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復讐の華を散らす4

「夜篠が言うならそうするけどさぁ〜。そっ、そしたら美里先生に逢いに行けなくなっちゃう……」

 と、小声でボソボソ、七瀬はそう言う。

 ――あの人は、ここまで七瀬をどうやって惚れさせたんだか。そう考えながらも、クスクスと笑いながら、私は耳元で囁くようにこう言ったんだ。

「心配しなくても大丈夫だよ、日和兄さんから逢いに来てくれるよ。

七瀬が思っている以上にあの人は、七瀬のことを好いているんだから。

……照れちゃうのもわかるけどさ、たまには素直に甘えてやって? あの人は“気に入っている人物”に甘えられるのは嫌いじゃないんだよ。むしろ、あの人にとってそれが生き甲斐なのさ」

 と、そう言ってやれば、不機嫌そうな顔が一変し、七瀬は頬を朱に染めた。


 私はそんな七瀬にクスリッと笑った後、直ぐに真剣な表情に一変させた。

 私は何よりも面倒ごとが嫌いである。だから、どう巻き込まれることから逃れようかと考えた結果、それは極めて難しいだろうと言う結論に至った。

 ……なら、最初から巻き込まれると予想がついているのであれば、身の安全が確かなところにいた方が、過保護でブラコンなあの人も安心するだろう。

 人見知りな七瀬が珍しく、私や日和兄さん、生徒会長以外の名前を呼んでいることに驚き、その人がどんな人物なのか、興味を抱いてしまった。


 だから、私は小声で、

「私は面倒ごとが嫌いなのは知っているだろう? でも、今回は免れそうにもない。……確か校則で、誰にも予想出来なかった予想外な出来事が起きた時、生徒会権限を持つ者からの推薦があることを条件に、生徒会や風紀委員会のみ“期限付き”で生徒会役員、もしくは風紀委員になることが出来る……、そんな校則あったよな?

生徒会は表立って活動するのが一般的だから無理だ、だから風紀委員会に“期限付き”で手伝わせてくれるように言ってくれないか? きっと……、風紀委員会も“猫の手を借りたい”ぐらいに人手不足なんだろうと思うし?」

 と、そう言えば七瀬は、心配そうな顔をしつつも引き続き、周りに聞こえないくらいの小声で、こう言った。

「……わかった。桜花先輩にそう言っておくし、夜篠から説得するよりは僕から説得した方が、あの人も納得する確率が大きいだろうし、会う機会があればそう言う風に言っておく」

 やっぱり、何処か複雑そうな顔をしつつも、桜花先輩とやらを信頼しているのか、“期限付き”での風紀委員になることを七瀬は納得してくれたようだ。

 ただし、七瀬は……、

「でもね、風紀委員会に本当に所属することは反対だからね! わかった?」

 と、面倒ごとが嫌いだから風紀委員会に所属しないことを分かりきっているはずなのに、元の元気を取り戻したのか、しつこくそう念を押してくる。


「私は面倒ごとが嫌いなのは知ってるだろ? 風紀委員会に所属する訳ないじゃないか。朝の持ち物検査だってやらないといけないんだろ? 私、低血圧だから早起きは無理だし、時々遅刻しちゃうからな。正当な風紀委員としては駄目なお手本になるしさ」

 と、引き続き小声で七瀬にそう言えば、渋々と言ったように念を押すことをやめた七瀬は、うんざりしたような表情を浮かべながら転入生を眺めていた。

 ――こんな七瀬の様子を見ているとすると、あの人が決着させるまで短くて三ヶ月、長くても半年ってところか。……それに弟である私が面倒ごとを好まないことをあの人はわかっているし、“予想外”の事実が出ない限りは恐らく、長引くことはないだろう。

 ……まあ、もし時沢芳樹が“家族”のためにそう行動しているとなれば、そうさせた原因を作った者達を正当な手段で罪を償わせるのは確実だ。

 あの人は勘違いされやすい。完璧だけど、不器用な人だから無関心なような人に見えるかもしれない。本当は誰よりも人の傷の深さに気づきやすく、思いやりのある人なんだ。


 いつもなら多少なると手伝うが、今回はしない。今回だけはあの人だけでやった方が上手く解決しそうだ。だから、今回はなるべく巻き込まれないようにすることが、何よりも日和兄さんの手助けになると思うから。

「……七瀬、あんまり時沢芳樹に関わらないようにしろよ、良いな」

 と、小声で七瀬にそう話しかければ、

「……わかってる」

 そう未だにうんざりさを感じる声で、そう返事が返ってきたのだった。



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