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「おもちゃの相棒ね。」
株式会社タカライの社長は、僕の作ったプレゼン資料を、興味深そうでもなく、つまらなそうでもなく、ただ見つめていた。
「で、これをどうやって売るの?バージョン違いとか、初期購入プレゼントとかつけるの?」
「いえ。簡単に手に入った、流行のおもちゃは流行がすぎれば捨てられてしまいます。僕は、子どもと一緒に成長できるような、おもちゃの相棒を作りたいんです。」
ふーん。と資料に目を戻すけれど、やはり乗り気ではないみたいだ。
「加藤社長からは、絶対売れるおもちゃがあります!って聞いてたんだけど、本当に君は双葉の社員?」
社員証を見せてよ。そう言われて、血の気が引いた。そんなものは、ない。あの日、加藤に取り上げられたままだ。
えーっと、少々お待ちください。そんなようなことをいいながら、僕は最後の望みをかけて青葉にメールをした。
「ちょっと社員に持ってこさせますね、それまでに具体的な案をいくつかご紹介させていただき
たいんです。」
サンプルデータとして、青葉とジャックの写真を見せた。ジャックは、昔双葉で女の子用に開発された、手触り重視のテディベアだ。
「うちの娘です。会社で開発されたテディベアをジャックと名付け、いつも一緒にいます。まだまだ子どもで、言うことを聞かない時もありますが、「ジャックが片づけろって言ってるぞ」と言うと案外素直に聞きます。」
「しつけに便利、いいね、親に売れそうだね。」
タカライの社長が初めて好意的な意見を出した。このまま、押し切るしかない。
「今まで、つらいこともあったと思います。でも娘はジャックとともに乗り越えてきました。自分の相棒感を出すために、細かい仕様やデザイン、服などを変えることができます。テディベアを制作したときは、私たちの会社ではそこまでする力はありませんでしたが、タカライさんと一緒にやらせてもらえたら、様々な方面からアプローチできるでしょう。」
何個かスライドを見せ、ムービーを見せ、1時間ほど時間を稼いだ。ああ、まだ青葉はやってこないのか。窓の外に目をやると、そこに・・・おもちゃと一緒に加藤と戦っている青葉が見えた。
・・・何故かおもちゃは意志を持ったように、青葉に従って加藤に襲いかかっている。
「で、社員証は?」
しまった。わたしが意識をそらしたばっかりに、向こうが社員カードのことに気付いてしまった。
「証明できないなら終わりですよ。相棒おもちゃもいいけどね、時代はゲームとの連動でしょ」
社長は立ち上がった。秘書が、16時から会食があります。と言った。
「じゃあ、私はこれで。」
会議室から出ていく社長の後を追う。エレベーターの中でも必死に説明をするが、はいはい、としか言われない。
そうするあいだに入口まで来てしまった。入口のガラス張りの自動ドアの向こうに、おもちゃまみれになったあまりの事態に半泣きの加藤と、その加藤の会社入りをじゃまする青葉と・・・加藤の右頬にふわふわの手でパンチするジャックの姿があった。
「ジャック!もっとやっちゃえ!」
ぽふぽふぽふと連続パンチ。効いているのかは定かではない。
タカライの社長は、あまりのことに言葉を失っていたが、ゆっくりと自動ドアを開け青葉の元にあるいていった。




