先輩と僕【完結】
あれから先輩はこう話していた、家の事情で学校に来られなかったんだと。
そう言われて安心した、僕が嫌われて避けられていたんじゃないんだって。
そう思った瞬間、一瞬で僕の心がポカポカと温かくなったような気がした。
それから家に帰った後、姉に「幸せそうな顔」とそう言われ、僕はとても恥ずかしくなったけど……、否定はしなかった。
次の日。
当たり前のことのように先輩は現れ、僕のことを由衣ちゃんと呼んだ。
いつもなら恥ずかしくて逃げてしまうけど、今日は進歩したと思う。
「……おはようございます、……先輩」
と、先輩しか聞こえないような小さな声でそう言った後、僕はすぐ逃げ出した。
そんな僕の進歩に、先輩がどんな顔をしていたのか僕だけが知らない。
◇◆◇◆◇◆
いつものように屋上で一人、昼食を摂っていれば後ろから誰かに抱きしめられた。……まあ、僕にこんなことが出来るのは先輩くらいなのだけど。
こんなことを簡単にやってのけてしまう先輩は苦手だ。僕は家族以外からのスキンシップに慣れていないのだから、ほどほどにして欲しいとそう思いつつ、抵抗は全くしなかった。
そんな僕に先輩は、
「駄目だよ、由衣ちゃん。そんなに無防備な姿を見せて。抱きしめたのが俺じゃなきゃ、どうしてたの? ちゃんと抵抗するくらいはしなさい」
と、そう怒られてしまったけど……、僕は躊躇いながらもこう言った。
「敵意がなかったから、先輩だと思った。だから、別に抱きしめられたままでも良いかなってそう思ったから、抵抗しなかった」
そう言葉にした後、先輩は僕の肩に顔をうずめたまま、しばらく顔を見せようとはしてくれなかった。……その時、先輩がどんな顔をしていたのか、本人じゃない僕にはわからない。
とりあえず、「先輩と僕」は完結です。次の話も現代ものだと思います。
さきほど、“完結”を入れ忘れたのを直しましたので、よろしくお願いします。