復讐の華を散らす1
プロローグです
私には前世の記憶がある、前世の言葉で言えば、異世界転生って言うのをまさか自分自身が経験することになるとは、思ってもみない事態だった。
何故、異世界転生したとわかったのかと言うと、この世界はまるで中世のような町並みで、前世ではなかった魔法が存在することを兄から知ったからだ。
私の前世の世界では科学の発達して、魔法と言う存在があるのかどうかも、未確認な世界だった。……自分は少なくとも魔法と言う存在は見たことがないため、そう言うことにしておいて欲しい。
私が転生した理由はわからないが、生憎神様が「お主はまだ死ぬはずではなかった。お詫びに異世界に転生させてやろう」と、所謂王道的な発言を言われた訳でもない。恐らくはこれは運命の筋書き通りだったのだと思う。
そんな私の前世の話を少ししよう、あまり気分の良い話ではないが、申し訳ないけど聞いて欲しい。
前世では群を抜いて良い成績を残す訳でもなく、悪すぎる成績を残す訳でもない会社員だった。そんな私は告白する場として王道な屋上で何故か、群を抜いた成績を残している同僚に告白されたのである。
どうして平凡的な自分をとも思ったが、気持ちはとても嬉しい。
告白してきた同僚は同性だった。昔から同性同士の恋愛に否定的な考えを持っていなかったし、異性も同性も愛すことの出来た私は、同性に告白されたことを嫌悪感を感じることはなかった。……けど、私はその同僚を尊敬の気持ちを抱いてはいたけれど、気持ちには答えられない。
嫌いではないのだけど、今まで友人として側にいた同僚を、友人以上としては見れなかった。申し訳ないとは思いつつも気持ちに答えられなかったため、丁重にお断りしたはずだったが、それでも感情が高ぶってしまったのか私は屋上から突き落されてしまう。
あの断り方の何が悪かったのかと、そう考えているうちに全身に鈍い痛みが走ったことに気づいた。その時私は初めて思った、ああ死ぬんだなって。そんな感覚に逆らうことが出来る訳もなく、私は意識を手放した。
……はずだったのに。
次、目が覚めれば明らかに前世ではない雰囲気のある部屋だった。
が、聞こえてくるのは明らかに、家族が会話しているような穏やかな雰囲気ではない。……何故か、赤ん坊な姿をしている私の耳に聞こえてくるのは銃声と、この屋敷にいる人々の悲痛な叫び声。
私は精神的には大人であっても、身体はまだ首も座っていない赤ん坊だ。
聞こえてくる銃声と、この屋敷にいる人々の悲痛な叫び声に恐怖を抱きつつも、身体が自分の意志では身体は動いてはくれない。転生したばかりだと言うのに、また死んでしまうのかと考えていた瞬間、この部屋の窓が開かれた。
もう駄目かと思った。が、私の人生はまだ終わってはいなかった。
「……俺は怪盗さ。助けるなんて慣れてる訳じゃねぇ、多少手荒でも許してくれよな。可愛い我が弟、夜篠。ごめんな、母さんも父さんも助けられなかった。せめて夜篠、お前だけは……守り抜いてみせよう」
と、そう言われたことを今でも鮮明に覚えている。そう宣言した後、兄は手早く赤ん坊である私を抱えてこの屋敷から素早く逃げ出したのだった。
そのおかげで私、結城夜篠は今も生きていることが出来ている。……こうして日向学園に通うことが出来ているのは兄、結城日和のおかげとしか言えないだろう。
そんな訳で、私は平和な学校生活を楽しんでいる。……一ヶ月後にはこんなにも平穏な毎日が荒れに荒れ、人の感情が複雑に絡む、あまり良いとは言えない雰囲気になるとは知らずに。