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…… レディ・オリビアからの招待状 1




伯爵家のお披露目パーティーは大成功とは言えなかった。

 …… メアリは自分は出るべきではないと固辞したのだ。

せっかくのエリザベスのデビューを曇りのないものにしたかったのに。

伯爵夫人はそんなメアリに欠席は許されないと告げた。


 

 「 …… 噂を認める事になるでしょう? 」

 「 …… エリザベスのデビューが。 」

 「 …… あなたのデビューでもあるのよ? 」

 「 …… でも伯爵家のみなに迷惑がかかります。 」

 「 …… そう思うなら舞踏会に出て何でもない顔をして見せなさい。 ……それが最善です。 」



自分の滞在がエリザベスの足を引っ張る事を心苦しく思っていた。

エリザベスは気にしていなかった。


 

 「 …… 社交界で出会う人はみな足を引っ張り合うでしょう? でもメアリは違う。 」

 「 …… あら、思い切り足を引っ張っているわ。 」

 「 …… そうね。 でもメアリのせいじゃないのに。 」

 「 …… そうとも言えないわ。 」

 「 …… 全部公爵様のせいじゃない。私許せない。あれから顔を見せないけど。 」

 「 …… 知らないんでしょう。 …… 下々の者の事なんか。 」



周りは皆憤っているがメアリはそうでもなかった。

ただ単に来るべきではなかったのだろう。

社交界での常識知らずのメアリが傍目に父親の愛人に見える態度をとっていた。

 …… そうとしか考えられない。


 

 「 …… 内緒だけど、いっそ働こうかと思うの。 」

 「 …… まあ。 」

 「 …… 家庭教師かコンパニオンか。…… メイドの仕事ならこなせると思うけど。 」

 「 …… まあ、駄目よ。そんなの事したらウチのお父様だって破滅だわ。 」

 「 …… え、どうして? 」

 「 …… 自分の姪が働いてるなんて …… 援助出来ないって事になるわ。 」

 「 …… そんな、こうしてデビューまでさせてもらっているのに。 」

 「 …… ウチの父はともかく、メアリのお父様はもっと大変よ? 」



 …… そうだった。

人知れず家の事をするならともかく、外に出て働けば父が恥をかく。

こうした考えなしのところが今の苦境を招いたのだろう。

 …… メアリはただただ消えてしまいたかった。






お披露目パーティーの準備は目まぐるしかった。

せめてものお詫びに手伝いたかったがそれも却下された。

 …… こんな貧乏性では裕福な家に嫁ぐなど、土台無理がある。

いつもより念入りに洗われ磨かれ塗りたくられ …… メアリは疲労困憊していた。



晩餐会も舞踏会も粛々と進んでいった。

メアリはずっと父親と一緒だった。

 …… むしろ父親が悲壮な顔でそばを離れなかった。



父親と伯爵と伯爵の長男のジョージと踊っただけで、他の誰も話しかけては来なかった。

話しかけようとしても、父親の刺すような視線に気圧されて、誰も近づけなかった。

噂は誰もが知るところとなりメアリを知らない者も一目見たいと好奇心を持った。



 …… ところが実際のメアリは噂されるような妖艶な女ではなく、清楚な少女だった。

身頃のレースのほかは襞飾りもない地味なドレスをまとい、浮ついたところもない。

父親に守られている姿を見れば、噂は根も葉もないようにしか見えなかった。










周囲の目が好意的なものに変わりつつある事など、メアリは知らなかった。

遠くに見えるエリザベスが、楽しそうに踊る姿を見るだけで幸せだった。

 …… 意地を張って出ない事にしなくて良かった。

優しいエリザベスは気に病んで楽しめなかっただろう。

始まった頃の緊張感も忘れて、メアリはくつろいでいた。




 「 …… レディ・メアリ。 …… 私と踊っていただけますか? 」




背後から声をかけられメアリは振り向いた。

 …… 隣の父親の体が強張った。

あの濃い紫の瞳に見つめられ、メアリは無理だと思った。




 「 …… お断りします。 ご紹介されてもいない方とは踊れませんわ。 」




公爵の顔が強張った。

 …… 微かに頬に赤みが走る。




 「 …… それならせめて、自己紹介を …… 」




メアリはその場を逃げ出した。

 …… そうせずにはいられなかったから。

 …… 正しい事でないとは分かっていた。








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