短い髪の眼鏡の読書家の男
ひさしぶりに帰省した。
県外の大学に合格して、私ははじめてのひとり暮らし。
慣れない生活と新しい学業。
高校とは違う授業、必修科目に講義。
授業時間も高校とは違いとても長くなった。
慣れるのに少し苦労した。
ひとり暮らしは思ったよりも大変で、突然鳴るチャイムが怖かった。
詐欺だ、訪問販売ってやつだと私は部屋で息を潜めた。
慣れれば、どうということもない。
モニターを見て、自分が頼んだ心当たりがあればだいたい配達員だ。
心当たりがなければ翌日ポストを覗く。
不在通知が入っていれば、再配達を頼む。
何かの営業っぽいひとは全員無視する。
ひとり暮らしにも慣れて授業も問題なくついていけてる。
高校の卒業時に短く切った髪はまた伸びた。
母から『そろそろ一度帰っておいでよ』と電話があったのはそんな頃――。
『また図書館まで迎えに行くから』
「わかった。急がないでゆっくりでいいよ。じゃあ、今度の――」
そうして私の帰省は決まった。
電車をおりて、バスに乗る。
高校のときもこうだった。
最近物騒だからと、バス停から距離がある家まで歩いて帰るのではなく。
図書館前でバスをおりて、パート終わりの母が車で迎えに来るのを本を読みながら待つ。
パートが長引くことがよくある母はとても忙しいひとだ。
「ごめんね遅くなって」と母が私に言うことが多かった。
「キリがいいところまで読めたよ」と私はよく母に返していた。
帰りは図書館に寄る毎日。
本の続きが気になって、休日にも通っていた図書館。
本を借りることは一度もなかった。
私は図書館で本に囲まれて本を読むのが好きだった。
ひさしぶりにこの図書館に来た。
高校時代の思い出が詰まった図書館。
懐かしい、と思いながら立ち止まる。
まだあった、私が好きなシリーズ。
僕の図書館暮らしシリーズ。
僕という主人公の司書が、図書館でいろんなひとに出会う話。
ほのぼのしたり、しょんぼりしたり、いろんな気持ちになれるから大好きだった。
母が迎えに来るまで読んでいよう。
「あっあの! 席に座って、読みませんか?」
急に声を掛けられた。
短い黒髪の眼鏡の男性。
何故か真っ赤だ。
流行り病じゃないだろうなと身構える。
こうして私は大好きなシリーズのような体験をすることになったのだ。