異世界令嬢は『二人』いるようです。
面倒くさい事になった……
私の存在に気づいた者、私が副会長である事を思い出した者、周囲の生徒の視線がどんどんこちらに集まってくる。公爵令嬢の取り巻きからもチラチラこっちを見てくる奴が出てきた。
しかし正直な所、私に彼女を助けるメリットが見つからないし、私はそこまでの聖人君子では無いのでそんな活躍を期待されても困る。
いやでも書記か……書記……書記……ここで借りを作っておくのも一つの手か?何かこれからの計画の役に立つかもしれない。
よし、後はもう一人の『私』に任せよう、こういう事は彼女の方が得意だ。
そう考えをまとめてから、私はもう一人の私に、ゆっくりと意識を手渡した。
◇◇◇◇◇
記憶が人格を作り出すという。
6歳の春に高熱を出した私は、それが引き金となり、前世の記憶を思い出した。それと共に生まれたのが、もう一人の『私』
実は私は、高熱の影響で6歳以前の記憶が薄い。その為私自身、どちらが本当の私なのか分からない。もしかしたらどちらも私なのかもしれない。
口調は丁寧だが常に慇懃無礼で、冷酷な『私』
面倒くさがりやの癖に、利己的な『私』
カルミア=ヴァン=ミェールは『二人』いる。
◇◇◇◇◇
自分が『表側』になっている。そう気付いた彼女は、心の中で舌打ちをした。
(助けると決めておいて、いざ助ける時になったら雲隠れとは……相変わらず身勝手な『私』ですこと……)
しかしまぁ、ここで回れ右をして逃げては世間体がよくないのも確かだ。
「全く……矢張り今日は厄日でしたわね」
カルミアは、小声でそう呟いてから、女子生徒を取り囲む円陣へと足を向けた。
「皆様?少々よろしいですか?」
カルミアの声に、メリアの取り巻きの中でもリーダー格の数人が、カルミアに対峙した。
「なんですか?ヴァン=ミェール嬢」
「『メリア様』に何か御用ですか?」
このコバンザメ達、私達とは言わずに、あえてメリア様と言う辺りに嫌らしさが滲み出てますわね、虎の威を借る狐と言うかなんと言うか……このやり方で、意見してくる者を黙らせていたのでしょう。
ふふふ、少しつついてみましょうか。
「ワタクシは皆様と申したのですわ、皆様と。聞こえなかったはずは無いですわね?」
コバンザメや、周りの生徒のざわつきが大きくなる。
「も、もちろんそう聞こえておりましたわ?」
「私達は、高名なカルミア=ヴァン=ミェール嬢は我々では無く、メリア様にお話があるのではないかと……」
「き、気を効かせたのです!」
あらまぁ、大丈夫ですか?ふふふ、口調が乱れていらっしゃるようですけど?しかしそれなら好都合ですわね。
「まぁ!皆様の御配慮痛み入ります。ではお言葉に甘えてメリア様に直接お話させて頂きますわ」
「えっ……」
「あっ……」
「うっ……」
途端に取り巻きの方々顔色が悪くなる。
しかし、自分達が『気を利かせた』と言ってしまった手前、撤回は出来ないでしょうし、仕方ない事ですわ。恨むならご自身の足りない頭を恨んでくださいまし。
すると公爵令嬢に向かって、カルミアは深々と頭を下げた。
「メリア様、此度の件ではこの下級生も、痛く反省しているようですわ。ここはワタクシの副会長の名に免じて、その生徒を許していただきたいと存じますが、いかがでしょうか?」
「何言ってるの!この生徒は…」
「構いません」
コバンザメの言葉を、公爵令嬢が遮る。
あら、ただ立っているだけの木偶かと思ったら案外話の分かる方のようですわね。
「メリア様!?」
「構いませんと言ったのです。私はもう気にしておりません。皆さん、参りましょう。」
女子生徒に背を向けた公爵令嬢と共にぞろぞろと移動をはじめたコバンザメに、会釈をすると、去り際に何匹かのコバンザメが、小声で脅しをかけてきた。
「調子に乗るなよ、貧乏者」
「今度会ったら潰してやる」
「覚悟しておく事ですわ」
「ふふふ、それは楽しみですね。期待してますわよ?」
それら全てに微笑んで返し、カルミアは紫の瞳を、妖しげに光らせた。
面倒くさがりやで、利己的。
慇懃無礼で、冷酷。
どっちも碌でもない性格って事は確かです。
酷い駄文をこれからも上げていきますが、多目にみて貰えればと思います。
辛口評価、大歓迎です。