古本屋で貴方と二人【完結】
「ああ可哀想な人。貴方は愛されると言うことを知らずに死んでいくのね」
と、“椿”と言う名のヒロインを演じる役者は、普段あんなに歯を見せて笑うと言うのに、全く真逆の役を、しかも異性の役を演じるとは大したものだ。
俺の友人でもあるあの役者は中性的な顔付きをし、細身で成人した女性の平均とは言え、さっぱりとした兄貴分のような性格をしている役者はそんな本来の性格の面影など全く見せず、艶やかで妖しく、色香溢れる魅力的な女性と言う設定である“椿”をまるで他人を演じているとは思えないくらいに自然な動作で、仕草で演じている。
「どうせ、残り僅かの命だもの。それに私は永遠に生きる使命を与えられた身だわ、本当に死ぬことなんて出来やしないから。私の代わりに誰かに愛されて」
そう演じる友人は異性と言うことなど感じさせないその演技力で、同じサークルの人を見惚れさせていることなど一切気づいてない。類は友を呼ぶと言うが、その言葉に俺は友人達に会うたびに共感してしまう、俺の友人達はやっぱり何処か人とは違う考え方を持ち合わせているからだ。
演技とは思わせないあの艶やかで、妖しい色香を漂わせる友人は演じている訳じゃないと言う。たくさんの人を観察し、それに当てはまる人物を憑依させるかのようにもう一人の“自分”として過ごしているだけだと。でも、やはりあの人の色気には負けている。
倒れたところを助けてくれたあの人にお礼を言いに言った日、痛いと感じるくらいに鼓動が速くなったことに戸惑い、逃げるように古本屋から飛び出して、半日かけて家へと帰ったあの日から、時とは早いことに一週間が経っていた。
あの人を思い出す度、鼓動は速くなり、熱風邪になったように体温が高くなる。あの低音に色気が含まれた声で、あの意味深な言葉が今、現在囁かれているんじゃないかと錯覚するくらいに鮮明に、耳に残ってしまっている。
「貴方の全てを、心まで愛してくれる人に、貴方が会えますように……」
ああ。貴方にもう一度、会いたい。
あの古本屋でもう一度、貴方と。貴方と会えば、今貴方に抱いている感情はわかるのでしょうか?
そう考えているばかりで、友人が演じている話に集中が出来なかった。
次に書く話は、「古本屋で貴方と二人」の続きとなります。よろしくお願いします。




