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先輩と僕1

 強面で、不良と間違えられる地毛が金髪で、小柄なこの男子生徒は佐川由衣〈さがわゆい〉、高校一年は良く不良と間違えられるため、筋トレは欠かせず、空手と剣道だって習っているが、余分な筋肉がつきすぎてない体型で、所謂“細マッチョ”だ。

 人とは見た目で判断しては見えないものがある。それは由衣にも当てはまることであり、喋りかけて見なければその人の良さがわからない時だってある。

 由衣は動物が好きで、甘党だ。辛いものは苦手だし、お化け屋敷もホラー小説、映画も大の苦手。奥手で臆病だけど……不器用な優しさを持っている。

 由衣の良さを、家族以外にもわかってくれている人がいると本人はまだ知らない。……ましてや、その自分の理解者が苦手だと感じている先輩だとは。


◇◆◇◆◇◆


「由衣ちゃーん」

 と、僕の名前をからかうように“ちゃん”付けする先輩がいる。

 周りの生徒達は、なんて命知らずなんだろう……と小声で喋っているが、僕はそのことぐらいで殴るほど短気ではない。

 周りが、この容姿のせいで怖がることが当たり前だった僕は、名前を“ちゃん”付けする先輩に戸惑いを感じていたし、……苦手意識だって持っていた。

 素直じゃない僕を、先輩は包み込むような優しさで包んでくれる。

 そんな先輩、鷺沼優都〈さきぬまゆうと〉先輩が僕は苦手だった。


 先輩に絡まれるようになって、何故か不良に絡まれなくなっていた。

 何年喧嘩を売られ、殴られれば仕方なく買っても慣れることのなかった、殴った後の不快感。それを感じなくなったことで、僕のストレスは半分になった。

 先輩は確かに苦手だ、……だけど嫌いな訳ではないと言えるはず。

 だって、先輩に絡まれても苦手意識は抱いても、ストレスはたまらない。……見た目じゃなくてちゃんと、僕自身を見てくれているのが分かるから。

 そのことに対する感謝の気持ちを……、また言えることは出来なかった。


 僕はまた、“由衣ちゃん”とそう呼んだ優しい先輩の声に答えることはなかった。……明日もまたそう呼んでくれると、そんな甘えが内心の何処かにあったのかもしれない。

 先輩は次の日から、僕を“由衣ちゃん”と呼んで絡んで来なくなった。


◇◆◇◆◇◆


 淋しい……。あれだけ苦手だって感じていた先輩の声が聞こえて来ないと、僕はそう感じていた。

 ――きっと、先輩は素直じゃない僕に呆れて話しかけるのをやめたんだ。

 そう思うと、ポロポロと涙が止まらない。本当は気づいていた、……僕は先輩に苦手意識なんて持っていないことを。

 それなのに知らん振りした。今は後輩としての好意かもしれないけど……、いずれ先輩に恋をしてしまうって分かっていたから。

 ここまで優しくしてくれて、告白したら急に冷たい目をされたら……、僕は絶対に立ち直ることが出来なくなってしまう。だから、まだ後輩としての好意のうちにあの“先輩”には苦手意識を持っていると、自分の心を騙そうとしてた。


「先輩、……優都先輩」


 たった一週間、先輩のいない世界は……とても色褪せていた。

 一線をひくのを止めるからもう一度、もう一度だけその優しい声で僕の名前を呼ばれたら……、色褪せた世界は元に戻るのだろうか?



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