59話・ハッタリ
「さーて、お仕事しますか」
目前に広がる灰色の壁。
分厚くそびえ立つそれは、言うまでも無くダイハクテン王都の外壁だ。
石で出来てはいるが、凹凸が少なく登り難い。
登る事も不可能ではないが、登ってる最中に弓矢で狙い撃ちされて終わりだろう。
守りやすく、攻め難い。
理想の城塞都市と言ったところか。
「ま、俺には関係無いけどね」
【飛翔】発動。
いつもの翼を生やし、外壁に沿って飛び進む。
外壁の真ん中辺りまで進んだところで一旦止まる。
見張りにはまだ見つかっていない。
バサバサと翼を上下に揺らしながら考える。
自分の役目は陽動。
それもかなり派手な。
ただ飛び出て暴れるだけじゃ目立つのに足りない。
全員の目が俺に固定されるような、インパクトの強い登場の仕方でなければ。
となると、アレを使うか。
一つのスキルを思い出す。
くく、と笑みが零れる。
誰もがあっと驚くだろうな。
「よっと」
それまで空中に静止していたが、意を決して猛スピードで外壁の上まで飛ぶ。
見張りに気づかれても構わない。
そして、外壁を超える寸前。
俺はスキルを発動した。
【変身】!
【幻妖】!
「お、おおおおおおおオオオオオッ!」
俺の身体が巨大化する。
皮膚は黒く変色し、ゴツゴツとした硬いモノに。
背中から飛翔の翼とは違う、禍々しい翼が生えてくる。
牙は鋭く、爪は鋭利に。
瞳はギョロリとした眼球へ変質し、口元は何でも飲み込めそうな程大きくなった。
王都がまるでミニチュアの建物のように見える。
いや、王都が小さくなったのではない。
俺自身が巨大になったのだ。
「な、何だアレは!」
「怪物だ⁉︎」
「ひ、ひいいい……!」
俺の巨体が、王都に影を落とす。
そこにいる住民が次々と悲鳴をあげる。
地獄教団と思われる、黒装束の人間達も、仲間達と一箇所に集まって空を見上げていた。
よし、そのまま集まれ。
中々にハッタリは効いている。
ニヤリと口元を三日月に歪めて笑う。
俺は今……ドラゴンに変身していた。
それも俺が倒した、あの悪竜ファブニール。
竜の中でも凶悪なファブニールは、他国にもその悪名を轟かせていたのだ。
これがスキル【変身】と【幻妖】
変身はその名の通り、別の生物へと変身するスキル。
幻妖は幻術のようなもので、他者に幻を見せる。
この二つを合わせ、俺は竜へとその身を変えた。
しかしコレ、結構魔力を使うな……
普通の人間ならあっという間に魔力切れだ。
魔力増幅系スキルを沢山コピーしといて良かった。
と、いけないいけない。
陽動の仕事をしなければな。
俺は大きく息を吸い、一度咆哮してみた。
「グオオオオオオッ!」
ビリビリと空気が震える。
今にもドラゴンブレスが出てきそうな勢いだ。
我ながら、名演である。
「ど、どうする⁉︎」
「クローバーさんやハートさんに報告を……!」
黒装束達は慌てふためきながら散り散りになる。
住民をほったらかして、だ。
これ以上ないチャンスである。
しかし、ここで問題が起きた。
なんと各国の騎士や冒険者達も驚き、動けてない。
これじゃあ作戦にならない。
事前に「竜に変身して脅かす」と言ったのに!
けどなんか、皆んな信用してなかったしなあ。
しかもここまでリアルで大きなドラゴンに変身するとは、俺を信じていた人も予想していなかったようだ。
どうする……と、その時。
「優しき精霊よ、戦場の戦士に安らぎをーーリフレッシュ」
緑色のオーラが連合軍を包む。
そのオーラを浴びた者は、落ち着きを取り戻している。
レリーナだ。
彼女が魔法で連合軍を冷静にさせている。
「落ち着くかしら。あれはスキルで姿を変えたスペードよ、私達が恐れる必要は無いわ」
その一言で完全に動揺が払拭された。
当初の作戦通り、部隊が動いていく。
レリーナ……凄い魔法師だ。
なんかこっちを向いてウインクしてくるけど。
連合軍が次々と外壁内へ入って行く。
住民達は歓喜し、彼等へと助けを求める。
黒装束達はギョッとするが。
「攻撃開始!」
アーストンの精霊騎士団が、何かされる前に黒装束の地獄教団を戦闘不能にさせていく。
本当に強いな、ジースみたいな傲慢な奴が生まれても仕方ないくらいに。
「グオオオオオオッ!」
俺は今尚咆哮し続ける。
その度に黒装束達の動きが止まり、精霊騎士団が撃破していく、一応連携は出来ていた。
だが、これもいつかは見破れる。
その時が俺も戦いに参戦する時だ。
「く、おのれ!」
「我らの偉大な計画を邪魔するな!」
地獄教団が次第に反撃の手を強めてくる、だがーー
「おらあ!」
ブレイクが獣化して突っ込み、暴れている。
その彼を援護する冒険者達。
一部洗脳されていなかったカルマの塔メンバーもいるので、そこら辺はやりやすいのだろう。
「落ち着いて、落ち着いて動いてください!」
「大丈夫、必ず守るから」
避難誘導はメイデンとラクトューナを中心に行われていた。
物凄い数の人が、スムーズに移動していく。
レリーナが市民にもリフレッシュの魔法を使ったからだ。
リフレッシュ……良い魔法だ。
どんな属性の魔法なんだろう。
俺は能力看破で彼女のステータスを覗く。
名前:レリーナ
レベル:7
性別:女
年齢:547歳
職業:魔法師
スキル:【冷静沈着】【魔力増大】【直感】
あれ、おかしいぞ?
魔法スキルが一つも無い。
じゃあ、リフレッシュとは何なんだ?
レリーナを見る。
彼女は的確に亜人部隊へ指示を出していた。
ますます、不思議さが増していく。
暇があったら聞いてみよう。
「ン?」
戦場を俯瞰していると、目の前の空間がぐにゃりと歪む。
間違いない、時空魔法だ。
戦闘に備えて竜の変身を解く。
……ふん、ようやくお出ましか。
「久し振りだね、イレギュラー」
「ダイヤ……!」
金髪のくせ毛が特徴の少年、ダイヤ。
彼は時空魔法で空いた穴の向こう側にいた。
こっちへは来ないのか?
「本当は僕自身が君を叩き潰したいけど、残念ながら僕にもやるべき事があってね……君の相手は、彼らにしてもらうよ」
空間の穴から飛び出る人影。
そのまま外壁の真上に着地する。
白銀の鎧を纏った騎士と、無骨な甲冑を纏った男。
双方の瞳は、赤く濁っている。
「こいつらはより深く洗脳している。つまり、百パーセントの力を洗脳したまま引き出せる! もう、前の時のようにはいかないよ」
前の時……ああ、あの時か。
帝国との戦争。
俺はそこで百人英雄をほぼ全員倒した。
「さあやれ! ガウェイン、フロッグス!」
洗脳された二人の男が、襲いかかる。
直感で分かる……この二人は、強い。
すると自然に、頭の中がスーッと真っ白に。
余計な事は何も考えない。
そうすると力が湧く
ーースイッチが入った。
「っ!」
飛翔を解き、外壁へ着地する。
同時に横へ跳びのき、フロッグスの槍を躱す。
避けた勢いを利用し跳ね返るようにガウェインの懐へ。
【分裂】!
【風魔法】!
オレの身体が多数の残像に別れる。
分裂はもう一人の自分を瞬間的に複数出現させるスキルだ。
その一人一人が、風魔法を放つ。
「「「風圧!」」」
単一詠唱の魔法は威力が低い。
しかし、これだけの人数で放てば……台風となる。
巨大な風の竜巻が、ガウェインを呑み込む。
「っ⁉︎」
ガウェインは、何も出来ずに外壁から落ちていった。
それを見届けたダイヤは、呆然と口を開ける。
「な、なーー!」
「手応えないな、これっぽっちも」
「こ、の……!」
フロッグスが槍を高速で突き出す。
回避スキルで避けながら、オレは笑う。
こいつらが弱いんじゃない。
オレが、強すぎるんだ……!




