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プレゼンの場所は、有限会社双葉とそんなに離れた距離じゃなかった。僕は自転車に乗って、ただお父さんのものだった会社に向かった。
信号のそんなに多くない道だから、立ちこぎをしてびゅんびゅんすすむ。かごに入れたロボが、「ぼっちゃん、くれぐれも交通ルールはまもってくだせえ!あっし、死ぬのはごめんですぜ!」というので、信号はいちいち停まらなくてはいけなかった。
自転車で15分ほど走って、会社の前についた。もう息はハアハアとあがっていて、眼鏡が曇った。
僕は、大変な問題に直面した。
どうやって、会社に入る?
入口のインターホンを押して、山口もと社長の息子ですが、お父さんの社員証を取りに来ましたって言う?そんなの通してくれるわけがない。
僕はへたりこんだ。僕は無力だ。お姉ちゃんみたいに戦えない。
「ぼっちゃん!木を登りなせえ!」
ロボが僕の手を引いて木の下までやってきた。お姉ちゃんはこの木をするする登る。でも、きっと僕にはできない。
「僕一人で、登れないよロボ・・・」
「一人じゃねえです!あっしもついてます、もうぼっちゃんしかいねえんです!」
ロボがついてる。そうだ。僕には相棒ができた。お姉ちゃんとジャックのような、すてきな相棒だ。
僕は木に手をかけ、体を引き上げた。鉄棒に足をかけるように、体を枝の上へ。もうすでに恐怖で顔がひきつっている。背中のリュックにいれたロボが声をかけてくる。
「つぎは右の枝に登るんですぜ!大丈夫、ぼっちゃんならできますぜ!」
ちょっとずつ、確実に、ロボと一緒に登っていく。もう怖くない。三階の窓の前までやってくると、ブラインドが開き、高橋さんがひどくびっくりした顔で僕を見ていた。
「若葉君・・・?」
「おとうさんのカード、とりにきました。」
手を差し伸べても、お姉ちゃんより小さい僕は微妙に高橋さんに届かない。僕の腕をつたってロボが高橋さんに手を差し伸べて、ようやく届いた。
「これがカード・・・だけど、どうしてうち開発のロボットおもちゃにこんな機能は・・・」
「時間がねえです。説明は青葉姉さんにあとで聞いて下せえ!あと・・・」
カードを抱いて、僕に抱かれたロボはちょっとだけ高橋さんの方を振り返り、
「あっしのこと、作ってくれてありがとうごぜえます。」
そう言って照れくさそうに笑った。
「ロボ、降りるのはどうすればいいの・・・」
「落ちれば早いですぜ?」
「冗談じゃない、死んじゃうよ!」
僕がかぶりをふると、その反動でロボと手が離れた。ロボはスローモーションで地面に向かって真っ逆様に落ちていく。
僕も半分落ちるようなスピードで無我夢中でロボを追いかけて木を降りる。
もう少しで地面にぶつかる!
という寸前で、黒い影がロボを掴んだ。
「ひゃあ、死ぬかと思った。恩にきますぜ、カラスのお嬢さん」
僕は自分の中では信じられないスピードで地面に降りて、一息ついた。カラスが一羽、ロボを掴んでいて、さらわれるのかと思ったけど、優しく地面におろしてくれた。
「それが、あなたたちの夢なんですね。おもちゃが動く、話す。いままでのどんな夢よりすてきです。」
カラスは上品な声でころころと笑った。
「僕たち、会社を取り戻さなきゃいけないんだ。そのために、力が必要なんだ。カラスさんも、手を貸して」
私に手はありませんけれど、喜んで。そう言って笑ったカラスを引き連れて、僕は自転車に乗って来た道を引き返し始めた。
僕の後ろには、有限会社双葉に眠っている試作品おもちゃたちが列をなして歩いている。高橋さんが、会社の倉庫を全部あけておもちゃをだしてくれた。
おもちゃの大行進の先頭のぼくは走り出す。
お姉ちゃんは、まだ戦っているだろうか。




