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1話・儀式

5話まで1時間更新です。

 

 俺はスペード、今年で十七歳になる。

 仕事はしていない、つまり無職、ザ・ニート。

 だが俺は焦っていなかった。


 この王国では十七歳になると成人として認められる。

 そして成人になると、とある儀式を受けられるのだ。

 祝福の儀式……神様から特別な力を貰える儀式。


 特別な力とは、即ちスキル。

 スキルはあらゆる分野に存在し、このスキルによって今後の人生が左右されると言っても過言ではない。


 それだけスキルは重要なのだ。

 例えば、今の国王のスキルは三つある。

【身体強化】【体力増強】【剣術】。


 身体強化は文字通り身体能力を格段に上げる。

 そして体力増強で無尽蔵のエネルギーを獲得し、鍛え上げた剣術スキルで敵を薙ぎ払う。


 この三つのスキルのおかげで、国王はおそらく個体としてはほぼ最強の人間と化した。

 戦争では自ら先陣に立ち軍を率いる。


 普通なら悪手を通り越えた愚行。

 しかし、スキルの力がそれを可能にする。

 結果、一騎当千のバケモノが生まれたのだ。


 このようにどのスキルを授かるのか、そして三つのスキルが上手く噛み合うのか、それも重要である。


 俺はこの祝福の儀式に賭けている。

 それまで狩猟で細々と暮らしていたが、強力なスキルを手に入れれば一気に成り上がる事も可能だ。


 冒険者か、もしくは兵士。

 武功で名を上げれば王族とだって婚約出来る。

 狙ってるのは第三王女のシェイナ姫だが……まあ、例え王女でなくても好きな女を手に入れられるだろう。


 金、女、そして名誉。

 俺はその全てが欲しい。

 強欲だって?

 いや、そんな事は無い。


 皆んな心の中で思ってる筈だ。

 今より良い暮らしがしたい、楽になりたいと。


 そんな事を考えながら町の教会へ辿り着く。

 俺の自宅は町の外にあるのでそこそこ時間がかかった。

 中へ入ると、既に何人者若人が並んでいる。


 全員、期待に胸を膨らませていた。

 お互い頑張ろうぜ!


 その列の最後尾に並ぶ。

 それから数十分して、俺の番が来る。

 ワクワクしながら儀式の間に入った。


「君、名前は?」

「スペードです」

「スペード君か。よし、では儀式を始めよう」


 神父は手馴れたもので、素早く儀式の準備を行う。

 俺は儀式の間の中央へ行き跪く。

 そして、神への祈りを捧げる。


 ……数分後。


「おめでとう、神はスペード君の祈りに応えた」

「本当ですか!」

「ああ、これに触れるといい」


 神父が水晶玉を持ってくる。

 そこに触れると、ふわりと文字が浮かんできた。

 これが俺の、スキルなのか。


【トレース】

【能力看破】

【解体技術】


「ほお、能力看破とは、良いスキルを授かったな」

「や、やった……」


 歓喜に打ち震える。

 一つ目のスキルは聞いた事ないが、そんなのが吹き飛ぶくらいに二つ目のスキルが強力だ。


 能力看破。

 それは人間や魔物の能力を見抜くスキルである。

 具体的には名前や性別、年齢に加えて持っているスキルすらも知れる超強力なスキルだ。


 この瞬間、俺は少なくとも飢え死にだけはしない事が確約された。

 能力看破は珍しい。

 なのに能力看破持ちが圧倒的に不足しているのだ。


「三つ目のスキルは……解体技術か」


 解体技術、これも便利だ。

 その名の通り何かを解体する技術を得られる。

 魔物の血抜きなどに重宝されるスキルだ。

 それに日常的な物にも効果が働く。


「よしっ!」


 興奮から思わずガッツポーズをしてしまう。

 ようやく俺にも運が降ってきた。

 今までの人生、ずっと不幸だったからなあ……


 何となく、昔を思い出す。

 俺が幼い頃、両親は犯罪を犯して捕まった。

 それからずっと一人で暮らしてきたが……犯罪者の家族はそれだけで町の厄介者扱いだ。


 町外れに追いやられ、森で細々と狩猟の毎日。

 だがそれも今日で終わり。

 町の連中に俺が成り上がる姿を見せつけ、今まで俺を蔑んできた事を後悔させてやる。


 ……しかし、このトレースってスキルは何だろう。


「あの、トレースってスキル、何なんですか?」

「すまない。私も知らないんだ……長く儀式をやってきたが初めて見る」

「そうですか、今日はありがとうございました」


 教会を出て行く。


 トレースについては、追々調べるとするか。

 いやまてよ?

 能力看破で自分を調べればいいじゃないか!


 気づいた俺は、早速自分自身にスキルを使う。



 名前:スペード

 レベル:1

 性別:男

 年齢:十七

 職業:無職

 スキル:【トレース】【能力看破】【解体技術】



 能力看破で観れる項目を、一般にステータスと呼ぶ。

 へえ、これが俺のステータスか。

 レベル1は仕方ないとしても、無職ってのはどうにも格好がつかない。


 まあいい、今はそれよりトレースだ。

 能力看破を更に発動させ、トレースの項目を増やす。



【トレース】

 熟練度・0

 あらゆるモノを複製するスキル。

 ただし命は複製出来ない。

 体力を注ぐ事でより精巧なモノを複製出来る。



「……これは」


 俺は震えた。

 トレース……あらゆるモノを複製出来るスキル。

 何だよ、これ。

 こんな強力なスキル、見た事も聞いた事も無い。


 と、とりあえず家に帰ろう。

 落ち着いてから考えるんだ。


 早足気味に町を歩く。

 町中は俺と同じく祝福の儀式を受けたばかりの若者で溢れかえっていた。


 その若者の顔を見れば、だいたいの事情は分かる。

 暗い者はハズレスキル。

 微笑んでいるのは、平凡なスキル。

 笑顔を浮かべはしゃいでいるのは、優良スキル。


 皆これから、自分の将来を考えていくのだろう。


 それから数時間歩いて家へ着く。

 町に行くのも大変だ。

 時刻は既に夕暮れ、もうすぐ夜である。


 チラリとボロい家を見上げる。

 家、というより四角い木の箱だ。

 何度見ても泣けてくる。


 あのクソみたいな両親の所為で俺の人生はめちゃくちゃだ。

 父親は強姦で捕まり、母親は殺人罪で処刑された。

 二人ともくだらない理由で犯行に及んだらしく、もう早く記憶から消し去りたい。


 無言で木箱の家に帰宅する。

 腹が減ったな……

 吊るしてあった干し肉を一口だけ食べる。

 それから自家栽培していた野草を適当に胃袋へ入れ、井戸から汲み上げた水を飲む。


 早くこんな食生活から抜け出したい。

 ああ、毎日豪遊してえなあ……


 そのままバタリと寝転がる。

 そうそう、トレースについた考えないと。

 俺は手始めに木のフォークをトレースしてみた。


「凄え……本当と見分けがつかない」


 まあ、木のフォークがゴミみたいな素材というのもあるが、それにしたって瓜二つな出来だった。

 これをどう活かそうかなあ。


 とりあえず、明日また町へ行ってみよう。

 何か分かるかもしれないし。

 そうして気づいたら眠っていた。



 ◆



「どうだ、強力なスキル保有者はいたか?」

「は、このような者が一人おります」

「ほお、能力看破に解体技術……トレース?」

「新種のスキルのようで」

「そうか……よし、暫く観察しろ」

「はっ!」


 スペードの知らないところで、事態は動いていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 能力看破は珍しい。 なのに能力看破持ちが圧倒的に不足しているのだ。 ↑珍しい、つまり少ないのだから不足しているのは当たり前ですが、なのにという言い方は文の流れとしておかしい気がする。
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