水面 ~minamo~
「私、頑張ったんだけどな…」
水面を見つめながらぽつりと呟いた。
地面に転がる小石を投げ入れると、水面が揺れる。
波紋が起きて波を打って崩れて消えるまで。
何度も小石を投げては、それを見つめる。
たまに水面に顔を出した岩に当たって跳ね返る。
小さく跳ねた小石は、ぽちゃりと落ちて、あまり波を立てずに沈んでいく。
水辺の縁に座り込んだ体を、ゆらゆらと揺らしてみた。時たま大きく傾いで、水の中に落ちそうになる。
それがなんだか面白くて、体を揺らし続ける。
落ちたら?
落ちたっていいじゃない。
どうせここに、私を必要としている人なんていない。
ううん。ここだけじゃない。
どこにも、私を必要としている人なんていない。
どうせ誰からも、気にかけられていないのだから。
だから、落ちたら落ちたで構わない。
そんな気持ちでゆらゆらと、体を揺らし続ける。
ぐらりと視界が廻った。
あ、これは本当に落ちるかも…。
そう思いながら倒れた先は、草の上。
水面ギリギリの草の上。
あと、もうちょっとだったのに。
少し、残念。
倒れたまま、目の数センチ先の水をぼんやりと見つめる。
このままコロンと体を転がして、水の中に入ってしまおうか。
だってどうせ、誰も気にしない。
気づいたって、気にしない。
髪の毛の一部が、水に浸かり、ゆらゆらと揺れているのが見えた。
うん、このまま。
体を、ほんの少しだけ動かして。
水の中に入ってしまえば。
そうすれば、もう何も考えなくていい。
何も苦しまなくていい。
…………………………………………。
…自分の度胸のなさが、嫌になる。
ほんのちょっと、体を動かすだけでいいのに。
コロンて転がれば。
楽になれるのに。
……………。
ああ…。
誰とも関わらなければ、楽になれるかな。
他に誰もいないところなら…。
一人だけで生きて、一人だけで死ぬ。
そうしたら。
今よりは、楽になれるかな…。
そんな未来を夢想する。
でも、そんなことより今は。
目の前の水が綺麗。
手を伸ばして水に触れた。
そんなに冷たくない。
ゆるゆると、指の間を抜けていく水の感覚が気持ちいい。
もし、生まれ変わりがあるのなら、今度は水の中の生き物になりたいな。
そんなことを考えて、そっと微笑む。
このままここで、眠ってしまおうか。
ここは、とても気持ちがいいから。
指に触れる水の感覚も。
腕が沈み込む泥の感触も。
キラキラ光る水面も。
足に触れる草の、くすぐったい感じも。
サラサラと囁く水の音も。
肌に触れる全て、目や耳に入ってくる全てが心地いい。
湿った土の匂いも、水面から吹く柔らかな風もすべて。
だからーーー
このまま、眠っている間に水の中に落ちても構わない。
いえ、むしろーーーーー
だから、どうかーーー
このままーー
お願い…
自分でもわからない何かを願いながら、そっと瞼を下ろした。