器用な姉
うちの姉は好奇心が強い。子供の頃からそうだった。
普通の人ならそういう物だ、で済ませるような事でも追求しなければ気が済まない。子供というのはなんでも疑問に感じて口にするものだけれど、姉のはそういう領域を越えていた。
姉はよく、電化製品を分解していた。子供の頃は分解して壊してしまうばかりだったが、今では元通り組み立てられるようになった。
女のくせによくプラモデルを作っていて、ジャンルは何でもありで、戦車や飛行機、お城にロボット、果ては拳銃やラジコンにまで幅広く手を出している。比較するまでもなく僕よりも遥かに手先は器用だ。
先日などは、買ったばかりの新車を分解していた。小学生の頃から親の車を分解していたおかげで、きちんと元通りに組み立てられたらしい。ドライブに誘われた時は、迷わず断っておいたけれど。
そんな変わり者の姉も年頃になり、彼氏が出来たらしい。世の中には物好きな人もいたものだ。
ところが、姉が家に連れてくる彼氏は毎回違う人だった。なのに姉はいつも同じ名前でその人の事を呼ぶ。おかげで僕や両親はすっかり混乱してしまった。
もしや不特定多数の男と付き合っているのだろうか。僕達は心配になり、家族を代表して僕が姉に事情を尋ねてみた。
「何を言っているの。私は一人としか付き合っていないわよ」
「で、でもさ。この前の人は太った『信夫さん』だったけど、昨日連れてきた人は痩せぎすの『信夫さん』だったじゃないか。ずっと前はヤクザみたいな『信夫さん』だったし、アイドルみたいな『信夫さん』もいたよね。どうなってるの?」
「そんなに心配されていたとはね。いいわ、あんたには教えてあげる」
僕は姉に連れられ、とあるアパートへと案内された。そこが『信夫さん』の住居らしい。
アパートの一室で待っていたのは、レスラーのような大男だった。姉によると、この人も『信夫さん』らしい。
僕を部屋の隅に待機させ、姉は愛用の工具箱を手にして『信夫さん』と向かい合った。何やら緊張した面持ちの『信夫さん』に対し、姉は笑顔を浮かべて手にしたノコギリを振り上げた。
……何と言うか、凄かった。人間がどういう構造をしているのか、僕はとても勉強になった。
新たに組み上がった『信夫さん』は、レスラーとは似ても似つかぬスリムな体型をした美青年だった。余った『部品』を血塗れの手で拾い集めながら、姉は愉快そうに笑って言った。
「彼はずっと同じ人よ。私が分解して、色々な外見に組み直しているだけ。安心した?」
「いや、不安でたまらないよ。信夫さん、こんな女とは早く別れた方がいいと思うよ?」
力無く笑う信夫さんに、僕はそれ以上何も言えなかった。
姉は覚えているのだろうか。本来の『信夫さん』がどういう姿をしていたのかを。
ついでに言うと、そろそろ僕も元に戻して欲しいな。
本来の僕は、女の子だったんだけど……。