メグミ フユオオカミにさらわれる
どこまでもまっしろな雪のみちをメグミは、かけ足で進んで行きます。
森の中は、長い長い終わらない冬の間に、ずっと降り続いている雪がどっりしとつもっています。
ふかいふかい雪の降りつもった道の上を歩いても、足が沈まないブーツを履いているので普通の道を歩くときと同じようにかろやかに雪の道をかけて行きます。
森の中は、しーんと静まり返っていました…。
メグミが雪の上をかけていく、ギュッギュッという音いがい何の音も聞こえません…。
「おかしいなぁ…?森の中が静かすぎるよ。おーい、誰かいないのー?ミィ?スゥ?ドド?」
メグミは、立ち止まり、森にいる友達たちの名前を呼びました。
ミィは、茶色いふわふわの毛をした野ウサギの女の子。
スゥは、食いしん坊でまるまるとふとったシマリスの男の子。
ドドは、歌がへたっぴで飼い主に森にすてられた黄色いカナリアの男の子です。
この3匹は、森の中で暮らすメグミの大切なお友達です。
ひとりで家の外から出られなかったメグミのために、家によく遊びに来てくれていました。
「ミィー!スゥー!ドドー!いないのー?」
返事は返ってきません…。
「おかしいなぁ…?去年の冬の今頃は、みんな森の中を元気に遊びまわっていたのに…。そういえば最近、僕の家にも遊びに来てくれなかったし…。まさか!みんなの身に何か良くないことがあったのかな…!?」
メグミは、3匹のお友達のことが心配になりました。
メグミは、3匹のお友達を探しに行こうと思いました。
「ああー!でも、早くお城に行って、冬を終わらせて春を呼ばないとお父さんが…!!」
メグミは、フユオオカミの縄張りをさけるために、お城までだいぶ遠回りをして行かなければないりません。
ただでさえ、お城へ行くまで時間がかかるのに、これ以上、寄り道をするわけにはいきません!
「そうだ!きっと…みんな、この終わらない冬のせいで寒くて外にでられないんだよ。僕が冬を終わらせて、春を呼ぶことができればきっと、またみんなに会えるよね…!」
メグミは、3匹のお友達が終わらない冬のせいで外へ出られないんだと、推測して先を急ぐことにしました。
でも、やっぱり3匹のお友達のことが気になって時々、後ろをふり返りながら走りました…。
☆☆☆
メグミは、一生けんめいに森の中の雪道を走り続け、ようやく森のちょうど真ん中くらいまだたどり着きました。
メグミが家を出た時は、ゆっくりとお空のうえから、しんしんと降りそそいでいた雪が、今は強い北風に吹かれて針のようにメグミの身体をチクチク刺すような吹雪になっていました。
「うわぁー!なんて強くて冷たい風なんだ!うぅ…この吹雪せいで、目の前がよく見えないよ~!」
メグミは、強く吹きつける吹雪のせいで、白くぼんやりとしたはっきりしない視界の中を進んで行きます。
「うわぁっ!なんだ…!?」
突然、メグミの真っ白な視界の中になにか銀色に光るものが現れました!
メグミは、その場に立ち止まり、両手で吹雪をさえぎって、両目を見開き目の前に現れたものを見つめました。
メグミの目の前に現れたのは、真っ白な雪景色の中に月の光のように銀色に美しく輝く灰色の毛をした、一匹の大きなフユオオカミでした!
(はーっ!大きいーっ!僕の身体の2、3倍くらいあるかなぁー?きれいな毛並みだなぁ…!それに、なんてきれいな青いの瞳をしているんだろう…!まるで、宝石みたいだぁ…。)
メグミは、初めて見る生きたフユオオカミの姿(家にある動物図鑑でしかみたことがなかったのです)に驚いたり怖がったりするよりも、その見た目に美しさにただただ見とれてしまってしました…。
フユオオカミは、この森だけに住むオオカミで、生まれたばかりの赤ん坊のフユオオカミは夜空のように真っ黒な毛をしていて、大人になると冬に降る純白の雪のように真っ白な毛に変化します。
メグミの目の前に現れた灰色のフユオオカミは、毛の色からしてまだ大人になっておらず人間でいうと10代後半くらい(メグミより少し年上くらい)の年齢です。
フユオオカミは、縄張り意識が非常に強い動物で、決して自分たちの縄張りから出ることはありません。
しかし、メグミが今いるこの場所はフユオオカミたちの縄張りではありません。
(どうしてフユオオカミが、縄張り以外のところへでてきたんだろう…?)とメグミは不思議に思いました。
灰色のフユオオカミは、サファイアのように青く冷たい瞳でメグミをじっと睨んでいます。
「はじめまして、フユオオカミさん。僕はメグミといいます。」
メグミは、にこやかにフユオオカミに話しかけました。
しかし、フユオオカミは「ウゥゥゥゥウウーッ。」と低いうなり声をあげながら、メグミをじっと睨んだままです。
(僕のことを警戒しているのかなぁ…?あっ!そうだ、いいこと思いついた!)
メグミはフユオオカミに食べ物をあげようと思いました。
3匹のお友達も、初めは人間のメグミを警戒していましたが、メグミがおやつを分けてあげたらすぐに仲良くなれたからです。
「フユオオカミさん、お近づきのしるしに今からいいものを出しますね!」
メグミは、得意げにお腹についている何でも入る不思議なポケットに手を入れました。
その時!!
「うわぁー!?やめてーーーーっ!!」
フユオオカミが、メグミに向かって飛び掛かってきました!
メグミは、ポケットに片手を突っ込んだままフユオオカミの大きな身体に押し倒されてました。
フユオオカミの鋭い爪のついた大きな掌でメグミの両肩はガッシリと掴まれメグミは、身動きをとることができません!
フユオオカミは、大きな口を開いて鋭い牙を露わにしています!!
「フユオオカミさん、やめて!!きみたちは、人間を食べないんでしょうーーーー!?僕のお父さんは、最近、フユオオカミが人間を襲ったって言ってたけど…。僕には、信じられないよ!だって、家にある動物の本には『フユオオカミは人間と同じで、家族思いの心の優しい動物』って書いてあったもん!!僕の一番好きな本なんだ。あの本に書いてあることで、間違ってたことなんてひとつもないもん!!」
「ええい…!うるさいガキめ!俺の牙でその首を噛み砕いて、黙らせてやる!」
フユオオカミの恐ろしいほど鋭い牙の生えた大きな口で噛みつかれたら、メグミの小さな頭なんて一噛みでなくなってしまいます!!
「やめて!僕を食べないでー!!」
メグミは、全ての力をふりしぼりポケットから『よく切れるナイフ』を取り出しフユオオカミの身体に突き立てました!
フユオオカミは、ナイフが身体に刺さる前にメグミから身体を離しました。
「フユオオカミさん、僕はこの冬を終わらせるためにお城へ行かなきゃなんだ!冬を終わらせて春を呼ばないと…僕のお父さんが!いや、僕のお父さんだけじゃなく、みんなが困るんだ!だから、邪魔をするなら…本当はすごく嫌だけど…きみを傷つけてでも…!」
「お前、そのナイフは…!!」
フユオオカミは、メグミの話を全く耳に入らないようで、なぜかメグミの握っている『よく切れるナイフ』を青い瞳を見開いて食い入るように見つめていました…。
「このナイフがどうかしたの?」
フユオオカミの青い瞳が、一瞬、深い悲しみの暗い青色に染まり、そして今度は燃えさかる青い炎のように、恐ろしいほどの強い怒りを放つ瞳でメグミを睨みつけました!!
「フユオオカミさん!?」
フユオオカミは、ものすごい速さでメグミに突進してきました!!
「うぅ…っ!」
フユオオカミの頭がメグミのお腹のあたりにぶつかり、メグミは気を失ってしまいました。
フユオオカミは、メグミの首のあたりを食い千切らないように、服の上から優しくくわえると、吹雪の吹き荒れる雪の中に消えて行きました…。
メグミは、フユオオカミにさらわれてしまいました…!!