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復讐の華を散らす10

今回の話は三人称から、最後少しだけ主人公視点へと戻ります。

「は、はは……。どう言うことだよ、コレ! 嘘だろ、頼むから誰か嘘だって言ってくれッ……!」


 と、時沢芳樹は図書室で一人、真っ青な顔色をしながら、今朝送られてきた手紙を読んだ後、誰もいないはずなのに「嘘だ」と言う声を求めて、弱々しい声でそう言った。その声はまるで、本当は復讐なんてしたくなかったのに……と、そう悲鳴を上げているようだった。

 時沢芳樹は思わぬ真実を、思わぬ相手から手紙で伝えられた。

 が、時沢芳樹の決意は頑なだった。

 ――たくさんの人を巻き込んだのだから今更、この復讐を止める訳にはいかない。“アイツ”が味わった苦しみを……、奴等も味わうべきなのだから……!

 と、時沢芳樹はそう考えながら図書室の壁へと勢い良く殴り付けた。


 その時だった。

「いけませんね、図書室の壁を殴りつけては。物に八つ当たりをしてはいけませんよ、そんなことよりもそんな真っ赤な手をさせていれば……、安藤千歳(あんどうちとせ)くんを悲しませてしまいますね。

貴方が傷付けば、彼はどれだけ悔やむことか……私には想像が出来ません」

 と、ライトグレー色のタキシードを着た怪盗が、時沢芳樹の目の前に現れ、上品さの中に色気が潜む微笑みを浮かべながら、穏やかな声でそう言った。


 時沢芳樹は直感でわかってしまった、この男は「完璧」と言う通り名で有名な怪盗であることを。

 ――そんなことよりも何故、千歳さんの名前をこの怪盗が知っているんだ。

 と、時沢芳樹はそのことに焦っていた。……自分が何をしようとしていたのかをバレるよりも、千歳が側からいなくなることの方を恐れていた。その想いは勿論、無自覚な想いであったのだが、そんな些細な変化でもこの怪盗が見逃すはずもなく、揺さぶるかのようにこう話を続ける。


「風の噂で聞きましたよ。貴方、あの“四人”に復讐をしようと企んでいるようですね。ああ! 私としたことが間違えてしまいました、正しくは五……」

 その続きを話そうとした瞬間、この場所は静を好む図書室だと言うのに、冷静さを失った時沢芳樹は思わず耳を塞ぎたくなるほどの大声でこう言った。

「違う! あの人は、あの人は……!」

 と、そう言うだけで、時沢芳樹はその先の言葉を言おうとはしなかった。

 そんな時沢芳樹の様子を見て、上品さを何処かへと隠し、腰が抜けそうなくらいに殺気の混じった真剣な表情を浮かべながら、穏やかな声なはずなのに何処か、怪盗は声に淡々とした雰囲気を感じさせながら、こう言った。


「君は親愛する弟を殺されかけ、復讐するためにこの学園に来たんですよね?

全てはあの五人を、弟と同じ目に合わせるために。自分の人生を投げてまでも、自分の弟がどんなに苦しい思いをしていたのか、それに気づかせるために。

だけど、予想外のことが起きたのですよね。安藤千歳は、貴方が転入してきた前日の夜、大雨が降り、地面が泥の状態だったのにも関わらず、貴方に土下座して謝り続けたのでしょう? その後、どんなに貴方に殴られようと……、それが自分が犯した罪の重さなのだと甘んじて受け入れた。それは貴方にとっては予想外のことだった。

だから、貴方はこう言った。僕は罪を暴くために、罪を背負うことにした。この罪を償い終わった時、君は僕の居場所になれと。どんなに殴られても真っ直ぐ見つめてきた安藤千歳に与えられた、唯一の“命令”だったのでしょう?」


 と、怪盗がそう言えば、時沢芳樹は唇を噛みしめた。その仕草は、その通りですと認めていると同然で、あまりに素直な反応を見せるため、怪盗は上品にクスクスと遠慮なく笑った。

 そして次の瞬間、一瞬で先ほどの表情へと戻り、こう言った。


「そして今日、君は安藤千歳だけは罪を償っていることを知った。

そして今日、君は安藤千歳があの場にいなかったら親愛する弟は死んでいた可能性が高いことを知った。

そして今日、君は安藤千歳が望んでもいないのに二年間、刑務所に居たことを親が自分の名誉のためだけに、本人の意志を尊重しないで勝手に海外留学をしていたんだと言う理由で“なかった”ことにされたことを知った。

そして今日、君は親愛する弟を殺しかけた犯人の犯した罪を、なかったことにした組織の正体を知った」

 怪盗の、まるで追い詰めるような言葉使いに思わず時沢芳樹は戸惑いの表情を見せた後、……一歩だけ無意識的に後ろに下がってしまってしまう。

 そんな時沢芳樹の様子に、殺気の混じった真剣な表情を影に潜め、再び上品で穏やかな表情を浮かべた後、怪盗は穏やかで優しい声でこう言った。


「――取引をしませんか、時沢芳樹さん」


◇◆◇◆◇◆


 期限つきではあるが、風紀委員になり一週間が過ぎてわかったことがある。

 桜花先輩は、先天的にあまり魔法が得意な体質ではないことである。

 桜花先輩は大体、問題の生徒が手を出してきた場合、魔法ではなく、棒術で対処してしまうことが多いみたいだ。ちなみに棒術の実力がどのくらいかと言うと恐らく、師範並だろう。


 だが、何故だろうか?

 風紀委員になってから一週間、私は魔法使いとしての実力はなかなかなものだと言われたことがあるのに、未だに桜花先輩と共に行動しているのだろうか?

 まあ、別に桜花先輩が嫌いな訳ではないのだけど、そろそろ二手に別れた方が仕事量も減るのではないか? と思い始めた今日この頃ではあるが、何故それを提案しづらいと思うのだろうとそう悩んでいる、最近の私だった。



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