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復讐の華を散らす8

 七瀬が来たのは、桜花先輩が眠ってから四十五分が過ぎた頃のことだった。

 起こすのを躊躇うくらいに、気持ち良さそうに眠る桜花先輩の様子を見て、七瀬は驚きの表情を浮かべていて、そんな様子に戸惑いながらも隣で眠っている彼を起こそうと身体を揺らせば、寝起きがあまり良くないのか、まるで唸るような声を出しながら、私の首に腕を絡ませるように抱きついてくる。

 あまりに寝起きが悪いから、私は桜花先輩の耳元でこう囁いてみた。


「おはよう、桜花」


 いつもより少しだけ低くて、甘さを含んだ穏やかな声を意識して。

 そう囁かれた桜花先輩は、抱きついたままの状態で固まっていたため、思わず頬を撫でてみれば、我に返ったのか一気に頬が朱に染まっていった。

 そんな桜花先輩が微笑ましくて、口元が緩みそうになるのを堪えていれば、私の首に腕を絡ませるように抱きついていた状態から、物凄い速さで離れていくものだから、堪えていた笑みが思わず溢れてしまう。

 七瀬は七瀬で、何故か真っ赤に頬を染めたまま、こう言ってくる。


「夜篠はやっぱり、あの人の弟だ。間違いない、あの人と同じ血が流れてる」

 何、当たり前のことを言っているんだとそう考えていると……、自分自身に意識を向けるために七瀬は一回咳をした後、続けて淡々とした口調でこう言う。

「時沢芳樹のことはあの人が何とかしてくれるらしいよ。何か……、桜花先輩の話を聞いて解決の道標を見つけたとか言って、どっかに行っちゃってさ、何をし始めるのか聞き忘れちゃってさ……」

 と、そう言った七瀬の表情はポーカーフェイスだった。……その表情を見て、日和兄さんよりも長く側にいる私は、何も教えてくれなかったことに拗ねているんだなって察した。

 滅多に見せないその表情を見て、本当に日和兄さんのことが好きなんだなってそう思っていれば、七瀬はまるで独り言を言うかのように小さな声で、何を言っているかは聞き取れないが、文句を言っているんだろうとは想像出来た。

 七瀬が可愛らしく頼めば、直ぐに教えてくれるよと声に出さないものの、内心で考えながら同時に、どう日和兄さんから話を反らそうかと考えた後、私は穏やかな声でこう言った。


「時沢芳樹の情報についてはあの人に任せれば良い、そんなことよりも私は今日、バイトがあって遅れる訳にはいかない。早く、“期限つき”の風紀になることについての話し合いをしようではないか、ね?」

 と、私がそう言えば、七瀬は独り言を呟くのをやめ、「それもそうだね」とにこやかに笑いながら、“期限つき”の風紀についての話し合いをすることについて同意してくれる。

 そんな七瀬を見て、何で私にはこんなに素直なのに、恋愛的な意味合いで好きな日和兄さんの前では素直になれないのかね? とそう考えながら、上手く話が反れたことを微笑むことで悟られないようにする。


 あの人の本業は怪盗、盗むのを得意とする。目的の物を盗むためなら……、どんな手段を使う。でも、その奥には不器用な優しさがある。それに気づかなければ警察は、永遠にあの怪盗の正体を知ることは不可能だろう。

 あの人が盗もうとした物を盗まなかった時は、家族への思いが形が違えど籠っていた時なのだから。



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