13話・新スタート
ブレイクとの決闘から、三日が経つ。
俺はその間ずっと自宅に引きこもっていた。
いや、仕方がないんだ。
スキルの事とか、レベルアップの事とか。
ラクトューナとフレアからの質問責めを何とか躱し、ギルドへ戻ったら今度は他の冒険者からも……
そうなる前に俊足と跳躍で逃げた。
自宅に行けば安心だ、誰も場所を知らないから。
それにこんな町外れの家モドキに住んでるなんて、誰も想像しないだろう。
とにかく俺は狩猟をしつつ、自らのステータスについて考察し修練を重ねていた。
まず、今のステータスがこれである。
名前:スペード
レベル:1
性別:男
年齢:17
職業:冒険者(Bランク)
スキル:【トレース】
【剣術】【短剣術】【弓術】【大剣術】
【怪力】【部分強化】【身体強化】
【格闘技術】【獣化】
【鉄壁】【鋼鉄化】【金剛化】
【跳躍】【回避】【先読み】【俊足】【飛翔】
【千里眼】【透視】【暗視】
【魔法・風】【魔法・雷】
【魔力増量】【魔力攻撃】
【獣王の咆哮】
【能力看破】
【錬金術】【交渉術】【人心掌握】【カリスマ】
【道具作成】【アイテム再生】
【気配察知】【気配察知(魔物)】
【解体技術】【冒険術】
【料理】【洗濯術】【整理整頓】
正直自分でも把握しきれてないところはある。
しかもこれらは比較的有用なスキルなので、用途不明スキルが更に幾つも眠っている状態だ。
これでスキルの力を最大限活かしてるとは思えない。
加えて、ブレイクとの決闘。
あの戦いも反省点が多い。
例えば飛翔で上から魔法を撃つとか、最大防御をしつつ攻撃に転じるとか。
選択肢がありすぎて、逆に惑わされている。
折角の手札の数も、使わないのでは意味が無い。
ここら辺の問題をどう解決するかが、今後の課題だ。
あと、レベルについて。
決闘が終わる頃に、レベルは1に戻っていた。
レベルをコピー出来るのは短時間の間だけのようだ。
それから疲労もかなり負担になる。
決闘翌日は動けない程であった。
余り、多用はしない方がいい。
身体を作り変えるって、想像以上に危険だ。
「さて……狩りにでも出かけるか」
剣と解体用のナイフを装備する。
野生動物を狩るのに、もう罠は必要無い。
普通に接近して斬るだけで獲物が獲れるのだから、スキルの力はやはり偉大だ。
今日は野ウサギと猪かな、なんて思いながら家を後にする。
鍵なんて無い扉を閉める。
さあ行くぞーー
「見つけた」
「どわあっ⁉︎」
振り向くとそこにはラクトューナが立っていた。
なんで、どうして⁉︎
てか顔が近い近い近い!
「来て、一緒に」
「いや俺は……」
「問答無用」
ガッシリと手を掴まれる。
握手した時の感触を思い出し、力が抜けてしまう。
結果、俺は半ば強引に連れ去られた。
「乗って」
俺の家モドキから少し離れた所に、なんと馬車が止まっていた、もしかしてこれで来たのか。
まあ確かに、ここから町まで遠いし。
俺は生まれて初めて馬車に乗った。
正面にはラクトューナが座る。
相変わらずの無表情だ。
ガタガタ、と馬車内が揺れる。
窓から見える外の景色が高速で過ぎ去っていく。
空からの眺めもいいが、こうやって地上を走り抜けるのも悪く無いな。
それから数十分して冒険者ギルドに着く。
なんと既にクラン・カルマの塔の面々が待ち構えていた。
えーと、何かの祭り事?
「降りて」
「お、おう」
言われるがままに降りる。
カルマの塔の冒険者から、ジーッと見られる……うう、もしかして俺、シメられるのか?
ブレイクを負かした制裁とかで。
「大丈夫、安心して」
「え?」
「皆んな、歓迎してるから」
歓迎してる?
それはどういう意味なのだろう。
そのまま彼女に押されるように、ギルド内へ。
ギルド内は更に異様な雰囲気に包まれていた。
普段馬鹿騒ぎしてる冒険者達がいない。
いや一応居るが、ワクワクしてるかのような顔と目つきで俺を見ている。
そして、ギルドの中央へ。
なんとローゼさんが待ち構えていた。
隣にはフレアもいる。
「探したぞ、少年」
「はあ、どうも」
ローゼさんの挨拶のようなものに応える。
フレアは横でにやにや笑っていた。
まるで悪戯を仕掛けた子供みたいな表情だ。
「今日は君に提案があってきた」
「提案?」
「ああ……我々、カルマの塔に加入しないか?」
ローゼさんはいつもの調子で言った。
なあんだ、ただの勧誘かー
……いやいやいや!
「あの今回の揉め事の発端て、確か勧誘関係だと記憶してるんですけど」
「ああ、だがそんな事は関係無い」
ローゼさんはキッパリ言う。
一切の淀みなく、真摯に。
「カルマの塔は、常に実力者を欲している。少年、君は真正面からブレイクを負かした……我々が、放っておくと思うか?」
俺の前で、初めて彼女が笑う。
フレアをさっき子供みたいな笑顔と表現したが……
今のローゼさんも、童心に帰ってるような気がした。
「ねーねー、一緒にやろうよ冒険者ー!」
「フレア」
「ほら、ラクトューナもー!」
フレアに肩をぽんぽん叩かれながら、ラクトューナはぎこちない笑顔を浮かべて言った。
「よ、よろしく」
「入る前提なのか……」
がっくりと肩を落とす。
はあ、疲れるなあ。
でもまあ、うん、いいと思う。
カルマの塔。
最初はただただ凄い冒険者集団としか思ってなかったけど、自分がそこに入れるとなると話は別だ。
俺の夢にも一歩近づく。
「ありがとうございます、こんな俺を誘ってくれて……こちらこそ、よろしくお願いします」
「ああ、頼むぞ少年ーーいや、スペード」
ドッと喝采が送られる。
フレアがわーわーと過剰に騒ぐ。
この為に準備していたのか。
全く、冒険者供も暇だな。
けれどこの喝采は、心地良い。
何よりも、俺が名前を名乗っても……誰も反応しない。
知ってて触れないのか、そもそも知らないのか。
どちらでもいい。
俺はこの冒険者ギルドの中では、本当に。
ただのスペードでいられるんだ。
「あ、そういえばブレイクは?」
「まだ治療中、スペード君がぶっ飛ばしたからねー」
「は、はは」
今度からは加減しよう。
「よっしゃー! カルマの塔の新メンバー祝いだ、飲むぞおおおおおおおお!」
「「「おー!」」」
騒ぎたいだけの冒険者が酒を飲む。
ある意味最も冒険者らしい。
しかしカルマの塔冒険者もそのつもりで来たのか、全員酒を飲んで暴れている。
「スペード」
「ローゼさん」
「詳しい説明は明日、クラン本部でする。だから今日は飲むといい」
「はい、ありがとうございます」
そして酒をどんどん飲む。
飲む。飲む。飲む。
そういえば前にも、こんな事があった。
案の定、俺は倒れて介抱される事に。
それでも宴は夜まで続いた。
……で、夜。
俺は気分を晴らす為に外を歩いていた。
「あっ」
「……ちっ」
そこで、全身包帯ぐるぐる巻きのブレイクと会った。
何か話そうかな、と思ったけど。
彼の方からスタスタと歩き、俺を置いてく。
けど、すれ違う瞬間。
「……悪かったな」
これだけ言って、去って行った。
あいつらしい。
俺も謝罪なんて求めちゃいない。
夜の街を月明かりが照らす。
俺の心は、晴れやかだった。




