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小話?正し屋のバレンタイン

季節物です。

あまり、その、うん…大したことはないですけどよければ。



 「あら、優ちゃん。いらっしゃい。うふふ、私のお店にくるってことはお目当てはコレね?」





乙女趣味全開のレースやら家具、小物が置かれているこの店は一見雑貨屋にみえる。

和風の建物が多い縁町えにしちょうの中でも異質の部類に入るファンシーなこのお店、実は期間限定だったりする。




「こんにちわ!お久しぶりです。えーと、とりあえずソレを20個で!あと、あれから調子はどうですか?」



「お陰様で毎日快眠よ。流石正し屋さんよねぇ~。ホント、相談して良かったわ」





 頬に手を当ててうっとりと目を細め、30代前半に見える女性がため息混じりに息を吐いた。


思い出しているのはほぼ間違いなく須川さん―――我が上司様のことだろう。

『正し屋本舗』といえば『須川 怜至』の名前が間を置かずに出ててくる位だ。

かなりの美形である為、依頼主が女性ならほぼ間違いなく頬を染めることになる。




「でも、本当にチョコレートまであるんですね」



「夫が昔から視える人でね。亡くなったお義母様がチョコレート好きだったの。それで、元々ショコラティエを目指してたのもあって“試しに”作ってみたらちゃんと食べられたみたい」



「須川さんから聞いたんですけど“幽霊用”の食べ物や服を作るのは凄く難しいんだっていってましたよ。時には神様の口にも入るものだから厳選されたものしか使えないし、作る人の気持ちが一番大事だって」





 私が買ったのは、シロ達用のチョコレートだけじゃない。

縁町を護ってくださっている十二神に雲仙岳の山神様……他にも知り合って色々と計らってくれた神様や霊たちに感謝を込めて。

神様の口に入るものは特に、感謝や前向きな気持ちが込められているものが喜ばれる。

少しでも、一瞬でも、負の感情が入ってしまうとまずくなるのだとか。

須川さんが指定してきたこの店は神々の間でも高評価を付けられている数少ない店だ。


それを知ってか知らずか「そうなの?道理で材料集めに時間がかかる筈よねぇ」と納得したよに笑う彼女をみて口元が緩む。

きっと、こういう奥さんがいるからこそ美味しいお菓子が作れるんだろう。




「今、包んでしまうからお店の中を見ててね。試食したいのがあったら遠慮なく試食して頂戴な。どれも夫と息子の力作なの」



「はい!でも、空いてるんですね…もっと混んでるかと思ったのに」



「ここが本店だって知ってる人間は本当に少ないの。表通りにある店が本店だって思われるのよね。表通りの店舗の方が広いけど、種類はここの方が多いのよ」



 鼻歌を歌いながら包装し始めた女主人を眺めて、室内へ視線を巡らせる。


言葉の通りガラスケースだけではなく、可愛らしく包装されたチョコレート達。

見本と試食があるので手短なところから口に入れる。

…帰りに最近できたアイスクリーム屋さんに寄って買うと思ったけど、縁焼えにしやき屋さんで新作食べよう。


 縁焼えにしやきっていうのは、他の地域で言う今川焼きに似たもの。

今川焼きよりも大きさが2周りくらい小さいんだけど、皮と具の比率が神がかってる美味しすぎる食べ歩き甘味だ。

味は季節に応じて色々あるんだけど、もうすぐ柚子クリームがなくなるから食べ納め。




「ふぉ!これ美味しい!」



「どれ?ああ、これこの店だけで扱ってる超限定商品なのよ。和の素材を取り入れたチョコが六種類入ってるの。ちょっと値が張るんだけど、須川さんも気に入ってくれると思うわ」



「……なんでここで須川さんの名前が?」



「え?!だ、だってあげるんでしょう?須川さんに」



「別にあげなくても色んな所から貰ってきますよね?ほら、あの顔だし中身も私以外にはいいし。山のようにチョコあっても困るかなぁって」




 依頼人から知人、はたまた見知らぬ人から郵送・宅配・手渡し・置き土産的にチョコを渡されるんだろう。

嫉妬?しませんよー。

チョコが多かったら多分、お茶菓子として私の口に入ることもあるだろうし。

むふふ、と思わず思い出し笑い。




「相変わらずなのねぇ…須川さんが可哀想だわ。あんなにわかりやすいのに」



「え。そんなに此処のチョコ食べたいって言ってたんですか?」




「……優ちゃん、それ買っていきなさい。ちゃんと須川さんに「バレンタインのチョコです」って言うのよ。後は…そうね、他に生きている人で男の人に渡す予定ある?」




奇妙な聞き方だけど、私にとっては分かりやすい。

少し考えて「商店街のお世話になっている人たちには渡す」と伝えると何故か彼女は満足そうに笑った。

その後、進められるままに須川さん用と自分用のチョコを購入し、ついでに経費で商店街やお世話になっている人に配る分のチョコレートを購入。


 『正し屋本舗』から利用してくださった感謝の気持ちを伝えて、困ったことがあれば相談して欲しいという手書きの手紙を添える。

チョコレートはできる限り手で渡して、遠いところには当日に届くよう手配をする。




 こういうイベントや行事を大事にしているのは須川さんの方針だ。

なんでも、こういうちょっとした気遣いが後々役に立つこともあるとか。






***





「バレンタインのチョコを友達以外にあげるのって久しぶりかも」




チョコレートを配達し終わって、神様方にも全て配り終わり…残ったのは自分用のチョコレートと須川さん用のチョコ。


肝心の上司様はまだ帰ってきてないので戻ってきてご飯を食べ終わったら渡す予定だ。

その後お茶を入れて各自自分のチョコを食べてバレンタイン終了。

明日から当分は須川さん宛の大量チョコレートを有難く食べていく。

手紙やなんかはちゃんと控えてあるからホワイトデーのお返しは万全。

量が量だから一斉に配達をお願いすることになる。


 晩ご飯は、食後がチョコだから洋食にした。

定番だけど突如食べたくなったオムライスと野菜たくさんの野菜スープ、サラダ。

それだけじゃちょっと寂しいのでブロッコリーとジャガイモ、ほうれん草入りのチーズ焼き。


 電子オーブンでチーズ焼きを作成してオムライスのご飯を作り終わったのを見計らったように引き戸が開けられる音がした。

慌てて玄関に顔を出すと須川さんが肩や頭にうっすら積もった雪を払っていた。

手には、紙袋が握られていて―――…その中には沢山のチョコレートらしき包み。



「おかえりなさい!もうちょっとでご飯できますよ。今日は特性ふわとろオムライスです!」



「オムライスは久しぶりですね。楽しみにしていますよ。ああ、これをどうぞ。私は目録に追加しておくのでチョコレートはあなたの好きにしてください」



「いやったー!って、うわ、これ有名なショコラティエが作ったヤツだ!すっごい高級チョコな上に限定商品ですっ」




 須川さんは対して興味がないようで他人事のように「そうですか。よかったですねぇ」で終わり。

まぁ、これで甘味好きなら私の元にチョコが来ることもなかっただろうし感謝だ。

とりあえず、チョコは一旦置いておいて…夕食の準備に戻る。


 須川さんやシロたちと食事をして食後のお茶を出して、チョコを買ったことを思い出した。

いや、チョコをもらったのが嬉しかったのとお腹いっぱいになってすっかり忘れてたんだ。

悪気もなければ他意もないです。




「須川さん、須川さん!はいっ!」



 早速買ったものを手に、事務所兼応接室に戻ると優雅に玉露を飲みながら古い文献に目を通している須川さんにそのままそれを差し出す。

いや、何か言った方がいいかなぁ?とも思ったんだけど、余計なことは言わずに渡すことにした。

 店主さんが妙な気合を入れたので須川さんが好みそうな和風の包装になっております。




「―――――……これ、は」




 笑顔でさらっと「ありがとうございます」と言われると思ったんだけど、いつまでも返事がない。

なんだろうと献上の姿勢――― 簡単にいえば両手を突き出して頭を下げた状態 ――― から顔を上げてみた。

すると、滅多に見ることのない、純粋に驚いた顔をして私の手の中にある箱を見つめている。



「す、須川さん?」



「!すみません…これは、その優君が?」



「須川さんへのバレンタインチョコです。いらないなら私が食べますけど」



このチョコは美味しかったし「気持ちだけ受け取っておく」と言われたら喜んで明日のオヤツに回す予定ですとも。

うふふ、これも自分用に買ったけど美味しかったから何個でもいけるね!うん。

太るのはあれだけどその分修行に勤しめば簡単にカロリーは消費できる。



「い、いえ!ありがたくいただきます。ひとつ聞かせてください。その…優君、私以外に私用でチョコを渡しましたか?」



「?いえ。生きてる男の人に渡したのは須川さんだけです、けども」



「そう、ですか。それならいいのです」



ほっとしたように微笑んだ上司殿はキラキラではない、新分類の輝かしい笑顔を浮かべてそっと私の手から小さな箱を受け取った。

 添えられた大きいけれど綺麗な手にちょっぴりドキドキしたけど(手フェチなんです。ハイ)須川さんは私の様子などそっちのけで熱心に箱を眺めている。




「……須川さん、チョコ好きだったんですか?」



「嫌いではありませんよ。貴女から貰えたものなら尚の事です」



「(私からってことは、やっぱあの店のチョコが食べたかったのか。そうだよね、取りに行く店を指定したのは須川さんだもん)ええと、とりあえず…チョコ、食べましょうか」



「ふふ。そうですね、折角ですし頂きましょうか」




どこか幸せそうに微笑んだ上司と一緒にさっき貰ったばかりのチョコレートを台所からもってくる。

少なくなったお茶を足そうとしたんだけど、須川さんがニコニコ笑いながら「今夜は私が淹れますよ」と微笑んだ。

…次の日も須川さんの機嫌はよくて、午後からは見回りという名の町内散歩と買い物をした。






「須川さん、あのー…もう、ホントいいんで」



「そう、ですね。衣装箪笥にもう入らないでしょうし…今度は家具を見に行きましょうか。確か本棚も埋まってきたといっていましたよね」



「そうだ!買い物はもうこの辺にしてご飯食べに行きませんか?ねっ!」



「ああ、もうそんな時間ですか。でしたら、行きつけの――――…」



「ちょっと待った!もしかして高級料亭とかいいません、よね?」



「料亭が駄目でしたら、知人がやっているレストランにでも行きましょうか」



「……はい。何かもういいです」




 こんな感じで妙な気苦労は終わりませんでした。

レストランは美味しかったですけど、ひと皿で万単位のお金が飛んでくとか…須川さんの金銭感覚には多分一生慣れない。


うん。慣れたら終わりな気もするし、今後も気をつけマス。




 SSのつもりが長くなった上に上手いことオチてない罠。


とりあえず、誤字脱字がないことを祈ります。南無。

読んでくださった方、本当にありがとうございました!

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