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日常に潜む神さまシリーズ

神さまに愛されすぎて彼氏に会えないので、禁断の果実を食べに行ってきます

作者: 河津田 眞紀

タイトル通りのお話です。

短めですので、サクッとどうぞ。

 



 起きたら、10時だった。

 朝とも昼ともつかない、なんとも中途半端な時間である。



「………………」



 枕元のスマホで時刻を確認してから、のっそりと身体を起こす。

 目が開かない。というか、開けてもよく見えない。


 ああ、そうだ。メガネ、メガネ。


 と、ベッド脇のテーブルに手を伸ばす。

 メガネの横には開いたままのレジャー誌が乱雑に置かれていて、見開きに『大型遊園地 徹底攻略!』の文字が踊っている。



「……………………」



 あ、そうだ。洗濯物。

 昨日の夜から干してあるのだ。

 晴れの予報だったが、大丈夫だったろうか。


 そう思い立って、ベッドを降り、オレンジ色のカーテンを開ける。

 と。


 窓の外には、眩しいほどの青空が広がっていた。

 その青を背景に、洗濯物たちが、風とゆらゆら戯れている。


 窓を開けると、そう呼んで良いものか怪しいくらいにささやかなベランダがある。

 単身向けのワンルームマンションなのだ、こんなスペースでも、無いよりはいい。

 そんな、人ひとり立つのがやっとなベランダに片足を出す。

 それから、干してある真っ白なバスタオルに鼻をつけて……


 嗅ぐ。



「……………………」



 ああ、落ち着く。お日さまの匂いだ。

 こうすることが、幼少期からの癖なのだ。

 実家の母には「鼻水つけないでよね!」ってよく言われたっけ。


 はぁ。と息を吐いてから。

 バスタオルの向こうの景色に、目をやる。


 通りを挟んだ、その向こう。

 見渡す限りの、ビル、家、マンション。

 私が忍者だったなら、屋根から屋根へ飛び移って、そのまま駅前まで行けてしまいそうなくらいのひしめき具合だと、いつも思う。


 ……お腹、減ったな。

 しかし、朝ごはんと言うには微妙な時間だ。

 なるほど、これが"ブランチ"というやつか。

 そう言えば聞こえはいいが、何のことはない、ただの"寝坊飯"だ。



 どうしようかな。

 正直、なんでもいいんだ。

 だって。





 今日は、貴方に会えない日曜日。






 昨日の23時に、『ごめん、明日仕事入った』のメッセージ。

 それに、『そっかぁ、大変だね! がんばってね!』と返せないほどに、私は可愛くなく。

『ばか』の一言と、中指を立てたウサギのスタンプを返してしまうほどには。


 私は、貴方に会いたかったのです。



「……………………」



 なんだって今日に限って、こんなド晴天なんだ。

 ずっと楽しみにしていた遊園地には、もう行けないのだから。

 晴れていたって、意味なんかないのに。

 昨日の夜から先回りして干した洗濯物も。

 みんなみんな、雨に濡れてしまえばよかったのに。


 嗚呼。

 青い空が、憎い。



 なんて、ぼんやりベランダから外を眺めていると。



「………………え」



 突然、私の視界を覆い尽くす



 しゃぼん玉。


 カラフルな風船。


 真っ白な、鳩たち。




 それらが入り混じって、一斉に青空へと飛んでゆく。


 そんなファンタジーな景色に目を奪われていると。

 下の方から、何やら叫び声が聞こえる。

 見れば、通りでトラックが立往生しているようだ。


 その荷台から。

 しゃぼん液が溢れ。

 風船が放たれ。

 大量の鳩たちが飛び立っている。


 イベント会社か何かだろうか。こりゃあ大変だ。



「…………………ふふ」



 ダーリン。

 貴方に会えなかったせいで、とんでもない景色に出会えたわ。

「ありがとう」なんて、絶対言ってあげないけれど。

 とりあえず、お仕事を頑張っている貴方に、この景色を撮って送ってあげましょう。


 と、スマホを構えた。

 その時。



「……………………」



 今度は。



 雨上がりでもないのに、空に虹がかかり。


 カッパドキアもびっくりな、美しい気球がいくつも浮かび上がる。


 そう。まるで、魔法のように。


 ただでさえ現実離れした風景に、さらに不自然なレイヤーがかかり。


 思わず、声が出る。




「………………………………おい」









 ()()()()()()()()()()()()()()




 街で福引きをやれば必ず当たるし。

 買ったグミには、レアな星型のやつが入っている。

 電車で目の前に座っている人は、だいたい次の駅ですぐ降りるし。

 街で見かける三毛猫は、九割九分オスだ。


 昔からそう。

 細々(こまごま)としたラッキーが、異様なほど降り掛かる。

 特に、私が落ち込んでいる時は。



 そう、私は。

 露骨なまでに、神さまの寵愛を受けているのだ。



「…………だからって」



 だからって。

 いくらなんでもこれはやりすぎよ、神さま。

 ラッキーの範疇を超えている。


 こんなキセキを起こすくらいなら。

 どうして、たった一人の恋人に会わせてくれないのかしら。

 もしかして本当に、私を愛していて、妬いているの?


 なんて。



 でも、なんだか元気が出た。

 ありがとうね。



 さぁ。

 着替えをして、化粧をして、街に出かけよう。

 そうだ。確か新しくアップルパイのお店がオープンしたんだ。

 そこへ行ってみよう。



 貴方に会えなくったって、今日は。


 週に一度の、大切な安息日(にちようび)なのだから──














 ↑雲の下

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 ↓雲の上





森乃(もりの)ちゃん、喜んでた?」

「わかんない。けど、さっきの写メがインスタにあがってた。気球はやりすぎだったかなぁ。絵面が散らかりすぎて逆に『いいね!』もらえないかも」

「今から買いに行くアップルパイは?」

「今季採れる中で最も糖度の高い紅玉が入るよう手配済み」

「きっっも」

「しょうがないだろ、好きなんだから。ここ千年で最推しだわ、山河森乃(やまかわもりの)ちゃん。彼氏のためにイメチェンした前下がりボブ、超似合ってる」

「だったらその彼氏に会わせてやれよな〜。それが一番の幸せだろうに」

「うるさい。さっさと別れろあの●●野郎。将来絶対ハゲさせてやる」

「別れさせたところでお前のものにはならないだろうが」

「いや、森乃ちゃんの善行ポイントが1万貯まったらソッコー聖人として召し上げる。そしたら、ずっと一緒だ」

「おまww 神は神でも死神かよww てかむしろ悪魔の所業www」

「神が語尾に『w』つけるなよ」

「神がインスタやってんなよ」

「………………」

「……あ、森乃ちゃん。アップルパイの店に入ったな」

「よし。『来店1000人目おめでとうございます』、発動。クラッカー、パーン」

「まじきめぇww いい加減やめろよ、そのえこひいきw さすがに引くわww」

「いいだろ、神なんだから。こんだけ尽くしたって、俺の気持ちなんて1ミリも伝わらないんだし。あーあ、やってらんねーよホント」

「いや。案外伝わってるかもよ? だって、ほら」

「…………………」

「なんか、すごい剣幕で(こっち)、睨んでね?w」



 嗚呼、()()な顔も可愛い。


 こんなに好きなのに、会えないの。


 神さまって。

 まじ、つらたん。





 *おしまい*


数ある作品の中から目を留め、お読みいただきありがとうございます。

男子高校生みたいな神さまですみません。彼らに名前はありませんが、個人的には『粘着』と『w(草)』って呼んでいます。

いちおう単発のお話のつもりですが、気が向いたら続くかもしれません。

みなさまにも、こまごまとしたラッキーが訪れますように…

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