最後の試練
「セレルギヴァ」
「はい師匠」
「お前に最後の試練を与えよう」
僕の魔術の師匠。
偉大なる魔術師グラリレアンが、僕に黒く小さな箱を差し出す。
黒い小箱にはひとつ、丸い穴が空いていた。
なんだろう、この穴。
僕が魔術師になる為の、これが最後の試練。
僕が不可解そうに黒い小箱を見ていると、師匠が長い白ひげを撫でながら言った。
「いいかセレルギヴァ。その穴を覗いてはならない。指なども突っ込んではいけない」
「はい師匠」
「一生だ」
「一生?」
僕は驚いて師匠を見上げた。
最後の試練なのに、一生?
「師匠、それでは僕はどうやってこの最後の試練に挑み合格をすればいいのですか?」
僕が聞くと、師匠は「もっともな質問だ」と深く頷いた。
「最後の試練は、一生涯続く。お前はすでに合格しているとも言えるのだ。その黒い小箱の誘惑に耐えられているうちは、合格なのだ」
「誘惑に、一生耐える……」
「ではなセレルギヴァ。達者で暮らせ」
くるりと僕に背を向けた師匠。
「ああ、そうだ。その黒い小箱の中では綺麗なお姉さんと可愛く献身的な女の子が裸で戯れているそうだ」
「えっっ?」
「その黒い小箱が開けば……いや。わしは何も言うまい。夜な夜な、ピチャピチャ、い、いや。わしは決して覗いてはいない……」
ごくんと僕は何かを飲み込む。
師匠はそのまま振り返ることなく消えた。
「あっ、もうキュートちゃんったら」
「お姉さま大好き!」
僕の耳に美しい声と可愛い声がどこからともなく、聞こえる。
魔術師への道は長く厳しい。
そういえば、師匠が毎晩何かを見ていたと僕は思い出した。
師匠は毎晩、見ていた。
「誘惑に一生耐えるのが、最後の試練……」
僕の手の中には、黒い小箱がある。
丸い穴が空いた、黒い小箱がある。
僕は、師匠のような偉大な魔術師に――。