終わらない冬
ここはお城から、はるか遠く離れた森のなか。
森のおく深く、いちめんの雪景色のなかに、木々に囲まれた小さな一軒の古いお家がありました。
森のなかには、まるで空へ向かうように、たかく、たかく枝をのばす大きな木も
その木の下で、ひっそりと生えている小さな木々も
天から降りそそぐ、冷たいまっ白な綿のような雪を全身にまとって、見るからに寒そうです。
見てるこっちが、寒くなりますね…。
「ひゃぁー!さむぅーい。つめたぁーい。」
なんて、木々の声が聞こえてきそうです。
でも、木々には口がないので人のようにおしゃべりすることはできません。
木々は、むっつりと黙りこんでじぃーっと立っているだけです。
ながく、ながく降りそそぐ綿雪は、やがて重みをまして木々を枝に重くのしかかると…。
ぎしぎし…。
ぎしぎし…。
雪の重みに耐えられなくなった枝の音。
ドスンッ!
重くのしかかかった雪のかたまりがバランスを崩して、地面にくずれ落ちました。
雪のかたまりが落ちたふるえで、木々は枝をぶるぶるとふるわせます。
まるで、木々が寒さに凍えてふるえているみたいだなぁ…と、家の窓から木々をずっと見つめていたメグミは思いました。
メグミは、今年14歳になる男の子です。
ネコの毛のように柔らかい黒髪に、黒くてまあるい大きな瞳をした可愛い男の子です。
メグミは、この小さなお家に年老いたお父さんと一緒に暮らしていました。
二人は、森の中に生えているいろんな種類の薬草を摘んで、薬などを作り、それを城下町の人々に売ることで生計を立てていました。
「メグミ、暖炉に薪をもっと焼べておくれ。寒くて、凍えそうじゃ…。」
暖炉の近くにあるベッドの上で、メグミのお父さんは布団にくるまりながら、寒さでぶるぶるとふるえています。
メグミは、急いで薪小屋へ薪を取りに行きました。
「ああ!なんてこった…。どうしよう、薪がもう終わりそうだ!」
冬が訪れる前に、山のように蓄えていた薪が残りわずかになってしまったのです。
メグミは家の中にもどると、物置から、着れなくなった服やボロボロの布切れ、壊れた木製の家具や読まなくなった古い本や紙くずなどを探しました。燃えやすくて、いらない物を薪の代わりにするためです。
メグミは見つけてきたガラクタを暖炉に入れながらお父さんにたずねました。
「お父さん、今年の冬はいつになったら終わるんだろう?丸1年分は、あった薪がたったひと冬で、残りわずかになるなんて…。こんなの絶対おかしいよ。」
「あぁ。そうじゃなぁ…冬の王女様に何か良くないことでもあったのかのぉ…。」
「冬の王女様って、だれ?」
「おや、まあ!お前にはまだ話しておらんかったか…。メグミ、この国を治めている国王様には4人の娘、すなわち王女様が4人いらっしゃるんじゃ。この4人の王女様たちは、それぞれ春・夏・秋・冬の四季を司っておるんじゃ。王女様たちは、決められた期間を交替でお城にある塔に住むことになってな、そうすることでこの国に四季が訪れるのじゃ。今年の冬が終わらないのは、冬の王女様がまだお城の塔にいらっしゃるからじゃろう。四季の流れが乱れるのは、100年前の夏以来じゃな…。」
「100年前の夏に何があったの?」
「その年の夏は1年の半分が夏になってしまったそうじゃ…。」
「1年の半分が夏!?」
「ああ、子どもたちは1年の半分が夏休みになって大喜びじゃったんだが、日照りがつづいて、川も湖も干上がって魚が死に、深刻な水不足で農作物も不作で国中の人々も森の動植物達もみんな終わらない夏の暑さと飢えに苦しんだのじゃ。」
「どうして、その年の夏の王女様はお城の塔から出てこなかったの?」
「夏の王女様は、重い病気を患っていたそうじゃ。その病気は、とても人にうつりやすい病気で、くしゃみひとつで100人の人にうつすことができる病気だったそうじゃ。それで王女様はその病気が治るまでお城の塔から出られなかったのじゃ。」