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古本屋で貴方と二人2

 こじんまりした店内に入れば、呼吸をするたびに鼻に残る古い本の香り。

 その香りが、考え込ませるこの思考回路を緩やかにさせてくれた。

 一面にはたくさんの古い棚に本が綺麗に整列し、埃一つないこの古本屋。


「昨日振りね、病人の面倒をさせておいてお見舞いすらも来ないのね。

失礼しちゃうわ、それほど私と会話をするのが嫌なのかしら?

……流石の私でも病人の前ではビジネスの話なんてしないのよ」

 古本屋の店内に入って、入り口付近でウロウロしている俺とは違って、躊躇いもなく店内の奥へと入っていき、そう低音で穏やかな声で喋るあの人に喋りかけているのだろう。……いいな、俺も早く喋りたい。話す内容は何にしようか?

 なんて、考えていると昨日優しく気遣ってくれた彼の声に若干の苛立った感情が含まれながらも、律儀にこう返事をするのだ。顔が見たいと思わせた、低音で何処か穏やかさのあるあの声で。


「なら、何の用だ?」

「あら、そうね。昨日具合が悪そうだったあの子、だいぶ良くはなったみたいなのだけど、私では不服だったみたいなの。私の声を聞くなり、お前じゃないって言われちゃったわ。貴方にお礼が言いたいみたいで、連れて来ちゃったの」

 と、あの人の問いかけに姿を見なければ、本当に女性の声に聞こえるあの男がそう言えば、あの低音に更に怪訝そうな感情が混じり、こう言ったんだ。


「一時期、若気の至りで書いた小説のファンじゃないだろうなぁ……?」

「あら、私がアンタにストーカーするくらい酷く執着していた一部のファンを近づけると思っているの。見た方が早いわ、来なさいよ。待望のご対面よ」

 と、そんなあの男の言葉に直ぐさま反応して、本棚にぶつからないようにあの人の声がする、店内の奥へと足を進めて行けば……鷹のようなキリッとした目、女性が羨むくらいに艶やかで美しい髪。平安時代に来ていた貴族の服が似合いそうなくらい、色気を漂わせたその人の姿があった。

 俺を興味深そうに見つめ、眼鏡を外す動作だけで、あの人は色気を漂わせた仕草のように思わせ、……同性である俺の鼓動を早くさせてしまう。

 綺麗すぎて、見惚れすぎて声を失う。こんな経験は初めてで戸惑いを抱く。


「ああ……。帰らなきゃ、家にある絵をあるだけ破り、燃やさなくちゃ……」


 と、思わずそう言えば、「やっぱり画家だったのね、そうだと思ったわ」とあの男に言われてしまうが、あくまでも俺はまだ画家ではないのだ……。

「美術、書道科コースに通うまだ大学生です。まだ画家ではありません」

 そう男に言われた途端、俺は我に返り、直ぐにそう否定したのだった。


「あら、そうだったの? まだ学生だったのね、翠を見つめてた目は完全に……、画家の目だったから勘違いしてしまったわ。私もまだまだね……」

 と、あの男はそう呟いた。何の仕事をしているんだろうかと興味を抱いたが、何故だかこの男から厄介そうなにおいがしてくるので聞かないのが賢明だな。

 そう考えながら、ええそうですと適当に話を流しておいた後、あの人の側へと我ながら自分の危機感のなさには呆れながら、彼へと近づき、まるで雪のように真っ白な肌を撫でる。

 が、卒業制作の最後の一枚のアイディアは、全然浮かび上がっては来なかったことに残念に思っていると、あの人は俺を容易く自分の懐へと収め、まるで耳元をくすぐるような色気のある声でこう言われた。


「芸術品のように丁寧に、優しく触るなよ。こっちは生きているんだから、噛みつかれても知らないぞ」


 その言葉の意味はわからなかったが、俺には火照っていく自分の体温を、どう下げたら良いのかわからなかった。



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