Dog Fight
早朝の薄暗い某国政府軍の航空基地は、反政府軍への大規模作戦のため、地上要員やパイロットが慌ただしく走り回っていた。
「壮観だな。」
次々と離陸していく戦闘機を見上げながら、耳の垂れた犬型獣人の傭兵パイロット“ルカ”は声を漏らした。
駐機場には焼けた燃料のにおいが立ち込めている。
「もうすぐウチらも発進だ。準備出来てる?」
愛機の“F-16”戦闘機をチェックしていた狼獣人“テル”が、背後からルカに声を掛ける。
「もちろん。・・・ただ、この内戦いつまで続くんだろうな。」
テルが隣に来ると、ルカは溜息混じりに言った。
「辛い?」
「いや、単に飽きてきた。」
「ああ・・・、ウチはもう少し続いて欲しいね。」
あっけらかんと答えたルカに、テルは呆れ顔をするとそう続けた。
「あれ?テルってそんなに好戦的だったっけ?」
「違う違う。まだ払いが残っとんのよ。」
そう言ってテルは背後の鮮やかな緑色をしたF-16を親指で指す。
「なるほどな・・・」
納得してルカは頷いた。
「よし、時間だ。搭乗開始!」
「ターコイズ2、了解。」
腕時計見たテルが指示を出すと、ルカはコールサインを使い敬礼する。
そして、ルカは自らが乗る青い戦闘機“FC-1”へと向かった。
作戦空域の山岳地帯上空を飛行する緑のF-16と青いFC-1。
それぞれ操縦桿を握るルカとテルの任務は、後続の爆撃隊の露払いである。
「司令部より緊急入電!」
突然、管制官が発し、無線を聞いていた誰もが耳を傾ける。
「反政府軍と停戦協定が結ばれた。作戦は中止。全機、直ちに帰投せよ。」
予期せぬ命令に暫し沈黙するが、すぐに各チームからの返答が始まった。
「ターコイズ2、聞いた?」
テルからの確認が入る。
「ああ、聞いた。」
「了解。・・・レゾナンス、こちらターコイズリーダー。ターコイズ隊、帰投する。」
ルカの返答を聞いたテルは、管制官を呼び出し報告する。
その瞬間、FC-1のコクピットに警報音が響く。
「ミサイル接近!回避!」
ルカは叫ぶように報告し、フレアをバラまきながら急降下した。
「注意!敵の機影が一、高速で接近!」
警報が消えるとすぐ、管制官からの無線が入る。
「ターコイズ2の正面!」
正面を見ると遥か遠くに黒い点が現れ、すぐに戦闘機を形作る。ルカは操縦桿を横に倒し回避機動を取ると、デルタ翼を持つ真っ赤な戦闘機“J-10”とすれ違った。
「・・・!」
それは大分前にやり合って以来、幾度となく空で執拗に絡んでくる機体だった。
「最後に会えて嬉しいわ。シャオロン。」
楽しそうな女性の声が、FC-1を別名で名指しした。
J-10のパイロット“ホンファ”だ。彼女は敵のエースで、見た目は可愛らしいパンダ獣人の女性だが、飛び抜けた操縦技術と攻撃性は傭兵界隈で有名だ。
「ホンファ・・・!」
「今日こそ決着を着けましょう。」
「あの、お二人。停戦ですよ?」
今にも戦闘が始まりそうな状況にテルが割って入る。
「聞こえなかったわ。行くわよぉ。」
その瞬間、ロックオンの警告が鳴った。
「クソッ!やってやる。」
ルカは瞬時に機体を急減速させる。
それによりJ-10はFC-1の前に飛び出すと、そのまま機体を右に捻り下降をした。
ルカも下降し追求する。
二機はもつれるように渓谷へ飛び込んだ。
狭い渓谷の中でルカはJ-10を追い、やっとの思いでロックオンしようとするが、すぐ山肌に遮られてしまう。
J-10がそれを嘲笑うように加速する。
「マジか・・・」
後に続きたいルカだが、これ以上の加速は危険だ。
離れていくJ-10が不意に上昇し空へ飛び出した。
ルカも操縦桿を引き空へ上がり、圧迫感から開放される。
「やっべ・・・」
開放感に浸るのも束の間、J-10は上空でループし機首をこちらに向けている。
「一騎打ちよ。」
全身の血の気が引く。しかし、身体はしっかりトリガーを引いていた。
砲口から機銃弾が吐き出され、同時にJ-10の砲口からも発砲煙が上がった。
そして、被弾により機体が揺さぶられ、計器類が音声や灯火で警報を発する。
後方を確認すると機体からは黒煙が上がっており、遠ざかるJ-10も黒い尾を引いていた。
「・・・ターコイズ2、被弾。空域を離脱する。」
身体に負傷がないことを確認したルカが報告する。
「了解、援護する。・・・ホンファ、これ以上続けるならウチが相手だ。」
テルから無線が入り、どこに居たのかF-16がFC-1の後方につく。
「こっちもこれ以上は無理よ。今回も引き分けね。また勝負をやり直しましょう。シャオロン。」
その通信を最後にホンファは沈黙した。
「二度とやりたくねぇよ。」
その後、ルカはテルの援護の下、無事帰還した。