遺された者達は
命は、尊い。
だが、それはあまりにも、脆い。
あっけなく崩壊し、消えてしまう。
初雪が舞う曇天の下。
「綺麗だね……」
全身を黒衣で包んだ少年が、呟く。
「うん。……すごく、綺麗」
隣には、少女がたたずんでいた。
雪が、黒衣に舞い落ちる。
それはすぐに、溶けて消えてしまった。
「おじいちゃんにも、見せたかったな」
「うん。でも」
少女が、笑う。
儚く脆い、小さな灯火。希望。
「きっと、おじいちゃんも見てるよ。上から『綺麗だなぁ』って」
「うん。きっと、そうだね」
少年も微かに、笑う。
だが、その瞳は暗い。
少女の持つ小さな光では、少年の瞳の底を照らし出す事は、出来ない。
しばらく、黒衣を着た2人はじっと雪を見詰める。
「はい。どーぞ」
差し出されたハンカチ。
少年はそれを、不思議そうに見詰める。
「使うでしょ?」
やっと、その意味に気付いようだった。
少年がハッと目を見開く。
だがすぐに、少女に微笑みかけた。
「ありがとう。鈴香は、優しいな。でも、大丈夫だよ」
少年が、服の袖で目元を拭う。
また、少女に笑いかける。
その瞳の奥は、暗い。底のない暗闇。
「お兄ちゃんも、すごく優しいよ」
「……おじいちゃんも、優しかったね……」
「うん……」
雪は、降り続ける。
少年少女は何を思って、初雪を見詰めるのか。