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召還された異世界は猫耳少女だらけでした  作者: 竜田揚郎
第一章
9/11

第七話 銀髪の剣士

 魔壁貫通砲、とかいうのを使われる前に止めないと。

 俺はクロからもらったますた~き~で鍵を回し、思い切り扉を開けた。


「ちょっと待ったぁーー!!」

「なっ……誰だ、貴様はっ!?」


 帝国兵にシオンと呼ばれていた銀髪の少女が、俺を見て剣を抜く体勢に入る。

 だが、今の俺に怖いものはない。

 何故なら俺の全身は今、鎧に覆われているからだ。


 最初に扉を開けようとした時、クロから提案があったのだ。


「待って……ご主人様。念のために、鎧を着込んでおいた方が良い……」

「へっ、鎧? いいけど、クロ達がバリア張ってくれれば安全なんじゃね?」

「油断は禁物……何が起こるか分からない。防御を固めておいて、損はない……」

「ううむ、それもそうか。分かった、じゃあとびきりのを頼むぜ!」

「……ん。じゃあいくよ……“よろい~”」


 そして今。俺は最強の男へと生まれ変わっていた。

 全身漆黒の鎧は伝説の金属だというハリオルコンで出来ており、剣も槍も通さないという。

 顔まで覆われているので一見すると暗黒騎士みたいになっているが、それも相手を萎縮させる意味では使えるだろう。


 ただ一つ欠点があるとすれば、重い。

 とてつもなく。


「俺の名は遊……お前達にその扉を破壊させるわけにはいかん!」


 しかし、少しというかかなり厨二病をこじらせている俺は、漆黒の鎧というカッコ良さげなアイテムを身に纏っているだけでテンションが上がり、自分でも不思議なほど堂々とその言葉を言い放っていた。重いのでプルプルしながらだけど。


「デュー、だと? 貴様、一体何者だ……!」


 シオンは俺の妙な出で立ちと自信に圧倒されたのか、気持ち後ずさりながら俺を睨みつけてくる。

 デューって誰ですか。

 兜の中で声が籠もって上手く伝わらなかったらしい。


 待てよ? 暗黒騎士デュー……

 おいおい、ちょっとこれカッコいいんじゃないか?

 参ったな。新たな自分を発見してしまったようだ。


「ええい、お前達! やってしまえ!」


 シオンが周りにいた兵達にそう命じると、兵達は戸惑いながらも俺に向かって剣や槍を振るおうとしてきた。


「“ヘルフレイム”!!」


 俺が高らかにそう宣言すると、空中から現れた炎弾が兵達に向かって飛んでいった。

 もちろん俺の力じゃない。クロが扉の後ろからこっそり“ふぁいあ~”を唱えただけだ。

 これは俺の作戦だった。クロとルナにはひとまず扉の後ろに隠れていてもらって、このイカツい出で立ちをした俺が強大な力を見せつける。

 それでビビって逃げてくれれば、無駄な争いをしなくて済むと踏んだのだ。

 危なかったらバリア~を張ってもらえばいいし、多分大丈夫だろう。


 炎弾は兵達の頬をかすめ、彼らが悲鳴を上げる。よしよし、ビビってるビビってる。

 さぁ、早く立ち去ってくれ。この鎧重いんだから。


「小癪な、私が相手になってやる!」


 あれ、この子はビビってないな……どうしよう。

 などと俺が困惑した刹那、シオンは瞳孔をまさしく猫のように細めると、銀髪を靡かせて一瞬で俺の足下へと接近してきた。


(は、速っ……)


 目で追い切れなかった……凄まじい瞬発力。それは正に、猫化の肉食獣の狩りそのものだ。

 気づいた時には、シオンは細身の剣を抜き放ち、俺の首をかき斬ろうとしてきた。

 だが、その剣が俺に届く事はなかった。クロかルナがバリア~を張ってくれたようだ。一瞬ヒヤっとしたが、バリア~がなくても多分ハリオルコン製のこの鎧が傷つけられる事はないだろう。二重の鉄壁だ。


「くっ、なんだこれは! 魔壁か!?」

「くははははは、我が“ウォール”の前に剣など無力!」


 ちょっと気持ち良くなってきた。

 思わず手を前に翳しながら厨二全開な事を口走ってしまう。


「おのれ……おい、お前達! 魔壁貫通砲でこの男を撃て!」

「はっ!」


 なっ……なんですとーー!?

 もう用意出来たのか。マズい、さすがに鎧も貫通されてしまうんではなかろうか。


 帝国兵が近未来的な白いデザインの大砲のようなものをこちらへ向けてきたかと思うと、ビィィィィーンという謎の音と共に砲身が光りだした。くそっ、鎧が重くて思うように動けない……!


「放てっ!」


 シオンの合図とともに砲身から光のエネルギーが迸り、バリアに直撃した。

 バリアに当たった光が衝撃でいくらか拡散し、周囲の壁まで破壊していく。

 その威力によってあっと言う間にバリアにヒビが入り、そして……バリアが砕け散った。


(ノオォォオーーっ!!)


 終わった、こんなところで死にたく……あれ? 光が空中で何かに遮られた。

 どうやらバリアは二重に張られていたらしい。助かった……だが、このバリアにもヒビが入ってきている。ヤバい、また砕け散る……!

 だが光も勢いを失ってきている。頼む、このまま何とか持ちこたえてくれ!


 そして、光が収束するのとほぼ同時に二つ目のバリアが砕け散った。

 あ、危なかった……


 だが安心したのも束の間、バリアが消えた俺の元へシオンが肉迫し、再び剣が振り下ろされていた。

 金属音が鳴り響く。驚いた俺が反射的に顔を庇って出した腕が、剣を受け止めたのだ。


 だがシオンはそれで止まらず、目にも止まらぬ速さで幾度も幾度も剣を打ち付けてくる。


(わっ、ちょっ、まっ、おわっ!)

「ちっ、堅い鎧だな!」


 剣は全て漆黒の鎧が弾いてくれているが、怖いものは怖い。本当に大丈夫なんだろうか。

 ビビらせて追い払う作戦は失敗したし、これはもう、なんとか隙を見つけてタービ・マターの力を使うしかない。


 えぇっと、力を使うには……タマモの言葉を思い出す。


『よいかの? お主はこの世界の人間ではないゆえ、意識して魔力を使う事は難しいじゃろう。そんなお主がタービ・マターの力で相手を魅惑するのに、手っ取り早い方法は一つじゃ。お主の体液を、魅惑したい相手の体内に摂取させれば良い。唾液を舐めさせるのがお手軽じゃろう。例えばキッスとか、の』

『き、キッス!』


 さすがに男にキッスするのは御免こうむるので、男相手に力を使わざるを得ない時は指に唾液をつけて相手の口に突っ込むとかするつもりだが、相手がシオンのような可愛い少女なら是非キッスさせていただきたい。よし、そうと決まればさっそく……


 ……待てよ。俺は今、兜を被ってる。そのおかげで今は剣を防げてるけど、キッスするために兜を脱いだら、その瞬間に首を両断されるんじゃなかろうか。

 血の気が引いた。兜脱げないじゃん。


 その時、突然シオンの全身に鎖が巻き付いた。


「ご主人様、大丈夫……?」

「後は私達にお任せください!」

「おぉっ、クロ! ルナ!」


 ナイスタイミングだ。作戦が失敗したと見て、姿を現す事にしたんだろう。


「くっ、なんだこれは……鎖!? 貴様ら、マオン族の魔言師かっ! おい、誰かこの鎖をほどけ!」


 シオンが部下に命じると、慌てて部下達が助けに入ろうとする。


「“バリア”!」


 ルナが魔言で再びバリアを張り、部下達の接近を防いだ。


「おのれぇ、魔壁貫通砲だ! バリアを破壊しろ!」

「だ、駄目です。再装填には五分はかかります!」


 強力な兵器だけあって、おいそれと連発出来るものではないらしい。

 これでひとまず邪魔される事はなくなった。

 シオンが鎖に縛られている今なら、兜を脱いでも大丈夫だろう。

 俺は兜を外し、ルナに預けた。


「くっ……貴様ら、私をどうするつもりだ!」

「大丈夫。ちょっと唇を奪うだけ……」

「なっ……なにっ!!?」


 途端にシオンの顔が真っ赤に染まる。

 見たとこ、ルナと同い年か少し下くらいか。気の強そうな子だし、男と接する機会は少なそうだ。そういう事に免疫がないのかもしれない。


「な、なななっ……わ、私を辱めるつもりかっ! やめろ、一思いに殺せ!」


 死ぬほど俺との接吻が嫌ですか。

 ちょっと、というか大分凹むぞ。

 見ると、ふしゃーと聴こえてきそうなほどに猫耳と尻尾が逆立っている。


「さぁ、ご主人様……イッてみよ~」

「み、見ないように顔は背けておりますので、その内に!」


 がんじがらめに縛った女の子にキスしようとしている自分が、なんだか凄くいけない事をしようとしている気になる。

 だが、何もしなければまたあの魔壁貫通砲とかいうのに撃たれるだろう。それは勘弁だ。


「大丈夫だ。すぐに終わる」

「くっ、おのれえぇっ!」


 キッと睨みつけてくるシオンにちょっとビビりながらも近づこうとした、その時。


《 ゴゴゴゴゴ…… 》


「……待って、ご主人様。何か……」

「なっ、なんだ!?」

「……! ご主人様、あれを! 壁が……!」


 ルナの指差す方を見ると、一部の壁が崩れ始め、それに連動するように周りの壁にも亀裂が走り始めていた。

 あれは……最初に光のエネルギーをバリアで弾いた時、拡散した光が当たった場所か。

 破壊された壁が、どうやら遺跡の構造上、柱の役割を果たしている場所だったらしい。

 支えのバランスが崩れ、この地下室が崩壊しようとしているのか。


「あ、あれヤバいんじゃあ……」


 動揺していた時、突然シオンの乗っている床にまで亀裂が走り、底が抜けてしまった。


「なっ、ば、馬鹿なっ!?」

「シオン様っ!!」


 シオンの体が床と共に落下していく。

 俺は咄嗟に、その穴の中へと飛び込んだ。


「うおぉぉおっ!!」

「ご、ご主人様っ!?」


 そして俺達は、この地下室の一部ごと更に下の階層へと落下していった。




 * * *




「……う、ぅうん……」


 気がついてうっすら目を開けると、辺りは真っ暗だった。

 クロやルナ……それにシオンは、無事なのか。一抹の不安が心をよぎる。


「お、おい貴様! い、いつまで私に抱きついている!」

「え、あ……無事だったのか! 良かったぁ……」

「なっ……貴様やはり、私を庇って……」


 今の俺達の体勢を簡単に説明すると、俺が仰向けに倒れており、シオンが俺に抱き締められて上に乗っている格好だ。


 シオンが落下し始めた瞬間、俺は彼女が鎖に縛られて身動きが取れない事に気づいた。

 猫のように超人的な身体能力を持つシオンならば、多少の高さから落ちても着地出来るのかもしれない。

 だが、縛られていてはそれも叶わないだろう。放っておけば彼女が死ぬ。

 そう直感した俺は、咄嗟に彼女を助けようと穴へ飛び込み、彼女を抱き締めて一緒に落下したのだ。

 その時に俺は背中を強く打ち付けたが、幸いにもこのハリオルコン製の鎧のおかげで無傷で済んだようだ。

 ただ、衝撃は多少なりとも鎧の中に伝わってしまったので、動こうとすると少し体が痛む。


「な、何故だ。何故、敵である私を助けた?」

「いや、だって放っといたら死んじゃうだろ? そう思ったら、体が勝手に動いてたんだ」

「……なんという馬鹿だ……己が危険も省みず、敵を庇うとは……」


 そう毒づいてそっぽを向くシオンだが、心なしか顔が赤い。

 あれ、これって照れてるんじゃなかろうか。


「しっかし、見事に崩壊したな……バリアのおかげで上からの瓦礫には潰されずに済んだみたいだけど、脱出するのは簡単じゃなさそうだ……」


 周囲には瓦礫が積み重なっている。この様子だと、俺達が落下した後にあの部屋全体も崩れ落ちたと思っていいだろう。


 元々張られていたバリアは部屋の崩壊と共に下の階層にそのまま落ちたようで、頭上にはバリアの丸みに沿って瓦礫が積まれているのが見えた。

 だが、クロやルナもバリアの内部に居たのだから、おそらく近くに落下しているのではないだろうか。

 彼女達を探さなければ。無事だと信じたい。

 俺は体の痛みに耐えながら、ゆっくりと立ち上がった。


「ま、待て。私を置いていく気か!?」

「あぁ……悪いけど、仲間達を探さないと。少しそこで待っていてくれ」

「い、いや……頼む、私も連れていってくれ。わ、私は暗いところは苦手なんだ……」

「……へ?」


 意外な弱点だ。何かトラウマでもあるのだろうか。

 かといって、この狭い瓦礫の間で連れて行くには、鎖を外してやらなければ難しい。

 だが、外すのは怖い。また斬りかかられたらたまったものじゃない。

 そうだ、タービ・マターの力があるじゃないか。今なら簡単にキス出来るし、魅惑の魔力にかけてから連れ歩けばいいんじゃないか?

 そう思い、シオンの肩をつかむ。


「なっ、ななな、こんな時に何をするつもりだ! まさか、き、き、き……」

「…………」


 抵抗出来ないと思ったのか、キツく目を瞑っている。本当に初めてなのだろう。


「……なぁ、この遺跡から撤退してくれないか? 俺はお前らと争いたくはないんだよ」

「なっ……何を……」

「いや、俺には特殊な力があってさ。キスしたら相手を服従させられるんだけど……やっぱ、嫌がる女の子に無理矢理ってのはちょっと抵抗あってさ。君がもうこの遺跡を狙わないと約束してくれるなら、俺もこんな事しなくて済むし……」

「……魅惑の、魔力……そうか、それで…………」


 あれ、黙っちゃったぞ。どうしたんだろう。何か変な事言ったかな、俺。


『グルルルル……我が眠りを妨げる者は誰だ……』

「え。何か言った?」

「ち、違う、今のは私じゃない! 後ろだ、後ろを見ろっ!」


 おそるおそる後ろを振り向く。

 するとバリアの向こう側に、黒い鱗で覆われた竜のような生き物がこちらを覗き込んでいるのが見えた。


「ひっ、あ、あれはまさか……」

「……魔戦器の材料となる伝説のモンスター……邪竜リュグナーク!」


 あれが邪竜か。封印されていたはずだけど、さっきの部屋の崩壊でどうやら封印が解けてしまったらしい。


 確かクロ達の話だと、長い年月の間に弱体化しているはず。

 それでもさすが、伝説の魔物と言われるだけあって、半端ない存在感だ。

 思わず腰が抜け、床にへたり込む俺。


 そうこうしている内に、邪竜がバリアに爪を突き立ててきた。ビシビシという音と共に、バリアに亀裂が走る。

 って、まさか爪を突き立てただけでバリアを壊すのか!?

 ひょっとして、あの邪竜自体が強力な魔力を纏っているのかもしれない。

 魔壁貫通砲の時といい、このバリアは魔力攻撃にはあまり耐えられないのだろう。このままじゃヤバい……!


「おい、お前! この鎖をほどけ、このままでは二人とも喰われるぞ!」

「え、いや、でも……」

「えぇい、言っている場合か!」


 シオンが鎖に縛られたまま跳ね起きて、床にへたり込んでいる俺に覆い被さり……そのまま、唇にキスしてきた。柔らかい感触が唇から伝わってくる。


「むぐっ!?」


 淡い光が俺達を包み込み、妙な暖かさが全身を駆け巡った。

 多分シオンも、同じような感覚を味わっているだろう。

 光が収まると、シオンが頬を染め、心なし息を荒げながら俺の事を見つめてきた。


「……さぁ、これで私の事を信用出来るだろう。鎖をほどいてくれ、デュー殿」

「いや、俺の名前ユウだからね!」


 まさか自分からキスしてくるとは思わなかった。

 まだドキドキしてるけど、余韻に浸ってる時間もないので慌てて鎖をほどく。


 そして、鎖をほどき終えるのとほぼ同時にバリアは砕け散り、邪竜と俺達を隔てるものは何も無くなってしまった。

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