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恋愛ものっぽい話

さようならなんて、いわないで

作者: 雲雀 蓮




世界を見回す。



こんなにも大きな籠の中に僕はいたんだ、と。

叫びたくなった。


しなかったけど。



馬鹿みたいに高い場所に立って、多くを見下ろす。



蟻を観察しているみたいな気分になる。






僕は、僕だけは。


今日この日、特別な動きをしている。



学校に行くわけでも、

会社に行くわけでもなく。

生活の買い物をするわけでもない。



自分を殺す前に、世界を見回す。



殺害場所に高台は選ばない。

下に人がいたら困るから。





僕が殺したいのは、僕自身だけ。

他に巻きこんでしまいたい人はいない。


家族も友人もいたけれど。


彼らにはまだ生きていてほしいから。



ううん、違う。


彼らなんかを連れていきたくないから。





僕は、ひとりぼっちでいい。

ひとりぼっちがいい。





そうすれば、他者との違いに泣くことはないから。












ちらり、と視界に映った黒髪。

まるで彼女が僕を探しに来ている気がした。



そんなこと、あるわけないのに。



僕は、何も言わなかったんだから。

きっと彼女は、何も気づかないまま。

今頃お昼ご飯の仕度をしているんだ。


追いかけてきたけれど、あの後車に遮られた。

きっと、諦めて家に帰っているはずだ。


あんなにもドライな性格の人なんだから。




「見つけたっ!」




背中に衝撃。

口からは空気が押し出された音がする。




「探したんだから」




そういう彼女の体は震えていた。

息を切らして、汗をうっすらかいている彼女。


寒さじゃないその震え。




「ごめん」




彼女のことを、愛していた。

いや、大好きだった。


だから嫌われるのが怖かった。



ただ、喧嘩しただけだった。



でも彼女の言葉が、僕そのものを否定しているような気がして。







「私こそ、ごめん」







だからお願い。

嫌いにならないで。





僕には、君しかいないんだ。

いなくならないで。

僕の傍に居て。




僕だけの、傍に居て。





そんな願いをも打ち砕くような、昼の鐘がなる。





鐘の音が響けば、響くほど。

彼女から与えられるものが消えていく。





抗おうと後ろを振り向いた、けれど。

そこには何もなかった。









振り向く一瞬間の、彼女の「さようなら」。


それだけが、鐘の音よりも耳に遺った。










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― 新着の感想 ―
[一言] さようならが、いいたくて を読んでから、こちらをまた読み返したら 話がリンクしていて「マジかッ」ってなりました。 なんか、作品の質がすごく良くて、僕も見習わないとな、なんて思いましたよ。(^…
[一言] なんか……じーんときました。感動というかなんというか。
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