…… レディ・オリビアからの招待状 2
「 …… あれは感心しませんでした。 」
「 …… 本当に申し訳ありません。 」
「 …… でも、公爵様も公爵様です。 …… 案内も挨拶もなかったのですからメアリが驚くのも仕方がないとは思いますよ。」
「 …… マーガレット様。 …… ありがとうございます。 」
「 …… 心情的には分かると言うだけで、認めてはいません。 」
伯爵夫人は苦い顔をしている。
それでも顔合わせしたばかりの頃には気づけなかった、気遣いを垣間見せてくれる。
伯爵によれば今回のメアリのデビューも伯爵夫人の考えだと言う。
伯爵夫人の実家の援助で伯爵家は盛り返したと言う。
広大な領地を持つ伯爵家だが、維持するには沢山の資金がいるのだ。
…… 心のどこかで伯爵家からの援助がない事を恨んでいた自分が情けない。
とっつき難いと思っていた伯爵が、意外と家族思いだったり。
…… 繊細で儚げにしか見えない伯爵夫人がしっかり家の実権を持っていたり。
メアリは自分の人を見る目のなさにがっかりしていた。
伯爵家の客間を訪れる訪問客は、途切れる事がなかった。
挨拶を交わし当たり障りのない会話をする。
いつものことながら気がつくとその会話が増えているような …… ?
メアリは客間では刺繍を手放さなかった。
訪問客が来れば手を休め一応の挨拶をするだけで、刺繍の手は休めない。
伯爵夫人もそれには特に何も言おうとはしない。
メアリは意地になって会話に加わらない訳ではなく、興味がないのだ。
よほど刺繍の方が楽しいのだろう。
…… エリザベスはメアリが羨ましかった。
訪問客の中には嬉しい客もいれば、そうでない客もいた。
それでも伯爵令嬢としては、等しく礼を尽くさなければならない。
そうかと言って、思うまま行動する勇気もないのだから。
「 …… まあ、意味がわからないわ。 」
メアリは目を丸くしていた。
エリザベスが思わず羨ましいと漏らしたから。
時間があるとメアリの客室を訪ね、おしゃべりするのが日課になった。
「 …… 私から見たらエリザベスは完璧だけど。 」
そう言いながらも、メアリは繕い物の手を休めない。
エリザベスも気にすることはなくなった。
…… メアリの言うところの 『 貧乏性 』 なのだそうだ。
手持ち無沙汰だと落ち着かないと言うのだから仕方がない。
「 …… メアリが聞かないから、言うのだけど。 」
「 …… まあ、なあに? 」
「 …… あの公爵様よ。 …… 聞きたくないのだろうけど。 」
「 …… そうね。 」
「 …… でも聞いて。 あの後、公爵様は私にダンスを申し込んだの。 …… ついでにね。」
「 …… そんなことないと思うわ。 」
「 …… そんな事あるわ。ちっとも熱心じゃなかったもの。 」
「 …… エリザベスと踊りたがらない人なんかいないわ。 」
「 …… 本当は断ろうかと思ったの。 でもお母様に睨まれて。 」
「 …… 断らなくて良かったわ。 」
「 …… ねえ。 本当は公爵様と踊りたかった? 」
お披露目からは数日後、みんなが公爵様の話題を避けていた。
エリザベスもそうだった。
…… たぶん迷ったけど聞かずにいられなかったのかしら?
「 …… わからないわ。 …… でも一緒にいられないと思ったの。それなのに踊ったり出来ないでしょう? 」
「 …… そうかもね。 公爵様は嫌い? 」
「 …… 好きになっても仕方ないわ。 …… あんなに嫌われているんだもの。 」