け野原になっている村、色々見て回った。かつてシリウスと笑い合った小高い丘は、シリウスがよくもたれていた大木に銃痕が残っていた。誰かがここまで逃げて、殺されたのだ。


「生存者って、本当に私だけなんですか?」

「村の戸籍は管理しています。遺体の数はあなたを除いた数に合致しました」

「みんなの遺体って残ってるんですか?」

「すべて土葬してあります」


 眉を顰めながらルーゴは苦しそうに話す。


 空を見上げると、今日も今日とて突き抜けるような青が広がっていた。あの日も、雲ひとつない青空だった。虐殺に天気なんて関係ない。晴れでも雨でも曇りでも、人が死ぬときは死ぬし、殺すときは殺す。


「ルーゴさん、もう一つお願いしたいんですが」

「なんでしょう?」


 ルーゴを見つめる。この人は私に同情するような優しい人だ。今から私はその優しさにつけ込む。


「軍に入りたいです」

「それはいけません。復讐は誰も望んでいません」

「そうですね。死んでいったみんなはきっと、復讐なんて望んでいないです」

「でしたら、」

「復讐ではなく、守りたいんです。私のような人をもう二度と出さないためにも、私は人を守りたい」


(嘘だ。復讐のためだ。お父さんもお母さんも、ミミもシリウスも、みんなは復讐を望んでいないかもしれない。けれど、私が復讐を望んでいる)


 どす黒い復讐の炎を隠して、アンリは話を続ける。


「ずっと考えてました。軍に入った方が治療費も早く返せますし、こう見えて剣術にも覚えがあります。今は少し筋力が劣っていますが……」

「この国で女性が軍に入ることは、難しいですよ」

「教えてください。どうすればいいですか。私、なんだってします」


 目の前の優しい人は、きっと葛藤している。そう感じたアンリは、あと一押しをしようと目を潤ませた。


「それが私が生き残った使命だと思うんです」


(復讐を行うことが、使命だ。私がヴィオラの記憶を持って生まれたことも、きっとこのためなんだ)

 

 沈黙の後、静かに頷いたルーゴを見て、アンリは俯き笑いを噛み殺す。復讐を遂げられる自信しかない。




05


 そこからの年月はあっという間だった。


 アンリは1年かけて筋力をつけ、ヴィオラの際に培った剣術の感覚も体に落とし込んだ。全盛期までは程遠いが、騎士団に入った当時くらいのヴィオラなら良い戦いをできるのではないだろうか。それに、あの頃も十分に強かったけれど、今は原動力が違う。人を守るためと人を殺すため、ヴィオラの補佐官は守るための剣は強いと言っていたけれど、アンリは殺すための方が強いと思う。だって、どこまでも攻撃に転じることができる。

 攻めに特化していくアンリを見て、ルーゴはどことなく危うさを感じていたようで、稽古終わりの夕食時に自分を大事にと何度も何度も繰り返した。


 アンリが入隊試験に挑む1ヶ月前に女性の入隊が可能となった。

 そもそも女性が入隊できないということを知らなかったアンリはルーゴに聞くと、戸籍を男性にして入れようとしていたと知った。そこまでアンリの覚悟を思ってくれていたとは知らず、困惑したアンリはぶっきらぼうに感謝を伝えた。村で天真爛漫の代名詞だったアンリだが、感情表現の仕方がわからなくなっていた。まるでシリウスを失ったあの場所に感情を置いてきたかのように。


 入隊後、アンリはめきめきと頭角を表す。

 ヴィオラのときのように、むしろそれ以上に心ない言葉を受けたが、どこの国でもそういうものなのかとアンリは気にも留めなかった。実はヴィオラのときは毎回傷ついていたし、部屋で泣くこともあったが復讐のことしか頭にないアンリにとって外野の声は鳥の囀りと一緒だった。


 ヴィオラのとき、暴行を受けたこともあった。貴族相手だからと部屋でめそめそ泣くことしかできなかったが、アンリは違う。貴族に歯向かって除隊になるとしても、この体をシリウス以外に穢されたくない。アンリは常に訓練用に切先を潰した剣を持ち歩き、襲ってきた貴族を容赦無く叩きのめした。相手の男性器を潰そうとしているところを蒼白な顔をした同期が止めたことで事なきを得たが、この一件でアンリには手を出してはいけないと軍内部では噂になった。


 ヴィオラのときに行ってなかったことをもう一つ行った。根回しである。

 英雄と呼ばれたヴィオラの戦術を支えたのは、情報だ。敵の数、指揮官の癖、天気、そして寝返るような奴がいないか。細部まで神経を尖らせて情報を収集し、緻密な戦術を組んだ。ヴィオラのときは幸運なことにたまたま身近に権力を持った共犯者がいたからそれも可能だったが、アンリの今は違う。

 奇跡は作るものだし、幸運は掴みにいくものだ。軍上層部に取り入るため、寝食を惜しんで駆け回った。貴族を叩きのめしたにも関わらずアンリに罰則の一つもなかったのはこの根回しによるものが大きい。


 そして、いくつかの村がアンリの村のように焼かれていく中で、ザンクスティルの傭兵が行なったことだと証拠を掴んだウィルムは正々堂々と宣戦布告を行う。アンリはもちろん、前線を志願する。




06


「う、うあああああ」

「ヴィオラ様!」

「やめろ、やめろ! 消えてくれ!」


 ヴィオラ・トイは英雄でもなんでもない。ただの人間で、ただの女の子だった。騎士団に入ったのは"弱者を助けたい"と思ったから。人を殺せば賞賛される戦場において、ヴィオラの心はボロボロに壊れていった。目を瞑ると、今まで殺した人の顔が浮かぶ。

 泣き叫ぶ青年、足の悪い老人、子供を守って死んだ母親ーー守られた子供も結局は殺したーー、恨みから敵を生み出さないために、滅ぼすときは徹底的にやるのはヴィオラが決めたこと。非戦闘員に攻撃を加えてはいけないとは大陸法にあったが、勝つためには仕方がなかった。山賊を装って村を滅ぼすとき、ヴィオラ自らが赴くこともあった。


 勝つこと。それが、ザンクスティルのためだ。今まで死んでいった仲間に報いるためにも必ず勝たねばならない。


 ヴィオラは毎晩睡眠薬を飲んでいたが、増やしても増やしてもいつも体が慣れてしまう。発作のように暴れ出すと補佐官のレオンが駆けつけて押さえ込む。もう何回目だろうか、ヴィオラが元に戻ることはあるのだろうか。レオンは下唇を噛みながら、ヴィオラの首に手をかけて失神させた。


「あと少しです、ヴィオラ様」


 レオンは、ヴィオラが苦しんでいるのを唯一知る人間だ。

 英雄と呼ばれる自分のことをヴィオラは理解していて、だからこそ弱みを見せないようにしていた。味方の士気を上げるために、敵に弱みをつかれないように。たった一人の孤高の英雄でありたかったが、孤高になるにはヴィオラはあまりにも脆くて、レオンにバレてしまった。


 ヴィオラは死んだ方が幸せになれるのではないだろうか。レオンは常日頃から思っている。しかし、ヴィオラが死ぬとザンクスティルの勝利は無くなる。レオンは敬愛する英雄を苦しみから解き放つこともできず、ただ気休めのように睡眠薬を用意して、発作が出ると駆けつけるだけしかできない。そんな自分が歯痒かった。

 人には言えないが、ヴィオラが死んだとき、レオンはほっとした。優しくて、か弱くて、そしてレオンにとって世界一大切な女の子が地獄から解放されたことに。



 だから、ヴィオラの再来と言われている人物が敵国にいると聞いて顔を歪ませた。


(美形が怒ると迫力が違うな)


 レオンの前でヴィオラの再来を告げた男はそんなことを思った。アーモンド型の瞳は黄金に輝き、うすい唇からはどことない色気を感じる。役者でも食っていけると評されるその端正な顔と、鍛え上げた身体。街を歩けば黄色い声を上げられる爽やかな騎士団長。それがレオン・スミスだ。


「シェーン、俺は今ふざけたことを聞いた気がするんだが」

「ヴィオラの再来って?」

「……不愉快だ」

「私に言われても。ウィルムが言ってることなんだからさ」

「それも不愉快だな。ヴィオラ様がウィルムにいるわけがないだろうが」

「まぁ抑えてくれ。お前が戦場でヴィオラの再来とか聞いたら暴れ出すかもしれないから今伝えたんだよ。戦いのときは冷静に対処しておくれね」

「それはわかっている」


 レオンは怒りをおさめようと息を一つ吐き出した。


 レオンと机を挟んで真正面に座るのはシェーン。ザンクスティルの王だ。かつて王位継承の争いでうまく立ち回れなかったシェーンは戦地に送り出され、小便を漏らしながら生き抜くために必死に戦った。そんなとき、戦場でヴィオラが打ち出した策を聞いて勝機を見出し、共犯として上官殺しを行なった。

 次々と功績を打ち立てるヴィオラがもっと戦いやすくするために裏から手を回し、根を回し、頭を回しているうちに王になっていた。


 かつての共犯者であるヴィオラの再来など、聞いたときシェーンは鼻で笑った。しかし英雄がいてもいなくともウィルムが攻めてきているのは事実だ。ジキ国の制圧を命じていたレオンを呼び戻し、ウィルムに出兵させる前に声をかけた。まったく、どこもかしこも攻撃を仕掛けてきすぎだ。


「ウィルムに傭兵を差し向けていたやつはどうした?」

「牢にぶち込んだ。俺が統率を取れていなかったせいだ、すまん」

「起こったことはしょうがないさ。いずれウィルムとはケリをつけないといけなかったしな。まぁ、最悪なタイミングではあるけど」


 シェーンはライトブルーの瞳を軽薄に細めて笑う。今の騎士団はかつての英雄に憧れて入団した者、かつて英雄と戦場をかけた者がいる。どちらも英雄ヴィオラに勝手な理想を抱いて、敵討ちだとウィルムへの闘争心を高めていた。膨れ上がったその闘争心はいつか爆発すると思っていたが、まさかこんな形で爆発するとは。

 16年前はヴィオラに頼らざるを得なかったザンクスティルだが、今は違う。いずれウィルムとの休戦協定は破られることはわかりきっていたためーーザンクスティル側から仕掛ける気はなかったがーー、備えはしてある。

 シェーンは口を開く。これは旧知の友ではなく、部下への命令だ。


「絶対に、勝利してこい」

「御意」




07


 英雄の再来。そう呼ばれていることはアンリの耳にも入っていた。


(今は英雄って呼ばれるほどのことしてないんだけどなぁ)


 ヴィオラだった頃は背水の陣で挑んでひっくり返すようなことを幾度となく行なっていたから英雄と呼ばれるのはなんとなくわかる。けれど、今やってることと言うと、偵察兵を見つけて締め上げるだけ。戦いになるとウィルムの圧倒的な数の力だけでザンクスティルは押されている。


 夕食のスープを啜る。具が何も入っていない、ただの水を申し訳程度に温めて塩胡椒を振っただけのようなスープ。そこにゆらりと映る自分の顔を見た。

 

 たまに敵の中にアンリの顔を見て息を呑むものがいた。アンリの顔は、ヴィオラそのものなのだ。くすんだ赤髪に、海のように深く青い瞳。少し釣りあがったその瞳を煌めかせながら、ヴィオラは目の前の敵を切り捨てていた。真っ赤な血がくすんだ髪を染め上げ、すぐに黒く変色していく様を見てウィルムでは"ザンクスティルの悪魔"と呼ばれていた。


 この容姿を見る度にヴィオラであったことを思い出してしまうから、アンリはこの容姿が好きではなかった。けれど対ザンクスティルでは顔が良く見えるようにシリウスに褒められて伸ばしていた髪を短く切った。ヴィオラの顔を見て動きを止めるような敵がいるのなら、それは僥倖。使えるものは全て使う。


「アンリ、キース中尉がお呼びだ」

「はっ! 承知しました!」


 物思いにふけっていると、声がかけられた。ルーゴの弟、キースが呼んでいると。

 ルーゴが定規で細く線を引いたような性格なら、キースは手書きで荒々しく丸を書いたような性格。つまり、大雑把で荒っぽい。駐屯兵として堅実な人生を送ろうとしているルーゴとは違い、野心を持っていくつかの戦場に出征し、功績を立てて順調に昇進している。29歳にして少佐に着いているキースはこの戦いにも望んでやってきた。


「最近どうだ」


 アンリがテントに入ると、ルーゴと同じママレードの瞳を細めて徐に聞かれた。


「はっ! 元気です、とルーゴさんにお伝えください!」

「それじゃあ兄貴が納得しねー。具体的にどう元気なんだ」

「はっ! よく食べ、よく寝て、よく運動もしています!」

「そうか……兄貴が心配してる。手紙の一つでも書いてやれねーか」

「はっ! お世話になったルーゴさんに手紙を書くとなると書きたいことが溢れて時間がかかってしまい、寝る時間が取れなくなるためできかねます!」

「お前、いつもその返答だな」


 ルーゴが心配をしているのは知っている。きっと毎日頭を撫でつけながらアンリのことを考えているのだろう。あの過保護な三十路はいつもそうだ。


「お前が元気なのは知ってんだよ。今日も偵察兵捕えて拷問したって聞いたぞ」

「はっ! 勝利のために何事も全力で挑む所存です!」

「それはいい心意気だ。その心意気を見込んでお前、明日から1班率いてくれ。ジョージの足が吹っ飛んじまった」

「はっ! 承知であります!」

「以上だ。下がれ」

「はっ!」


 ようやく数名の部下ができた。ヴィオラのときと比べて昇進するスピードが遅い。ウィルムは人数が多いために、なかなかチャンスがない。夜空を見上げ、アンリはぎゅっと拳を握った。遠くには要塞が見える。ザンクスティルの守りの要、モンリオール城。明日、アンリたちはあの城に攻撃を仕掛ける。

 その時、もしキースが殉死してしまったら。もしアンリが敵の指揮官を討ち取ったら。戦場では何があるかわからない。




08


 大陸暦783年、モンリオールの戦い。ザンクスティル北部に位置するモンリオール城での攻防戦。英雄アンリがマイリー中佐を捕らえ、ウィルムの勝利となる。ザンクスティル死傷者2,890名、ウィルム死傷者170名。なお、指揮官を務めたキース大佐が流れ弾により死亡(殉死により二階級特進)。これにより周辺の街もウィルムに降伏。


 同年、サブヘルムの戦い。ザンクスティル北西部のサブヘルム平原にて両軍の衝突が起こる。英雄アンリと悪魔レオンの初の邂逅である。ザンクスティル軍、約3,000。ウィルム軍、約10,000。圧倒的な戦力差の中、レオンがウィルムを退ける。ザンクスティル死傷者200名、ウィルム死傷者3,000名。なお、この戦いでウィルムの指揮官を務めたカイリ大将が敵兵に討ち取られる(殉死により二階級特進)。しかし、英雄アンリが敵軍の切れ者と称されていたイーノス少佐を討ち取ったことによりウィルムの士気は保たれた。


 大陸暦784年、ツァルゴーの戦い。数ヶ月の緊迫を破り、ザンクスティル北東部のツァルゴー要塞をウィルムが攻略。ウィルムの指揮官を務めたサニゴラム少将がザンクスティルの兵により暗殺される(殉死により二階級特進)。代わりとして交渉を務めた英雄アンリにより開城。


 「アンリと共に戦うと死ぬ」。それは軍本部の佐官以上の間でまことしやかに囁かれる噂だ。英雄の見せ場のために神が指揮官を部隊道具にしているのだと言う者も現れた。


(指揮官を殺しているのが神なら、私が神ね)


 噂を思い返してふっと笑い、フードで顔を覆った。アンリが歩いているのはザンクスティル北部の都市、タミリアル。商業都市と称されるそこは、近くにウィルムの軍隊が来ていると知った商人が逃げたため、いつものような賑わいがなくなっている。閑散とした露店通りにはこの街に住んでいるのであろう人々しかいない。

 それでも、かつてのザンクスティルの英雄とそっくりなアンリの顔は目立つだろう。また、ウィルムの死神としてもザンクスティル内で名を轟かせ始めている。そのあだ名を聞いたとき、悪魔から死神はグレードアップなのかな? と呑気に考えた。


 悪魔と呼ばれていたヴィオラのとき、味方を殺したのはたった一度、上官殺しだけだ。それはザンクスティルの民たちが守るべき対象だったからだ。けれど、今、死神であるアンリの目的は復讐。敵味方関係なく、復讐を遂げるためならばなんでもやる。ウィルム国内では英雄と呼ばれているが、死神の方が自分にはあっていると思う。


 そんな死神がタミリアルに訪れたのは、ただブーブの串刺しを食べたかったからという理由だ。


 ヴィオラのとき、ザンクスティル北部でしか食べることができない丸くて脂の乗ったブーブの串刺しが大好物だった。死の3年前、戦場で食糧が無くなったため人肉を食べたことにより、それ以後は肉を口にすることができなくなってしまったが、今なら食べることもできるだろう。

 ウィルムの拠点でアンリ中佐はどこだ!? と探されているのも露知らず、ブーブの串刺しを探して歩いていた。



 アンリが串屋を探してキョロキョロしている前方、早足で歩いてくる影があった。


 "ザンクスティルの悪魔"。16年前にヴィオラが称されていたあだ名を引き継いだ、ザンクスティルの騎士団長レオンである。


 レオンはツァルゴーの戦いでアンリの姿を確認し、動揺していた。サブヘルムの戦いでは遠くからだったので姿は見ることができなかったが、ツァルゴーでは城からその相貌まで見ることができた。アンリの顔を見た瞬間、レオンは息をすることを忘れてただ見とれてしまった。

 吸い込まれそうなほど深く暗い青をぎらつかせて敵を刈り取る姿は、間違えるはずがない、自分が大切にしていたあの女性だった。


(どうして、地獄から解放されたと思っていたのに、戦場に戻ってきている? それも、なぜウィルムに!)


 部屋で暴れていると、16年前から戦いを共にしてきたニードル中将が部下が怯えるので気分転換してきてください、と外に追い出された。敵も近いので早く帰ってきてくださいね、と言われたが。

 悶々としながら歩いていると、目の前から歩いてきた影にぶつかった。レオンよりも頭ひとつ小さく、上着の上からでも華奢だとわかる。大柄のレオンとぶつかってよろけたその女性の背中を支える。


「すまん」

「あ、いえ。こちらこそすみません」


 声を聞いた瞬間、レオンの頭は真っ白になった。


 「知ってる? 人の記憶は声から失われていくんだよ。私、いろんな声をもう覚えてないんだ」。かつて、そう言ってあの人が笑っていた。それに自分は返した。あなたの声は忘れません、と。

 いなくなる直前は戦場で声を張り上げすぎたために掠れたような声になっていたが、出会ったばかりの彼女はこんな声をしていた。


「待て」


 謝って離れていくその人の腕を掴む。レオンの手でぐるりと掴めてしまう、細い腕だ。細いながらも筋肉質で、彼女が重なる。いるわけないというのに、どうして手を伸ばしてしまったのか。

 女性が振り返ると同時にフードが取れる。黒髪が風に揺れる。その色彩をレオンはよく見たことがある。あの人が熟成させたワインのような赤い髪を、変装と言って染めたときの色だ。よく見るとまだらになっている。


「あ、取れちゃった」


 そう言ってめんどくさそうにフードを被り直そうとする腕をもう一度強く掴んだ。


「痛っ、なんですか。謝ったじゃないですか」


 サファイアを嵌め込んだような瞳に訝しげに見上げられて、レオンは急いでフードを脱ぐ。キラキラ輝くその瞳に見つめられると鼓動が速くなる。あの人が死ぬ直前は常に苦しげな色をしていて、見る度に自分の力不足に唇を噛んだ。こんなに澄んだ色を見たのは久しぶりだ。


「俺が、いや、私が誰かわかりますか」


 その声にアンリは目を瞬き、目の前の顔を確認する。


(あ、この人レオンだ。……これはチャンス、か?)


 アンリは自分の腰についている重みを確認する。目の前にいるのは16年前、ヴィオラに仕えていた補佐のレオン・スミスだ。顔こそ老けたものの、顔立ちや雰囲気など忘れるわけがない。ヴィオラの一番の理解者であり、ヴィオラ自身も信頼していた人物。だが、それはヴィオラの感情であり、アンリにとっては敵であるザンクスティルのトップ。今ここで始末できればウィルムの追い風になるどころではない。


(いや、今殺せる確率は極めて低い。逃げよう)


 しかし、同時にそれはレオンにとってもチャンスであることを意味する。ウィルムの旗頭であるアンリを討ち取れば、ザンクスティルにとっての追い風になるだろう。

 適当にこの場を濁そうとしてレオンを見ると、黄金の瞳が不安げに揺れていることに気づいた。


(これは……)


 アンリは思う。先ほど、レオンはアンリに名前を尋ねてきた。まるで、アンリにレオンだと気づいて欲しいかのように。ーー私に、ヴィオラを重ねている。

 ヴィオラのとき、戦場以外では使い物にならないほど心を壊していたが、それでもレオンの献身はわかっていたし、その奥にある感情も知っていた。今、レオンはそれをアンリに重ねている!

 微かな勝機を見出したアンリは、優しく微笑んだ。まるでかつてのヴィオラのように。


「……レオン・スミス。ここは一旦休戦しましょう」


 名前を呼ぶと、レオンが感極まったように小さく息を吸い込んだ。


「ここで戦闘をしてしまうと民間人を巻き込む恐れがあるわ。それは大陸法に反することだし、私の意思にも反する。あなたならわかるでしょう?」

「あ、あなたは本当に……!」

「この街には小腹を満たしにきただけなの。けれど今すぐ出て行くから、見逃してくれないかしら」

「ああ、そんな、そんな奇跡があるんですね」

「ちょっと静かにして……フード被って、相変わらず顔が良すぎるのよ」


 言いながらアンリもフードを戻して顔を隠す。閑散とした通りだが、すでに何人かがレオンに気づき、ざわつき始めていた。さてここからどうしようと頭を悩ませるとレオンが口を開く。


「食べたいのは、ブーブの串焼きですか?」

「えっ、ええ、そうよ」

「承知しました。では、あちらのベンチに座ってお待ちください」

「へ」


 風のような速さでレオンが走っていく。もしかして串焼きを探しに行ってくれてる? アンリは困惑しながら指定されたベンチに腰を下ろした。




09


 タミリアルでアンリはレオンを殺すことはできなかった。だが、殺されることもなかった。


 "その黄金と目が合った瞬間殺される"なんて言われる瞳を蜂蜜のように蕩けさせて、アンリがブーブの串焼きを食べるのを見つめてきたり、もう戻らないととアンリが言うと何度も引き止めてきて終いにはアンリの腹を殴って気絶させようとしてきたけど、なんとか逃げ出した。


(あいつ、ヴィオラのことが好きな割に扱い酷いんだよ)


 そんなことを思いながら、アンリは手紙を書いていた。宛先はレオンだ。

 レオンになぜウィルムにいるのかと聞かれたとき、これはザンクスティルを勝たせるためだとか、いつかは協力してほしいだとか、そんなことを並べ立てたのだ。その際にレオンへの連絡の取り方も聞いた。


 レオンからの連絡はいつも甘い言葉が散りばめられている。まるで別れた想い人と再会したかのような。特に胸が躍ることはないが、もしヴィオラだったらと思いながら返信を書く。扉を叩く音に、入れと一言投げかけた。


「これ。よろしくね」


 書き上がった手紙を放り投げる。レオンと連絡をとっていることはウィルム軍上層部には既に伝えているため、こそこそ隠すつもりもない。ぱっとしない茶髪の部下が、手紙を受け取った。


「ん? お前、そんな顔だったっけ?」

「はっ! 生まれたときからこのような顔であります!」

「そっか。そうだよね、じゃあよろしくー」


 タミリアルでの邂逅から、何度かザンクスティルとは衝突した。その度に、例えばわざと向こうの指揮官を逃したり、わざと勝てるような状況でも撤退してみたりした。小さな勝利より、大きな勝利を掴むためだ。大きな勝利にはレオンの信頼を勝ち取ることが必須条件。

 それが実を結んだのか、連絡の中で情報を漏らしてくれることが増えてきた。


(馬鹿だなぁ、あなたが愛したヴィオラはもういないのに)


 ザンクスティルに送り込んでいる密偵からの連絡、これまでの動き、そしてレオンの手紙。情報を紡いでアンリは確信する。ザンクスティルは都市ワヤイノでウィルムを迎え撃つ予定だ。




10


 首都グラモンド。その中央に聳え立つ王城に忍び、王シェーンを捕らえる。アンリが立てたのは非常に明解で単純な作戦だ。陽動のためワヤイノにも軍を差し向けたが、それは完全に捨て駒。ワヤイノにはザンクスティル軍およそ1万が待つという。数百のウィルム軍で勝てるはずがない。応援を待てばまだ勝機はあるかもしれないが、時間がかかりすぎる。

 仲間を見殺しにするなんて、ヴィオラの頃は絶対に行わなかった。


 そして王城に最初に入るのも、アンリではなく部下だ。部下が特攻し、混乱を招いたところでアンリが王城に入り王の間を目指す。ヴィオラのときに何度も入った王城だ、地図は完全に再現できた。


 外で合図を待っていると、王城の入り口で爆発音がする。中に入ることもできず、気付かれた奴がいるらしい。間抜けめ、と口の中で呟いてザンクスティル兵から奪い取った服を着たアンリは、混乱に乗じて堂々と入り口から潜入した。

 王城の中でいくつも爆発が起こる。こんな緊急時、王は執務室ではなく抜け道のある場所へ向かっているはずだ。混乱し、行き交っている兵の中を縫うように駆け抜ける。


 王城の奥に進むと流石に怪しまれ始めるかと思ったが、人払いをしたかのように人が少なくなっていく。訝しみながらも、抜け道のある王の寝室前に到着した。


(ここにも誰もいない? 一体ーー?)


 これは罠か? しかし、罠だとしても最大のチャンスだ。中に体を滑り込ませると、奥の寝台に悠然と腰掛けた王がいた。16年前、共犯として上司殺しを偽装し、その後もヴィオラが動きやすいように取り計らってくれた旧友。相変わらず食えない表情で笑うその姿に感慨に浸ることもなく、アンリは王シェーンに飛びかかる。


「うわー、挨拶もなしに斬りかかってくるなんてウィルムの英雄は物騒だね」


 軽薄に笑う王が腰掛ける、その寝台の下から男が飛び出てきた。そして、アンリの剣を弾く。黄金の髪を持つその姿を見て、アンリは罠にかけられたことを確認した。


「ザンクスティルも、私がいない間にこんな姑息な手段を使うようになったのね」

「おお、その顔でそう言われると昔を思い出すね。なぁ、レオン?」

「何も思い出さない。こいつはヴィオラ様じゃない」

「あら? それは悲しいわ。私はヴィオラよ。それに……これくらい想定の範囲内」


 アンリが手を挙げると、部屋に兵が入ってくる。シェーンたちを取り囲むようにぐるりと半円に並んだ兵を見て、アンリは歪に笑う。今部屋に入ってきたのはザンクスティルの兵に扮装した部下だ。


「レオン・スミスは殺せ。王は捕らえろ、腕の1、2本なくなっても構わない」


 言ってアンリは片手を振る。その瞬間、味方だったはずの部下の剣がすべてアンリに向いた。


「……は?」

「うーん、ヴィオラってこんなに馬鹿だった?」

「だからこいつはヴィオラ様じゃないと言ったろう、シェーン。お前ら、その女を取り押さえろ」


 その一言で呆気なくアンリは床に押し付けられる。


「君がヴィオラの生まれ変わりであってもなくても、君はザンクスティルの敵だからね」

「お前がヴィオラじゃないことは気づいていたさ。そもそもヴィオラと違いすぎるんだ。ヴィオラ様は味方を爆散させるような戦法は取らない。無闇矢鱈に味方を殺さない。味方の顔を忘れない。あの人は誰よりもザンクスティルのことを考えていた」


 レオンは抑えられているアンリの目の前で膝を折り、顎を人差し指で持ち上げる。アンリの顔は怒りで真っ赤になり、血管が浮き出ている。歯をむき出しにしてフーフー、と荒い息を立てる様子はまるで狂犬の威嚇だ。


「こいつらはお前の部下じゃない。顔くらい覚えておけ。……しかし、最後の最後で詰めが甘いところだけはヴィオラ様と似ているな」


 悔しさで言葉も出ない。ただただ息が荒くなっていくアンリを見つめながら、レオンは言葉を続ける。


「16年だ」


 何かに耐えるかのようにレオンは瞳を伏せる。シェーンはその様子を楽しそうに見ているだけだ。


「俺の力が足りないばかりにあの日、ヴィオラ様を失った。だから、あの人の死を無駄にできない。悔やむより、悲しむより、俺はあの人が守った国をより善く、強くするために時間を割いた。俺は、騎士団長としてザンクスティルを守らなければならない。侮るなよ」


 胸が燃えるように熱い。これは怒りだ。レオンを、ザンクスティルを甘く見ていた自分への怒り。アンリは目をぎょろつかせ、レオンの言葉を聞いていた。悔しい、悔しい。

 だが、ザンクスティルには密偵がいる。これから処刑までにも猶予はあるだろう。その間にどうにか逃げ出すんだ。処刑の回避策は既に6つ浮かんでいる。アンリの頭は擦り切れるほど高速に回転する。

 怒りを露わにするアンリの前で、レオンが鞘から剣を抜く。シェーンの戸惑った声が聞こえた。


「レオン、英雄は取引に使いたいんだけど?」

「いや、こいつは今ここで俺が殺す」

「だめだ。英雄を殺してもザンクスティルは勝てない」

「いいや、殺す。俺を処罰しても構わない、こいつはここで殺しておかなければならない」


 シェーンとレオンが言い争っていのを遠くに感じながら、アンリは光を反射する剣を見つめていた。死を目の前にした今、頭が急速に冷えていくのを感じる。


(ああ、そっか、私、死にたかったんだ)


 シリウスが、家族が、村のみんながいなくなって、どうやって生きていけばいいかわからなかった。


 アンリとして生まれたとき、アンリはヴィオラの延長線にいた。戦場の記憶を思い出してよく夜泣きした。多くの人を殺した自分が無垢な赤ん坊として生まれ変わったことに申し訳なさを感じて、アンリとして歩けるようになった頃には既に死に場所を探していた。大人たちが危険だと言う東の森にふらふらと歩いて向かうアンリの手を引き戻してくれたのが、シリウスだった。


 アンリがご飯を食べなかったらシリウスが口にパンを押し込んできたし、鋤で頭をかち割ろうとしたら顔をはっ叩いて止めた。死に向かって歩かないように、シリウスはアンリの手を引いて色んなところに冒険に連れて行った。

 だから、気づいたときには夢に魘されることも無くなっていた。自分はアンリであって、ヴィオラではない。自然とそう考えるようになっていた。


 そんなシリウスがいなくなって、自分が誰だかわからなくなって、自分自身を保つために何か使命が必要だと思い込んで、復讐が使命だと思い込んで、ここまで邁進してきた。


(どこかで死に場所を探していたのかもしれない)


 きっと、このままアンリが殺されたとてザンクスティルは敗北する。それほどまでにウィルムとザンクスティルの武力は差がある。そんな差を覆していたからこその英雄ヴィオラだったのだから。いずれにせよ復讐の対象であったザンクスティルは壊滅するだろう。アンリがいるかいないかで変わるのは、勝敗が決するまでの速度だけだ。

 けれど、もうそんなことはどうでも良い。アンリは村を失ってから長いこと忘れていた笑い方を思い出した。感謝の気持ちを持って、レオンに笑いかける。その笑顔に、レオンは息を詰める。

 

「ねえレオン、」

「黙れ」


 首元に剣を押し付けられる。剣がカタカタと震えているのを感じた。レオンはヴィオラが暴れていたときも、震えながら首を絞めてくれた。アンリの胸があたたかくなる。


「私、レオンのこと愛してた。本当にーー」

「黙れ!」


 レオンは、勢いよく剣を薙ぎ、アンリの首を胴体から切り離す。床を二度跳ねてレオンの足元に転がったアンリの顔は、穏やかに微笑んでいた。




11


 大陸暦787年、大国ウィルムとザンクスティルの長きに渡る戦争はザンクスティルの降伏宣言並びにザンクスティルの王シェーンの処刑により終結する。大戦で疲弊したウィルムはその数年後、隣接するマーブリーに攻め入られ、あっけなく属国となった。ウィルムが抵抗できる体力もなかったため、史上最少の犠牲で戦争は終わった。犠牲が少なく済んだのはマーブリーの英雄、デオンの功績も大きい。筋骨隆々のその男は、戦場の記憶から逃げることができず数年後に自宅のベッドで首を切り息絶えているところを発見される。


 その後、戦争の度にどこかの国では"英雄"と称されるものが現れた。それはプロパガンダの一つで作り上げられることが常だが、何かに希望を持ちたかった人々の想いでもあったのかもしれない。

 赤い髪を持つ女の子が英雄と称されることはなかった。


 そして、大陸暦913年。


「ああっ、ブロッコリーがない! ミミー!」

「なーにママ。また買い忘れ?」

「ごめん……買ってきてくれる? 余ったお金でお菓子買ってきていいから!」

「もう、私お菓子で喜ぶ歳じゃないよ? 何度言ったらわかるの……ま、行くよ」

「ありがとー!」


 マーブリーの片隅に陽だまりのような家庭がひとつ。


「ただいまー。なんかさっきミミがすごい勢いで買い物行ってたけどどうしたの」

「おかえりー! ブロッコリー買い忘れちゃってお願いしちゃった」

「ああ、また……」

「うん……」

「体の調子はどう?」

「大丈夫! 最近、たまに蹴るんだよ。元気に生まれてきてねー、レオン」

「生まれるまで男か女かわからないのに、ーーがそういうと男の子が生まれるんだろうなって思うよ」

「うん、絶対レオンが生まれるの。……ねえ、ーー」

「ん?」

「私、毎日すごく幸せだよ」

「どうしたのいきなり? 僕も幸せだよ、ーー」


 その家の母親はくすんだ赤髪に、海のように青い瞳を持っていた。長く伸ばした髪に、水色の髪飾りが揺れる。ヴィオラでもアンリでもない。もう、剣は手に取らない。

 その首を、レオンは大切そうに抱き抱えた。かつて地獄から解放したかった女の子を、今度こそ解放できただろうか。願わくば次の生では戦いのない世界で平和に生きてほしい。黄金の瞳を閉じて静かにそう祈った。


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後書きは活動報告に掲載しています。

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