フユオオカミのかぞく
メグミをくわえた灰色のフユオオカミは、ねぐらにしている東の谷の間の絶壁に空いた大きな洞穴に帰ってきました。
「おい、みんなー!ただいまー!」
灰色のオオカミは、洞穴の入り口で立ち止まると、口にくわえていた気を失ったままのメグミをいったん、地面に降ろしてねぐらの中に向かって言いました。
「おかえり、イチおにいちゃん!」
「おかえりなさい。」
「おかえりー!」
「おかえり~♪」
「おかえり…。」
ねぐらの中から全身真っ黒な毛で覆われた、子犬くらいの大きさの子どものフユオオカミが5匹わらわらとかけ出てきました!
どうやら、この5匹の子どものフユオオカミ達は、灰色のフユオオカミ(名前は『イチ』)の弟妹のようです。
5匹の子どものフユオオカミ達は、みんな一番上のお兄さんのイチのことが大好きなようで、イチの周りに集まりとんだりはねたりしてイチの帰りを喜んでいるようでした。
「ニー!サン!シィ!ゴウ!ロック!俺が出かけてるあいだちゃんと良い子でお留守番していたか?」
「うん!ぼくは、おうちのおそうじをしてたよー!」
と弟のニーは元気に答えました。
「わたしは、おえかきしてました。」
と妹のサンは、ていねいに答えました。
「シィは、ねぇ~!うんち、ひとりでできたーー!」
と妹のシィは、うれしそうに答えました。
「ぼくはぁー♪あたらしいおうたつくったのぉおー♪」
と弟のゴウは、歌いながら答えました。
「ぼく、ねてた…zzz」
と弟のロックは、眠そうに答えました。
というか、また寝始めました…。
「よしよし、みんな良い子だ!」
イチは、5匹の弟妹たちの頭を一匹ずつ優しく撫でてあげました。
「イチおにいちゃん、ずいぶんかえりがおそかったけど、どこまでおでかけしてたのー?」
ニーが言いました。
「ああ、食べ物を探すためにちょっと、遠くまで行ってきたんだよ!」
「イチおにいちゃん!もしかして、コレがきょうのごはんですか?」
サンがイチのそばで気を失っているメグミを見つけて言いました。
「コレは、お前たちのご飯じゃなくて母さんに食べさせるんだよ。」
「ふーん。ねぇ、イチおにいちゃん!コレ、おさるさんの子どもじゃない?」
ニーがメグミを見て言いました。
「イチおにいちゃん!おさるさんは、おともだちだからたべちゃだめだよーー!」
シィが心配そうに言いました。
「いや、おさるさんじゃないよー。おさるさんには、しっぽがあるでしょう?コレには、しっぽがないよ。さ~るさん♪さ~るさん♪しぃ~っぽがながいのよぉ~♪」
ゴウが歌いながら言いました。
「zzz…。」
ロックは、寝ています…。
「コイツは、人間の子どもだよ!さぁ、みんな、俺はお医者のところへ行っている母さんとナナをむかえに行ってくるから、コイツが逃げないようにちゃんと見張っててくれよ!」
ナナは、今年の冬に生まれたばかりの一番末っ子の妹です。
「「「「「えええーー!イチおにいちゃん、またおそとへいっちゃうの~?」」」」」
5匹は残念そうに声を合わせて叫びました(寝ていたロックも起きたようです)。
「みんな、さっきみたいに良い子で待っているんだよ!」
「「「「「はーい!」」」」」
「イチおにいちゃん!おなかすいたら、コレたべてもいい?」
5匹の中で一番食いしん坊のニーが言いました。
「ダメ!!さっき言っただろ、コイツは、母さんが食べるんだよ!」
「じゃあ、おかあさんがたべやすいように、みんなでコレのうでとあしをちぎってばらばらにしようよ!」
シィが言いました。
「ダメーーーー!!そんなことしたら、コイツが死んじゃうだろー!コイツには、まだ聞きたいことがあるんだよ…。だから、俺達が帰ってくるまでコイツには何もせずに、良い子で待ってるんだぞ!!」
イチは、5匹にしっかり言い聞かせてから出かけて行きました。