第八章 超心理的青春
占い師兼組織情報部員による復讐劇を中途半端に留めた二日後。もちろん僕は通学していた。
那実も遅刻しながらも授業には出席していて、崎野さんと天照は二日連続の休みだ。この二人については現在入院中で、組織運営の病院で治療中だ。そこには三月さんも入院していると沖田先生から聞いた。
僕と那実は食堂に向かっていた。昨日竹須佐さんと約束したからな。
「今日は何食べる? またラーメンか」
「続けて一緒のもん食べたらあかんって気分になれへんか? そやな今日はうどんや」
結局麺類かよ。確かに味と太さとかは違うけど成分は一緒だぞ。せめて米類にしろよ。
食券を買い、那実は食券を食堂のおばちゃんに渡しに、僕は席取りのため食堂をフラフラ歩いた。
「こっちこっち、那実」
「あっ、竹須佐先輩、どうも。というか僕は薙ですよ」
「そんな普通なツッコミするなよ、わかってるわかってる。ちょっといじっただけ」
そう言って竹須佐先輩はうどんをすすった。
あんたもうどんかよ。隣を見るともう一つ空の器が置かれていた、形を見る限りこちらもうどんだな。
「あれ? 誰かおったんですか隣」
「そこはアズが座ってたけど、今アイス荒らししてるよ」
アイス荒らし? 僕は気になってアイス売り場へ近づいた。
そこにはアイスの山を手で掘りながら「これは違う、いやこれも違う」とか呟くアズこと灘梓玖さんがいた。
「どうも灘さん、何してるん?」
「おっ先見くんこんちは」そう言うと灘さんは僕の耳元に近づき小さな声で「直感で当たりを探してるの。ちっと待っててくれ、今三つ見つけたからあと一つだよね」
超能力をこんな軽い気持ちで使ってもいいのだろうか? 僕は呆れながらも一応礼だけは言って、さっき取った席に着いた。正面にいる二年生も腕を正面に伸ばし手を開き上下に動かしている。すっごい怪しいな、おい。
その手の先を見るとティッシュが空を舞っていた。
いくら何でもやり過ぎだろ、確かに風に乗って飛んでいるように見えるけど、食堂内にはそんな風は吹いていないぞ、吹いているのは扇風機の風くらいだ。
「先輩、こんなとこで能力使っていいんですか?」
竹須佐先輩は集中した面持ちを崩さずに答えた。
「こういう日々のトレーニングが大事だ、こいつはちょうどいい重さだしね能力的にも物質的にも。それにサッカーでもイメージトレーニングが大事だと言うだろ? あれといっしょだ」
サッカーと超能力を一緒にするなよ、あんたは物の区別が出来ないのか。全く二年になると超能力に対してこれほどまでルーズになるのかな、この二人には危機感が足りない気がする。
それにしても那実の奴、どれだけ時間かかっているのだろう? 食券渡してからおばちゃんがすぐ料理を作ってくれるだろ、それなのにかれこれ五分は戻ってこないぞ。
僕は再び席を立ち、那実がいる冷水機に行った。
「いつまで待たすねん、アホが」
那実はコップを左手に持って指を鳴らし、また違うコップと持ち替えて指を鳴らし、それを繰り返していた。
もしかしてこいつも超能力の乱用か?
「ちょっと待てよ。今かわいい子が使ったコップを探してるんやから」こいつはやっぱり最低だな、そんなことに能力を使うなんて。
「おっ、これは食堂で彼氏と一緒に飯食べてるときに二年の牧瀬さんが使ったコップやんか、これはキープと」
キープなんてしなくていいから早く行くぞ、そうじゃないと灘さんが超能力を使って当てたアイスが溶けるじゃないか。
「早くせぇや、お前のうどんものびるぞ」
僕が那実を急かすとコップを冷水機の横に置きポケットから食券を取り出した、しかも二枚。
こいつは本当にしょうもない奴だ、呆れて物も言えないよ。食欲より性欲かよ。この変態野郎。超能力を与えてくれた科学者の方達もこの姿を見ると嘆き悲しむだろうな。
仕方なく僕は那実の手から自分の食券だけを取り、丼コーナーへ向かった。
「おばちゃんビビンバお願い」
「はいよ!」と言う声が響き、一分も経たないうちにビビンバは完成し、僕の目の前に置かれた。
「特別に大盛りだからね、薙くん」
「マジで? ありがとうおばちゃん」と言いたいところだけど、この人はおばちゃんとは違う。歴史の先生だ。僕はあえて突っ込まずに無視をした。
「あっ薙くん。いつもみたいな突っ込みちょうだいよ」
もう面倒くさい、はやくまともな人間が一人でも戻ってきてくれないかな? 三月さんとか三月さんとか三月さんとか。
もう僕一人じゃこんな日常からはみ出した奴らをコントロールできないよ。人と違うところはせめて超能力だけにしてくれ。
そんな憂鬱な昼休みをなんとかやりきり、授業は寝たきりで放課後を迎えた。
僕は素早くカバンを担ぎ、寮には戻らずそのまま京都駅へ小走りで向かった。行き先はもちろん病院だ。
そこは病院と言っても診療所くらいの大きさだ。理由は組織の人間しか利用しないから病室を何十室も作っても意味がないからだ。しかし見た目は綺麗で、そこからは組織がそれほど古くないということが考えられる。
扉を開けると、切望の二人が楽しそうに会話をしていた。
「あっ、薙くんやありがとーお見舞い来てくれて」
「毎日面倒なのにありがとうございます、電車に乗ってわざわざここまで来てくれて」
一応二人は精神に支障をきたしているという理由で入院しているが、そんな雰囲気をまるで感じさせない。どちらかというと学校にいるあいつらのほうが精神異常者だと思ってしまう。
精神障害を起こしている二人を一緒の部屋に置くなんて危険じゃないかと思っていたけれど、二人の心のバランスがすごくいいらしく、同室で治療中のようだ。三月さんの明の心、崎野さんの清の心、それらの状態がよくなってはやく共に高校生活を送れることを望んでいますよ。
しばらく話しをして、みんなでりんごを一個食べ終わり部屋を出た。
そして一番奥の部屋の扉を開く……がやはりいない。
あいつは本当に、一昨日腕を撃たれたんだからもう少しくらい安静にしてろよな、傷口が開いても知らないぞ。
「あら薙さん、天照さんならいないわよ」
「三月さん、あいつまた出歩いてるんですか? 腕の怪我まだ治ってないのに。でもあいつやったら自分で治せるか」
「それは無理よ」そう言って三月さんは口を手で覆って微笑んだ。
「あの子は自分のことが嫌いだから治せないのよ」
どういう意味だそれは? まぁいい、とりあえず向かうとするか。
僕は三月さんに二度目の別れの挨拶をして病院出て、あの公園に向かった。
全ての始まりの場所へ。
木々が揺れる小さく遊具も少ないので子供ですら近寄らない公園。そこを好むのは一匹の黒猫と容姿と性格が正反対な女子高生だけだろう。
「おい、病院抜け出して何してるねん」
「別にいいじゃない、あたしの体でしょ。あなたに心配される必要はないわ」
ベンチに座る天照はそう言って膝元にいる黒猫をそっとなでる。
「関係あるよ。お前があのとき僕の代わりに銃弾当たってなかったら、僕は今頃チーンやったで」
「………ところであなた、今まであいつと間違われて声をかけられたことあるかしら?」
カッコ付けたこと何て言わなけりゃよかったよ。しかもお礼を流すなんて初めてやられたぞ。
「あいつって那実のことか?」
――本当だ、冗談ならあるけれど、本気で間違われたことなんて一度もない。どうでもいいことだけど。
「そのことに関してはおいおい気付くといいわ」
「そんなことより崎野さんのことやけど許したってくれへん、あの子も抱えてる物があるやろうし」
「別に恨んでもいないし、怒りもしてないわ。あたしは比較的あの子を好いているの」
お前以外と心が広いんだな、よかったよかった。
「ところで天照、言い忘れてたことあったけど」
「何?」
「お前、仲間になってほしいって言ったやん」
「あぁあのことね。別にいいわよ、あたし一人で出来る限りを尽くすわ。あんなものを初任務で見てしまったら、そう言う気持ちを無くすのもわかるわ。それにあなたは――」
「違うんや天照、聞いてくれ。こんな僕でよ、よかったら」
何を緊張しているんだ僕は。相手は天照だぞ、顔はよくっても性格は最悪……でもないか。
「事件の中心人物を逃がすような僕でもよかったらその仲間になってもええ……で」
風が心地よく吹き、天照の長い髪がなびく。
「どういう気の変わりよう?」
「――ヒツジはヒツジと戯れるのが一番やから」
やっと笑ったてくれたか、そういう顔を見られると思うとこれからもやってやろうと思うよ。
「よろしく、薙」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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本当にありがとうございました。