任侠ヤクザは死ぬようです。
暗い路地裏、その突き当たり。
降りしきる雨にも負けない大声で、四人の男が怒鳴りあっていた。そのうち三人はいかにもチンピラ然とした服装だが、その三人に対峙する一人の中年男性は高そうな黒スーツを着込んでおり、一目で格の違いが分かる。
「お前等……頭に受けた恩を仇で返すってのか!?」
「元・頭だろ?もう老いぼれ共の時代は終わったんだよ!」
黒スーツに向けられる銃口、その冷たい眼差しを感じながら1歩前に出る。
「う、動くんじゃねぇ!」
「黙れ三下!!!」
ビクッと拳銃を持ったチンピラの肩が跳ねる。
「老いぼれの時代は終わった?ならなんだ?お前らが新しい時代を作るってのか?ハッ!冗談も大概にしとけよ」
「うう、うるせぇ!うるせぇうるせぇうるせぇ!」
「いいか、時代ってのは引き継がれるもんだ。力づくで得た時代ってのは長続きしねぇんだよ!」
言いながら歩を進めるに従って、チンピラ共の震えも大きくなる。
「そんなに震えてちゃ赤ん坊すら殺せんぞ?ほらどうした、撃てよ」
こちらも拳銃を持っていればさっさと撃ち殺したものを……
恐らくさっき飲んだ店でスられたのだろう。おかげでこちらの間合いまで時間稼ぎをしつつ近付かなければならない羽目になってしまった。
「いいか?貴様らなんざ『組』に拾われなきゃ一生ごみ溜這いずり回ってたんだ。頭が亡くなられた今、お前らを待ってるのはまたごみ溜だ。ドブ水すする準備をしとけよ?」
その瞬間、銃口の奥で火花が見えた。やっと撃ったか阿呆め、何をのろのろしてるんだか。
小さな鉛の塊が、胸板に当たる。ハンマーで殴られたどころではない衝撃に後ろに倒れ込みそうになるが、それでも前へ。
体の末端から急速に感覚が無くなっていくのを感じつつ、俺を撃ったチンピラの襟と裾を掴み、一本背負いの要領で、アスファルトの濡れて黒味を増した地面に勢いよく叩きつける。
唖然としたまま宙を舞ったチンピラの体から、背骨の折れる音を確認してから、同じアスファルトの上へついに倒れ込む。老いぼれを舐めるなよ。
チンピラの仲間と思われる奴らは、何かを叫びながら一目散に逃げていった。惜しい、奴らがどんな悲鳴を上げているのか聞いてやりたかったが、もう聴覚が無い。感覚ももう大半が失われている。
願わくば、次はもう少しましな死に方をしたいもんだ。
そんな事を無意識に呟いてから、男の意識は切り離されていった。
本日22:00頃に二度目の更新をします。
そちらも読んでいただければ幸いです。