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「来週から一週間、休みを取る。妻が、社長になったからにはお祝い旅行をしたいと言って聞かなくてなあ。韓国にでも、買い物と食べ歩きツアーをしてくるよ。」
加藤社長代理は、にやにや笑いをしながら、誰に聞かせるでもなくそう言った。
「社長代理、お願いがあるのですが」
「なんだい高橋君。社長、と呼んでくれるならきいてもいいが」
握りしめた拳に力が入るのがわかる。それでも、僕に残された道は、加藤にしっぽを振ることしかなかった。
「・・・社長。ワンダー君のプロジェクトに、僕も加えていただけませんか。僕ならもっと、売れる玩具を作れます。」
加藤は一層、ニヤリと笑った。僕の肩に手を押きながら、「期待してるよ、高橋プロジェクトリーダー」と言った。
そこから加藤の部屋・・・早くも社長室を使っている・・・に呼ばれ、説明を受ける。
僕は晴れてあのばかばかしい玩具、ワンダー君シリーズプロジェクトのリーダーに就任した。
問屋や、大手玩具会社への連絡係は僕になった。つまり、一番面倒な立場だ。
ワンダー君の仕様変更・・・特に値段と互換機能については、きかないと言われた。基本的に加藤の言ったとおりのものを作り、売れなければプロジェクトリーダーの責任だ。
ただ、加藤が、これはもっと売れるかもしれないと思った機能については検討すると言われた。
席に着き、与えられたパソコンでメールを確認する。鎌田さんからメールがきていた。
ー来週末、タカライに向けたプレゼン会があります。日程調整頼まれてたんですけど、旅行があるから、高橋さん、プロジェクトリーダーとして、参加してみませんか?
僕は、胸の動悸を他人に聞かれないためにはどうすればいいか、考えなくてはいけなかった。
これはチャンスだ。最後のチャンスだ。
すぐにでも山口社長の家に走っていきたかったが、きっとこれは加藤の罠なのだ。目立つ動きをしたら、すぐに首を切られる。来週末のプレゼンまで、きっと社内の誰かが僕を見張っている。
誰にも気付かれないように、山口社長にプレゼンの日程を知らせるにはどうしたらいいだろう?
僕は、手紙を書くことにした。青葉ちゃんと、山口社長に向けて。それを、窓の外に置いておく。空気の入れ換えをする振りをしながら、わからないよう、外側の窓の下に手紙をテープで貼り付ける。これに気付くのは、きっと青葉ちゃんだけだ。
青葉ちゃんが気付かない時のことも考えておかなければいけない。けれど、不思議な確信があった。きっと青葉ちゃんは見つけてくれる。僕を、まだ信じてくれてさえいれば。
僕はブラインドを最後までおろさず、半分だけ上げておいた。青葉ちゃんが、僕にだけ見えるように。




