復讐の華を散らす3
噂の転入生が来る前日の夜、大雨が降ったようで、寮から学校へと向かう道を歩くだけで革靴は泥まみれになってしまった。
そんな革靴を見て、私は不愉快な気分になっていたと同時刻に、平和だった日向学園がその時一瞬で荒れ果てる事態になっていたことを、予知することは勿論出来るはずもなく、遅れて教室に着いたせいでタイミング悪く、険悪な雰囲気の中、ドアを開いてしまったみたいだ。
――刺々しい視線は一挙に、私の方へと集中してしまっているからな。
「ああ、ごめん。邪魔しちゃったね、申し訳ない。こちらのことは気にせずにどうぞ、続けてよ?」
と、私はそう言って、飄々とした態度で自分の席へと座った。
これぐらいの視線で怖がるほど、私は繊細ではないからね。むしろ、繊細の“せ”の字もない、神経が図太い人間さ。
そう考えながら、うんざりしたような目をしている、七瀬に話しかけた。
「何があったのさ」
「……普段は大人しく優しい皆を怒らせた原因は、皆に囲まれている転入生、時沢芳樹の行動や言動が皆を怒らせた。イケメンランキング常連である四人、生徒会副会長、生徒会書記、陸上部副部長、風紀副委員長が時沢芳樹に恋に落ちた。ああ、その四人が惚れた理由は全員“一目惚れ”ってやつね、そう言う共通点が余計に怪しいのだけど。
僕が読むボーイズラブ小説みたいに、彼ら四人には親衛隊は存在するけど、中には恋情を抱く人もいるだろうけどね、皆恋愛的に好きで入っている訳じゃないから幸せを祈っている。制裁なんてしないだろう。
けど、時沢芳樹の一言が親衛隊を刺激した、「勝手に惚れた癖に自分が少し顔が良いからって、気持ちを押し付けないでくんない? はっきり言って鬱陶しい」とそう言いつつも、相手側を期待させる仕草をするもんだから、四人は諦められず自分を選んでもらえるように必死に行動し始めた結果が、ああなったの」
と、いつもなら抱きついてくるくらい、テンションが高く喋る七瀬だと言うのに、淡々とそう説明する姿に違和感を覚えた。私がいなかった三時間の間、何があったのだろうとしか思えない。……こう言うテンションになる時はそう、生徒会が関係してることがほとんどだ。
つまり、七瀬が読む非王道、王道の話が展開的に関係があると仮定して、思い付くことはただ一つ。
「時沢芳樹に振り向いてもらうことに必死で副会長、書記、風紀副委員長が仕事をしなくなったとか?」
と、まさかね〜と考えながら小さな声でそう言ってみると、そのまさかだった。
「そうなの、たったの三時間でこれ。仕事は緋由先輩と二人でこなさなきゃいけないし、普段は凄い大人しくて優しい親衛隊が荒れてるわで桜花先輩も対処に忙しそうなの! ……おかげで頑張って自分の分の仕事終わっても、日和さんには逢いに行けないし、仕事多くてストレスたまるわでもう非王道にはうんざり」
そう疲れきったような声で、ボソボソとそう愚痴っている七瀬に苦笑する。
そこで日和兄さんの名前が出てくるんだと考えながら、同時に後でこのこと教えれば喜ぶだろうなーと考えつつ、普段は素っ気ない態度であしらってしまうが、私は珍しく営業スマイルで七瀬を労った。
「……大丈夫だよ、七瀬。こう荒れる時期は長くは続かないからさ。
――が何とかしてくれるから、七瀬は普段通り生徒会の仕事をしてて?
身体には少し、負担をかけるかもしれないけどそうしていた方が安全だから」