第二十四話
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槇岡は私を車の外に連れ出した。厚い夜のカーテンの中で道沿いに大きな街灯が瞬く。
壁の向こうに海岸が遠く見えていた。
私の肩を抱きながら槇岡は夜空に目をやる。あの時の月がまた私たちを見下ろしていた。
「亜矢」
深く心にしみいるような声だった。
「亜矢、顔をあげて」
涙の中で槇岡の顔がにじむ。今の槇岡の瞳はしっかりと私を支えてくれていた。
「考え方を変えるんだ」
「……考えって」
「もう一度言う。莉奈を手離せ」
息が止まる。槇岡は私の唇に指をあてて言葉をさえぎる。
「何もそれは捨てろって意味じゃない」
槇岡の表情はいつになく真剣で、漆黒の瞳はいたわりの色さえ帯びていた。
「おまえは潔癖すぎるんだよ。だから迷ってる。俺か莉奈か、二つの愛を同時に得られないみたいに思ってるんだろう?」
「…………」
私を強く引き寄せる。頬に槇岡の熱い吐息がかかる。
「いいか、一番大切な愛をつかめ。そして決して離すな。そうすれば他のも捨て去る必要ない」
「………?」
両肩をつかんでまっすぐに私を見据える。
「誰だって愛の対象はたった一人じゃない。それが人間だろう? 愛する相手への思いはかけがえない。それは確かだ。
だけど他の誰かに愛情をそそぐこともできる。それは恋じゃなくてもいいんだ」
温かく大きな両手で私の頬をはさんで上向かせる。
「愛ってのはたった一つっきりじゃない。おまえは家族を失って余計に莉奈を愛そうとしてる。
それで周りが見えなくなってるんだよ。俺を愛しながら莉奈も愛せばいい」




