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君は窓際族でいてくれるかい?
僕ー高橋は、山口社長の快活なほほえみを思い出していた。この会社は、社長の下に専務が居て、あとは数十人の部下がいる。僕は玩具を作るときのプロジェクトリーダーを任されている。
待遇的にも、世間一般における窓際族ではない。
でも、社長はいつも僕の席を窓際においた。
青葉ちゃんが登ってきたときに、一番に窓を開けられるように。
言葉には出さなかったけれど、
「また忍び込んだのか・・青葉は忍者になれるんじゃないか?」
前に、そう言いながら青葉ちゃんを抱き上げた瞳が、そう言っていた。
僕は山口社長に全幅の信頼を寄せられている、と思っている。思っていた。
僕は、その信頼に答えることができなかった。
「・・・なんでしょうか、加藤専務。」
「これからは社長代理を名乗ることにするよ。其れで、社長の前で聞かせてもらおうじゃないか。」
山口社長は、まっすぐに僕を見つめていた。それは、どの道を選んでも、君を恨まないよ。そう言っているように僕には思えた。思いたかった。
社長について、路頭に迷うか。
加藤について、会社に残るか。
「高橋君、考えてくれたかい?君の、進退について。」
加藤のいやらしい笑みが、脳味噌に焼き付いている。
選択肢はそう多くなかった。
「会社に残りたいです。」
僕は、会社に残る道を選択した。
山口社長の顔は、見ることができなかった。
けれどこれは僕なりの、最善の選択だったんだ。
学校のチャイムの音で、意識を、今に戻す。昨日から僕は、社長とのいい思い出ばかりを思い出していた。
そろそろ青葉ちゃんの授業が終わる時間で、そろそろ僕は窓の鍵を開けて待っていないといけない時間で、そして青葉ちゃんに、「泥棒がはいるよー」といたずらっぽい笑みを向けられるころだ。
けれど、僕は意識を窓からそらした。鍵も開けなかった。せめて僕の姿を見せないようにと、埃の積もったブラインドをおろそうとしたとき、タイミング悪く、絶望した表情の青葉ちゃんと目があった。




