復讐の華を散らす【完結】
「ねぇ……。お願いがあるんだけど、僕を生徒会補佐にしてくれないかな?」
と、そんな時沢芳樹の言葉に初めての頼まれごとに四人は喜んだ。
陸上部副部長も、風紀副委員長も一見生徒会には関係なさそうだが、時折二人の仕事を手伝っていたため、いつも通り仕事を手伝えば一目惚れをし、何とか自分の恋人にしたいと願っている時沢芳樹が自分の方へと振り向いてくれるかもしれないと考えながら。
しかし、その考えを抱いていることが“計算通り”だったとしたのなら?
彼ら四人は目の前の甘い蜜を疑いもなく“ある”と信じきり、自らを“破滅”へと導いたことになる。
そう、時沢芳樹の言ったあの一言がこの学園が平和だったあの頃へと導く、開始の合図だった。
◇◆◇◆◇◆
桜花先輩と共に、荒れていた生徒を説得し、だいぶことが収まってきたと安堵をした途端、これだ。昨日は夜遅くまでバイトをし、睡眠時間も少なく、おまけに低血圧だと言うのに無理無理身体を起き上がらせ、風紀委員としての仕事を朝からしていると言うのに、今日は今まで以上に荒れ、騒がしかった。
事情を聞くために、桜花先輩がいるであろう風紀室へと向かうと、そこにはひとつのパソコンを囲む風紀委員と、会長の影桜緋由さんと七瀬の姿もあった。
七瀬と影桜さん以外が殺伐としている雰囲気をまとっていることで、これから何が起こるのかと言うことを私は察し、そして平和な日向学園へと再び生まれ変わる……そんな兆しを、感じ取った。
「桜花先輩、そんな怖い顔をしないで下さいよ。大丈夫です、安心して下さい。もしかしたらあの場が混乱する出来事が起きるかもしれませんから、貴方達はこの後に場を収めるために一番冷静でいなければなりません。きっと……、これをきっかけにこの学園は変わるんです」
と、そう言えば少しだけだと言えど、殺伐とした雰囲気が和らいだのを感じ取り一安心した後、昨日もバイト先で会った影桜さんに声をかける。
「昨日振りですね、影桜さん。ただの“学生”として会うのは初めてですね」
にこやかに私はそう言えば、何故か桜花先輩は影桜さんを睨み付けていた。
それを何故だろう? と考えていると、影桜さんは苦笑するように笑いながら、私に対してこう言う。
「ふふっ、そうだね……と本来なら言いたいところだが、その言い方では誤解されてしまうよ? 客として接客されたのは数え切れないが、一個人として話したのは確かにこれが初めてだね。君が奏でるピアノも、サックスもとても音色が澄んでいるし、それに君の魅惑的な歌声に惹き付けられて、今まで以上にあの店に通うようになってしまったよ」
と、そう言われ、営業的な笑みを浮かべながら褒められたことにお礼を言った後に直ぐ、真剣な表情を一変させ、パソコンの映像へと視線を移した。
◇◆◇◆◇◆
「日向学園の生徒の皆さん、我々生徒会は時沢芳樹を生徒会補佐に、推薦することにしました」
生徒会副会長の石寺晴一はそう言えば、集まった生徒達は一斉に、まるで事前に打ち合わせをしたかのように息ぴったりのタイミングでブーイングをした。
そんな生徒達に、星川稔は「静粛に」と一言言った後、石寺はこう言った。
「芳樹が皆に伝えたいことがあるそうだ、それを聞いてから判断してくれないか」
と、そう言えば、生徒達は渋々と言ったような様子でブーイングを止め、そんな様子を見て石寺と星川はニヤリと計算通りと言ったように笑い、舞台裏にいた風紀副委員長の石野裕治と、陸上部副部長の里中春木は勝利を確信したように微笑んだ。
事前に言うと言われていたこととは全く別の話をするとは知らずに……。
「……皆さん、騙されてはいけません」
と、そう芳樹が言った瞬間に驚きのあまり、石寺と星川は目を見開いた。
そんな二人の様子など芳樹には眼中にはなく、こんなにたくさんの人前で話したことのない芳樹は、緊張していることを態度で見せないように、親愛する弟の時沢馨と、どんなに酷いことを言ったのにも関わらず側に居てくれた男を思いながら、生徒達に向けてこう言う。
「皆さんにはたくさんのご迷惑をかけました。全てはこの機会を得て、そして貴殿方に聞いて欲しかったことがあったからです。そのせいで、貴方達の学園を荒らしてしまったことを、謝っても謝りきれないことだと思います。ですが、悪いことをしてしまったことは事実です」
と、そう言って言葉を詰まらせた後、芳樹は日向学園の全校生徒に向けて、土下座して謝罪をした。
「大変申し訳ありませんでした、……本当に申し訳ありませんでしたッ」
そう謝罪をした芳樹を見て、冷たい視線を向けていた全校生徒達は、動揺したように話し合い、一人が代表して「理由を聞かせろ」とそう言った声を聞いたと同時に、ゆっくりとした動作で土下座をするのをやめて、芳樹は真剣な表情でこう話し始めた。
「貴方達が中学生の時です。僕の双子の弟はいじめられていました。
僕の双子の弟は、僕と顔が瓜二つなんです。だけど、性格だけは違って大人しく落ち着いた性格をしていて、読書が趣味でたくさんの本を読んでいたせいか、眼鏡をかけていました。
あまり運動が好きじゃない弟は弱々しく見えたのか、それとも何か気に食わない部分があったのかは違う学校に行っていたからわかりませんが、……弟はいじめられていたんです。
来る日も来る日もパシられ、理不尽な理由で殴られ、罵倒された毎日を過ごしていた弟は、いじめられていた四人の中学生に一斉に魔法攻撃をされ、生死をさ迷う状態でしたが今は安定していますけど、意識は取り戻さないまま……」
と、芳樹はそう言って言葉を詰まらせた。それと同時に先ほど全校徒生徒を代表して発言した男子生徒が、「それと何が関係あるんだ」とそう質問をした。
その質問を聞いた後、芳樹は殺気に満ちた真剣な表情でこう答えた。
「僕は弟をいじめた奴らに復讐しに来たんです。この四人にね……?」
と、そう言った後、芳樹は聞いていたこととは違った展開になったことに驚き、壇上に上がってきていた里中と石野達の方へ向き、睨み付けた。
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復讐しに来たと、時沢芳樹がそう言った瞬間、風紀室にいた人達の顔色が凍りついたようになった。
だが、私だけは真剣な表情を崩すことはなかった。……きっと、時沢芳樹はその時の真実を語るだけなような気がしてならなかったからである。
だから、風紀室から飛び出そうとした桜花先輩の手首を掴み、その瞬間に抵抗出来ないくらいに力が抜けていく彼を、私は自分の懐へと引き寄せるように抱きしめた状態のまま、時沢芳樹の出方をパソコン越しで探っていた。
恐らく、このパソコンを持ってきたのは七瀬であり、それを渡したのはあの人だろうから、時沢芳樹と取り引きをし、……物理的には復讐させないようにしているはずだから。
「……初めはドン底まで突き落としてやろうって思ってました。でも、ある人と喋ってわかったんです。僕の幸せまで奪いかねない方法で復讐すべきじゃないって。だから、全校生徒の皆さんにこの四人が過去に犯した、隠された罪を知ってもらうこそが一番の復讐になるんだってことを!」
と、時沢芳樹は高々と宣言した後、再び殺気に満ちた視線を四人に向ければ、ひきつったような表情を浮かべながら、顔色を真っ青にさせて石寺は言う。
「そうしたのは俺達だけじゃない! あともう一人、仲間がいた!」
と、石寺は必死に時沢芳樹に訴えかけたが、彼の表情からするとその必死な訴えは通じないことを、パソコンの画面越しからも私はそう感じていた。
「……知ってるよ、そんなこと。でも、彼を君らと一緒にしないでくれない?
僕の弟、時沢馨の日記にこう書いてあったんだ。彼はただ見ていただけで罵倒せず、殴りもしなかったと。それだけだったら、私は彼にも君らと同じように復讐してたし、実際に彼に会うまでは復讐するつもりだったんだけど……。
気づかなかった君らと違って? 彼はね、三時間も制服が泥まみれになるのも構わず、土下座して謝っていた! 僕に殴られても甘んじて受け入れてくれた!
刑事さんがつい最近教えてくれたから、最近まで知らなかったんだから、君らはもっと知らないだろうけど……、彼は二年間留学していた訳じゃない、親の力でなかったことに君らと違ってちゃんと罪を償っていたんだ!
それを彼が望んでもいないのに、親が勝手になかったことにしただけで彼はちゃんと罪を償っていたんだ! 君らと同じにするな、彼は捕まるのにも関わらず馨を助けるために救急車を呼んでくれた。彼がいなかったら馨は……、死んでいたんだって刑事さんから聞かされた! 僕と会わないように、彼が毎日馨のお見舞いだって来てたことも」
と、そう叫ぶように言った後、時沢芳樹は壇上から飛び降りる勢いで階段を駆け降りた後、安藤千歳に向かって駆け寄り、勢い良く抱きついた。
……その瞬間だった。
一瞬で二人の姿は消えた。そして、それと同時に残された一枚の手紙。
『この二人は、私が怪盗としての役目の最後。時沢芳樹、安藤千歳は完璧と呼ばれたこの私が盗ませて戴きます』
そしてそれと同時に警察のトップが代わり、警察官のあり方が変わった。
◇◆◇◆◇◆
日和兄さんと七瀬は、あの出来事の次の日から付き合うようになった。
それから私はと言うと、時折桜花先輩に風紀委員の仕事を頼まれるようになった。それくらいはいいかなって思い、手伝っているのだが……、最近彼を見るとドキドキと胸が高鳴る時があるのはどうしてだろう? と、悩み事が増えた今日この頃である。
と、そう考え込みながらバイト先への喫茶店に入れば後輩に抱きつかれた。
「夜篠さぁーん! お疲れ様ですー。今日はサックスふかないんですかぁ?」
と、そう言う後輩に、
「今日はね、接客の方だから演奏はしないよ。だから、そろそろ私から離れてくれないかな? 芳樹?」
そう言えば芳樹は、
「その名前で呼ばないで下さいよぅ、誰が聞いてるかわからないですからぁ」
と、そう言った後、にこやかな表情を浮かべながら芳樹は抱きついてくるのを止めたと同時に、若干疲れた様子を見せた私に千歳さんが代わりに謝った。
「すまん、芳樹が……」
あれから行方不明になってから以降、ここで彼らは働いているのだ。
そうそう、あの四人は日向学園を自主退学をし、それから何をしているかは不明である。……いや、日和兄さんから聞けばわかるのだろうが、聞かない方が良いような気がして聞いていないと言った方が正しいんだけどさ。
復讐の華を散らす、この話は完結です。
次の話は現代ものです。




