…… 恋は疾風怒濤の如く 4
「 …… いったい何のためにロンドンくんだりまで行った? 」
「 …… それは援助してくれる結婚相手を見つけるために。 」
「 …… 公爵様は金持ちなんだろ? 」
「 …… たぶん。 」
「 …… なぜ、婚約しないんだ? 」
「 …… それは。 」
「 …… それは? 」
弟のジョンの言う通りだった。
公爵は裕福だ。
それだけで十分だった。
家にあるだけのお金を持ってロンドンまで行って結果が出せないとは。
「 …… 公爵ってそんなに嫌なヤツだったのか? 」
「 …… そう言うわけじゃないけれど。 」
帰るなり熾烈な追及を受けてメアリはタジタジだった。
出会った時から失礼な事ばかり言われたが、それだって殴り返せばお釣りが来る。
薦められた侯爵とは違って、年寄りでもなければ、お金もない、娼館通い好きでもない。
それどころか並ぶもののないほどの美丈夫だ。
…… 望まれたらありがたく受けて当然なのだ。
「 …… 訪ねて下さるそうだから。 」
「 …… ここに? …… いつ? 」
「 …… さあ? たぶん、そんなに時間はないかも。 」
「 …… ここでどんなもてなしが出来ると思うんだ? 」
ジョンは慌ただしく飛び出していった。
メアリはドレスからメイド服に着替えた。
…… 留守の間に溜まった埃を払い、床を磨く。
玄関ホール、応接間、食堂。
とりあえず来客があった時使いそうな場所は念入りに掃除した。
擦り切れた絨毯や色褪せたカーテンはどうしようもない。
せめて窓ガラスの曇りがない様熱心に磨いた。
三日後、メアリが庭の畑で料理に使うハーブを摘んでいると蹄の音がした。
…… 馬丁を連れた公爵だった。
メアリは慌てて台所から屋敷に入ると母親に来客を告げた。
母親は玄関ホールへと出迎えに出る。
メアリは台所に駆け戻るとお茶の支度をする。
ロンドンから買ってきた高価な紅茶を用意した。
「 …… メアリ様早くお支度をなさって下さい。 」
台所に現れたメイドのアニーが顔をしかめた。
いつものメイド服姿のメアリに呆れているのだ。
追い立てられる様に部屋に戻ったメアリは、アニーの仕立ててくれたデイドレスに着替えた。
この家でおめかしをするのは、なんだか気が引けた。
ふと手を見るとカサついて傷だらけだった。
…… 慌てて手袋をはめる。
「 …… テレサが突然いなくなって、本当に寂しかったんだ。 」
「 …… ごめんなさい。心配させてしまったのね。 」
「 …… 心配したよ。 …… 当然だろう。 」
「 …… でも私はステファンと出会って幸せになったわ。 」
「 …… そうなんだろうね。楽な暮らしには見えないけれど。 」
応接室の扉の前で聞こえて来る会話に立ちすくんだ。
…… 公爵様と母様は知り合いなんだ。
メアリの心は嫌な音を立てながら軋み始めた。
…… 初対面から嫌われるなんて変だと思った。
何だ、そう言う事だったんだ。
頭の中を納得する声と、そうじゃないと否定する声が交差する。
「 …… 何してるの。入るよ、メアリ。 」
いつのまにか後ろに立っていたジョンに背中を押され、応接間に入った。
公爵が身を乗り出してお母様の両手を握っている。
…… 二人は会話に夢中だった。
争う様に、あれからどうしたこうしたと話している。
ジョンは腕組みをしてその様子を黙って見ていた。
メアリはその場に居た堪れない思いでいっぱいになった。
二人はメアリ達に気付きもしなかった。
「 …… 何だそう言うことか。姉さんがためらう気持ち分かったよ。 」
ジョンの声が冷たく響いた。
その声に母親がハッとした様に振り向いた。
後ろめたそうな表情にメアリは傷付いた。
メアリは何も言わずに部屋を出ていった。
…… 何だか、全てが、もうどうでも良くなっていた。




