第十九話
37
酔いは私の心の中まで満たした。
荒々しく激しいが芯はどこまでも純粋で深い感情。
心のどこかにあった槇岡への帳が消え去り、剥き出しの一人の男としてそばにいる。
今までのどの瞬間よりも槇岡を身近に感じた。
薄闇の中で琥珀色の酔いは槇岡の熱を帯びた視線とともに私を絡めとる。
……求めていた愛がここにあるのかもしれない。
「……でもダメよ」
息が火照るように湿る。
「莉奈はずっとあなたに気持ちを向けてる。それを……」
槇岡は首を振る。
「もうどうしようもない。俺の気持ちは君にある」
「……あなた、莉奈の婚約を一方的に破棄したわよね。じゃあ私は? また他に好きな人ができたら? いつか去っていくんじゃないの。一方的に」
槇岡は立ち上がって私の隣に座る。頬をそっと私に寄せてくる。
「それはない」
「なんで分かるの」
「何人もの女と付き合った経験からだ。自分から結婚を申し込んだ相手は莉奈しかいなかった。その莉奈でさえ裏切ってもいいと思わせたのは君だけだ。君以上の相手はいない」
「……莉奈が初めてのプロポーズ相手?」
「そうだ」
「嘘。何人も結婚の約束があった子を振ったって」
はっきりと槇岡は首を振った。
「違うね。相手からは何度も申し込まれたが一度も承諾してない」
「……そうだったの」
苦笑する。断られた女の子たちの怨みが伝言ゲームで尾ひれをついたのだ。
一途だったのは槇岡の方だったのだ。
槇岡はそっと私の肩に腕を回す。
シェリー酒のもたらした昂ぶりは、思い出さなければいけないことに黒い覆いをかけた。
わずかな抵抗をものともせず、たくましい腕が私を抱き寄せる。
(ダメなの……)
そう思いつつも身体が動かない。
この子は莉奈と同じ。その思いがどこか私にあきらめをもたらしていた。
私が莉奈を変えられないように槇岡も変えられない。
切ないまでに迫る槇岡の愛は莉奈の愛と同じ。
見境なく熱く、純真でどこまでも深い……
情熱の滲んだ熱い酔いが私の唇をふさぐ。
槇岡と唇を重ねながら頭のどこかでこうなるのを分かっていた気がした。
初めてあの野性的な瞳を向けられた時からずっと。




