第一話 。門出。
えーと、何言おうと思ったんだっけ?
忘れちゃったんで、一話です。どうぞっ!!
「なんで?まだ-----」
「---------」
「あの子が---------!」
「----命令だ」
「わかったわ」
言い争う男女の声。一人はわかる。お母さんだ。残念ながら、ぼくから見えるのは背中だけだが。そしてその奥、黒いマントを着た様な「ナニカ」。霧をまとったように、焦点が合わせられない。
なぜか、その姿に恐怖を覚える。
「-----------」
黒マントが何か言う。
そして、
ぷつっと、終わる。
はぁ
また、あの夢。五歳の時の実際の記憶。四年がたった今では、鮮明さに欠けた夢。
そして、次の日の朝、起きると・・・・
いや、やめよう。
今日は、ぼくの旅立ちの日だから。晴れの門出の日に、ため息も涙も要らない。
ぼくは、始めて、この森を超え「王都」へ行く。
そして「学園」に入学する。
学園は入るのが難しいと言われているが、お母さんは「アオイ」なら大丈夫。と言っていたし、何よりもそのためにたくさん勉強した。
学園のある王都までは大人の足で一週間。
ぼくが歩けばもっとかかるだろうから、学園の入試がある三月一日に着くよう、三週間前の今日出発する。
学園に入学してしまえば、全寮制の六年間。
当分ここに戻ってくるつもりはない。
外の井戸水で顔を洗い、この日のために買ってきた服に着替える。
持ち物は少ない。もともと、余り物を持っていないのもあるけれど、肩から掛けたボディバッグは、見た目の数十倍の容量を誇る。全ての物はここに収まった。
それから、メインウエポンであるナイフを腰に下げる。左右各一本。懐にサブの小型二本と投げナイフ。
いつも付けている、ネックレスと、魔力向上のマント。
中の服と合わせても全身黒なのは仕方がない。
一人旅はとても危険だと聞いた。女児だと分かれば、捕まえて、売りに出す人がいるらしい。良く買い物に行くお店のおばさんの提案により、一年前から一人称を、わたしから「ぼく」に変えた。髪も、ショートカットにして、スカートもはかなくなった。
普通にしていたら男子に見えるという、お墨付きだ。
きぃ、
と小さな音を立てて戸を閉める。
お母さんはこの戸の開閉で音を出したことは無かった。
お母さんは、よく、ぼくが生まれてすぐに死んでしまった、お父さんの武勇伝を披露していたが、実際のところはお母さんもそれなりに強いのではないかと思う。歩く時や物を置くときに音を立てないし、お母さんの倍はあるような大熊を、瞬殺していたこともあった。そもそも、ぼくに体術なんかの戦闘技術を教えてくれたのは、お母さんだし。
「長い間お世話になりました。当分は戻ってこないけど、ちゃんと卒業したら戻ってくるから」
お父さんが一人で建てたという、平屋のログハウスの様な我が家に一礼する。
そして、今日向かう、王都とはちょうど反対方向。ここからは何も見えないが、歩いて一時間ほどのふもとの村に向かって一礼。
あの村の人々には本当にお世話になった。あいさつは済ませてある。さあ、行こう。
ぼくは、とりあえずジョギングぐらいのペースで走りだした。
一時間くらい走っただろうか。疲れてきたので一旦休憩する。
休憩が終わってからぼくは、魔法の練習がてら、走る足を魔力で強化する。ダッシュ時の倍ぐらいのスピード。段々とスピードを上げて行く。こうなってくるともはや、目で周りを確認できないので、立体探知の魔法を併用する。
立体探知はその名の通り、指定した場所を立体的な空間として、認識する事ができる魔法だ。ぼくの使う立体探知では、魔力と温度、核に反応する。
そして、踏み込みのせいで地面がえぐれてしまうので、結界の応用で、足元に足場を作る。こうすることでぼくの足はほんの少し宙に浮く。より、立体的な動きができるようになった。
と、ここまで三つの魔法を同時併用をしているわけだが、実はこれらは魔法をまねた、「別の物」だ。
この説明は、まあ、長くなるし、自虐だからやめておこう。
途中、モンスターや魔物を狩りつつ進む。モンスターや魔物の体の一部は金になるのだ。
王都に着いてからは、服や生活品のほかに、受験料や入学料、寮費なんかがいるらしい。お母さんが貯めておいてくれたお金はもってきているけれど、どのくらいいるか分からないので、換金できるやつは出来る限り回収する。
「んーどのくらいまで来たかな?わかんないや。もうちょっと進んで、日が沈み始めたら野宿の準備しよ」
長く魔法を使い続けていると、魔力不足や集中力の低下で、維持が難しくなる。そのかわり、長く使えば使うほど、違和感が小さくなる。体に馴染むのだ。
今はまさにそれだ。まるで、体の一部のように魔法が使えている。
そのせいか、さらにスピードを上げても、魔法が破たんすることは無く。調子に乗ったぼくは限界までスピードを上げてみることにした。
ヒュン、ヒュン、ヒュンッ
飛ぶように流れて行く風景。
最大限まで拡張した立体探知はぼくを中心に一キロの範囲内の事を教えてくれる。
どのくらい時間がたっただろうか。
ぼくは確実な体力の限界の訪れを感じていた。
今日はこの辺でやめておくか。
こんなところで気絶でもしたら、確実に死ぬからな。
そう思い、どこか野宿にいい場所を探すためにスピードを緩める。いきなり止めれば死んでしまいかねないので、少しずつ。最後は、目の前の大きな木を使ってバク宙のように後ろへ一回転。それで、ぼくの体は完全に停止した。
魔法で弱くしていたとはいえ、かなりのGがかかっていたので、ふわふわとする。
ぼくは一つ学んだ。全力疾走は最終手段。止まった後はろくに戦えない。
さて、いい場所は無いかと歩いていると、急に木々が無くなり、草原に出た。
ん?ここはどこだ?
歩いて行くと、巨大な壁が見えた。石レンガでできたそれは、うわさに聞いた王都のまわりを囲む砦にそっくりで・・・
もう少し歩けば、綺麗な街道と、そこに並ぶ人や馬車の列。そして、その先には、門兵の立つ立派な門。
うん、王都、だよね?幻覚とかじゃないよね?
試しに頬をつねってみる。
ふつーに痛い。
どうやらぼくは、七倍速で走って来たらしい。
ぼくはもしかしたら、異常なのかもしれない。
あっ、そうだ!!
皆さん思い出しました!!
プロローグ時アオイは五歳で
一話では、九歳になっています。
「五歳児が一人暮らしとか無理でしょ」とか言わないでください。ファンタジー世界なんです。
ってことを前書きで言おうと思ってました。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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