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異世界令嬢はやはり厄日のようです。

我に返ると、彼女は既に裏に引っ込んでいた。

公爵令嬢の取り巻き達が、『私』の方に仕返しをしてくるんじゃないかと気が気では無いのだが、両方『私』なのだから仕方ない、それに今日は彼女にやってもらわねばならない大仕事がある。私の仕事は、それまでのお膳立てだ。


公爵令嬢が去り、廊下の張り詰めていた空気が霧散すると他の生徒達も三々五々に散っていく。


「大丈夫でしたか?」


そう言いながら、尻もちをついたままの女子生徒に手を差しのべると、女子生徒は公爵令嬢とその取り巻き達の後ろ姿を見つめながら呟いた。


「もっと罵ってほしかったのに……」

「………は?」

「はぁ……」


女子生徒は心底残念そうにため息をつき、立ち上がるとこちらにぺこりと頭を下げた。


「助けて頂いてありがとうございました……」

「えぇ……どういたしまして?」


去っていく女子生徒の、落胆した背中を見ながら

世の中には色んな趣向があるんだなぁ……

としか私は考えられなかった。


◇◇◇◇◇


光ある所に影ありと良くいうが、それはこのグランディア高等学校とて例外では無い。


そもそもこの学校は、王国にとって有用な生徒を育てる場であり、いわゆる落ちこぼれと言われる生徒はすぐに見捨てる傾向が強い。留年してしまえば、それは退学と同義だ。


留年はしていない、しかし落ちこぼれ。こういうような生徒のたまり場と化しているのが学園内の『旧サロン』と呼ばれる建物だ。


ここにそういう生徒が集まっていると、何かと喧嘩だとかそういった問題が起こりやすく、何年も前から問題視されていた。


「そこで、私は旧サロンの改革を提案いたします!」


カルミアは放課後の生徒会定例会で熱弁を奮っていた。そのカルミアの提案を、生徒会長が質問で返す。


「というと?」

「つまり現在使われているサロン、『新サロン』と呼ばれている場所ですが、ここは建物が小さく、三年生が独占している状態なのです」

「そうだね。二年生、一年生からも苦情の声が上がっているよ」

「そこで広い『旧サロン』を改修し、全学年に開放する事によって様々な学年の交流を図るのです!」


そこで手を上げたのが、昼の女子生徒(生徒会書記)だった。


「でも、改修するといってもあの旧サロンには、えと……その……なんて言うんでしょう、あの…少々柄が悪い方々が……その人達はどうするんですか?」

「説得します」

「説得ぅ!?」


他の役員から疑問の声が上がった。


「あいつらは落ちこぼれだぞ?説得なんか聞くような奴らじゃないんだ!」

「まぁまぁ皆さん」


生徒会長が、騒いだ役員を立ち上がってなだめる。


「カルミア副会長の事です、何か案があるのでしょう。どうです?ここは副会長に一任しては」


おお!!良い事を言うじゃないか生徒会長!!ナイスフォローだ!!

生徒会長の放つ爽やかオーラに、他の役員もしぶしぶと言った体で頷いている。


「よし、それでは旧サロンの事はカルミアさんにおまかせします。会計の方はカルミアさんの説得が済み次第、旧サロンの補修費の相談をお願いできますか。それでは次の議題ですが…」


生徒会長の声を聞きながら私は、陰でにやりとほくそ笑んだ。

これだ。私がどうしても副会長にならなければならなかった理由、それが『権力』


もし私が、書記や会計だったとして『旧サロン』の改修を訴えたとしても、最終的な責任者は、風紀委員や他の役員に取られかねない。

『旧サロン』の改修を議題として提出でき、かつ自分が責任者と慣れる立場+目立たない立場。

副会長程うってつけの立場もあるまい。


◇◇◇◇◇


生徒会の定例会の後、私は少し気がかりな事があり、昼の女子生徒を呼び止めた。


「ちょっといいかしら?」

「はい」

「今回の議事録を見せてもらいたいのだけど」

「もちろんです!どうぞ!」


生徒会書記の役割は、言わずもがな議事録を取る事であり、書記のノートには会議の全てが載っていると言っても過言ではない。

もし私の『計画』に綻びが出たとして、その時重要になってくるのがあの『旧サロン』だ。『旧サロン』の改修の責任者が私だとバレては非常にまずい。

彼女の議事録にはもちろん私の発言の全てが載っているはずであり、こんな事に金を使いたくは無いが、買収しての書き換えてもらうのもやむなしかもしれない。


そう思いながら開いた議事録には…


「あれ?」


その議事がうやむやになっていた。実に微妙に、責任者が誰か分からなくなっている。

……なんで?


「ねぇ、これって…」


するとその女子生徒が、待ってましたと言わんばかりに口を開いた。


「あぁ!すみません!副会長の『大事』な『お仕事』の記録をうっかり!本当にうっかり!書き忘れてしまいました!!罵って下さって構いません!!どうか罰を!!」

「い、いや、別に良いんだよ?」


構わないと手を振るも、何故か叱ってくださいとぐいぐい来る。

何この子怖い!!議事録の件は結果オーライだし早く逃げないとヤバイ気がする!!


「どうか私に躾を!!躾をぉぉおお!!」

「!!!!????はいこれ議事録!返したわよ!書き直さなくていいから!それじゃ私はこれで!」


私は、女子生徒の叫び声を聞きながら一目散に逃げ出した。

『』って便利

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