深海人魚
ある時、淡い光に出会った。
出会った?
いや、目の前に現れたんだ。その淡い光が。
私は瞬時にその淡い光から距離を取った。
私の敵は光るものもいるから、それは条件反射だったと言える。
深海に光なんて届かないんだよ。
朝だろうが昼だろうが闇ばかりなんだ。
深海での光は、敵の罠でしかなかった。
私はそういう人生、人魚生か。だったんだ。
私がはじめて光を見た時。
綺麗でずっと見ていたくて、敵からすれば私はいい獲物だったことだろう。
まぬけで愚かな餌だったはずだ。
しかも弱い。
幼く全長も短く、泳ぐのも遅い。
私はその日全力で逃げた。
あんな痛みもはじめての体験だった。
私は幼かった。
それからも、何度も光に近づいては痛い目にあった。
ふらふらと、光を見ると近づいてしまう。
光は温かそうにも、私には見えるんだ。
光は綺麗で温かそうで――。
深海は暗く、冷たく――。
いつもいつも、真っ暗で、私は自分が孤独な理由もわからなかったから、光を見ると吸い寄せられるように近づいてしまっていた。
同族がいれば、叱ってもらえたのかもしれないけれど、私はひとりだった。
私が孵化した時には、兄弟も何匹か生まれていたと思う。
みんなたぶん死んでるけどね。
誰もいなかったし、私が孵化したとき最初に感じたのは血の匂い。
あれは私の両親や兄弟の血の匂いだろう。
ああ、そう考えれば、私は生まれた瞬間から逃げるばかりの人魚だ。
だから今、なんだかんだ私は生きているのだろう。
数年、か。深海では時間なんてわからないけれど、何度も食われそうになって逃げていれば流石に学習出来た。
光は駄目なものだって。
すっかり私がそう思い込むほど年月が過ぎた頃、迎えが来たんだ。
淡い光を放つ扉が目の前に現れた。
それこそ同族がいればね、「あの扉は迎えだよ」と、「きみは選ばれたんだ」と教えてもらえたかもしれない。
けれど私はずっとひとり。
ずーっと見ていたよ。
光の扉を。
私を食べようとしない、それを何度も何度も確かめてね。
あれが扉だと、私は何も知らなかったから、ずいぶんと時間がかかってしまったけれど。
私は陸に、光の世界に来れた。
だからね、休暇でも私は実家には帰りたくならないんだ。
行くなら温かそうなきみの実家がいい。
駄目かい?
別名書く予定の準主人公メモ




